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 カツカツカツと薄暗い廊下に足音が響く。


 場所は帝都王城の廊下だ。


「デュオ、盗賊団の奴等投獄完了したぜ」


 歩きながらそう告げるとデュオは歩みを止める。


「なら良い。やはりあのジルザールを逃がしたのは少々痛手だがな」


「仕方ねーっしょ。あのまま見て居たら善良な旅人の嬢ちゃんが怪我負っちゃっただろうし。成り行きとは言え、囮にしちまったんだから」


「それもどうかな。あのイリアと言ったか。早々に怪我を負うとは思えん。第一一度目の不意打ち攻撃を避けていたんだ。相当の実力者だろうと言うのは分かってただろうが」


 そうは言ってもよと何処か不満そうにクノーラは言う。


「確かに女三人で夜の山を行こうとする何てよっぽど何かあんのかなぁとは思ってたし、他の二人も強かった。けれどそれとこれとは別問題だろう?」


 彼はいわゆるフェミニスト。本来なら女性をああ言った危険な目に遭わせる事を嫌う質だ。それも時と場合によるが。彼の中で女・子供・老人とは守るべき者として認識されているのだ。


「済んだ事だ。それで?」


 クノーラの文句もデュオはさらりと流す。不満を零しながらもデュオの聞きたい事を口にする。


「ジルザールは現在他の奴等に後を追わせている…が捕まらないだろうな。これで少しの間は形を潜めていて欲しいもんだぜ。何せ今は他の事で忙しいからよ」


 ため息を吐きながらぼりぼりと頭を掻く。


「后選定時期だから…か。確かに煩わしいな。そんなものまだ先でも良いだろうに」


「よかねーよ。そんな先延ばししてたらこの先各国が五月蠅い。だから今回やる事になったんだろうが」


「ふん…」


「興味は無いってか」


「無いな。そんなモノより国の安定を図っている方が余程有意義だ」


「確かにそうかも知れねーけどな。凄いぜ? 報告聞くだけでうんざりする位だ。各国とも既に水面下で激しい攻防繰り広げている。既にあいつの所には陛下謁見への嘆願書が山を成してる」


 その光景を思い出したのかクノーラはげんなりした表情を作る。


「愚かだな。そんなにも長命と…そして国の権力が欲しいか」


「そんなもんだろ? 俺だって人間だから無いとは言えないが、上に立つ者程欲張りになるんだよ。そんな中でも帝国の后地位は他国とは一線を越すものだからな。だから余計に必死になんだよ。…尤も俺もそこまで上の地位はいらねーと思うけどよ」


「それには同感ですね」


 そんなクノーラの言葉に第三者の言葉が割っては入る。


「ラドルフ」


「デュオ、クノーラお帰りなさい。報告は聞いております」


 眼鏡を掛け、どことなく柔和な印象を与える青年がゆったりとした服の裾を翻しながら近付いて来る所だった。


「まだ此方にいたのか」


「ええ。何せ各国の嘆願書が途切れなく後から後から来るものですから。その断りと拒否の旨を記す書簡を作るだけで一手間なんですよ」


 何処か疲れを滲ませている。


「ご苦労さん」


「先程クノーラとも話されていた様ですが、それはもう凄まじいですよ。この帝国内で好き勝手良くもあそこまでやれると別の意味で尊敬しますが…。今の所は監視だけさせて放置しています。被害が出たと言う訳ではありませんので」


「それで良い。好きな様にやらせておけ。どうせ大した事は出来ないだろうからな」


「分かりました。ああ、でも流石に凄いですよ。布告してからまだ一ヶ月程しか経っておりませんが既にほぼ布告した各国勢揃いしています。まだ来て居ていない国は一ヶ所だけです」


「そんなに?!」


 まだ選定まで二ヶ月あるのになぁ…とクノーラは感心し、デュオは苦虫を潰した様な表情をしていた。


「…来ていない国ってーのは?」


 先程ラドルフと呼ばれた青年が言った言葉にクノーラは興味が引かれる部分が一ヶ所あった。


「世界地図の端に存在しても難攻不落と呼ばれ、大国に引け劣らない楽園の様に豊かな国…シュッセルです」


「かの者の子孫が治める土地か」


「はい。そこの姫だけが未だに到着しておりません。一応伝書鳩で連絡は来ましたが到着するのは一ヶ月後とか」


「他の国は熱心って感じがするけどその国は熱心って感じが全くしねーな。しかも一ヶ月後か。家にも自国にも失礼にならない程度の期間に到着って事か」


 クノーラはそこまで呟いてあれ? と首を傾げる。


「そう言えばシュッセルって有名な美人姉妹がいたよな? そのどっちかが来るのか?」


 帝国までシュッセルの美人姉妹の噂は届いていた。クノーラの言葉にいいえとラドルフは首を振った。


「んじゃ誰が?」


「その国の末の姫、第三姫です」


「あの国まだ姫がいたのか?」


 ラドルフの言葉にクノーラは目を見開く。噂では美人姉妹の二人しか耳にした事が無かったからだ。それにはデュオも少しだけ興味深そうにしている。


「上二人は確かに傾国の美人姉妹と噂に名高いですね。ですが、色々と調べさせましたが、お二人は性格があまりよろしく無い様ですよ。その時に面白い話が出て来ましたので、その国の姫だけは私の方で指名させて頂いたのです」


「ほう?」


 面白い話と聞いて、デュオとクノーラがラドルフを見やる。


「何でもシュッセルの実権をに握っているのはその第三姫だそうです。いずれは漸く生まれた係累の男子が国を継ぐようですが、このまま何事も無ければ宰相の位置に就くであろうと国内では専らの噂だそうですよ? そして国民からの信頼も厚い。優秀な姫君だそうです。他国にそれ程までに優秀な姫君の噂が何故流れ込んで来ないのか、私にはそれが理解出来ない程に」


 ラドルフにそこまで言わせるのであれば間違い無い。ラドルフの事はデュオもクノーラも良く知っている。彼が他人を褒める事は滅多にない。柔和な外見に騙されているとも言えるが、そんな彼が手放して認める程なのだから間違いないだろう。


「うっはー。姫さんでそんなに凄い訳? 俺ってばお姫様って奴はプライド高いとか魔術もそんなに出来ないもんだって思ってたぜ」


「上二人の噂と外見が隠れ蓑になっていたのかも知れませんね。貴族や王族と言う者は外見重視の方々が多い様ですしね」


「どう言う事だ?」


「つまりはごく平凡的なご容姿らしいですよ。その第三姫は。ああ、でも髪は見事な水色だそうです」


「確かかの国の王族にたまに生まれると言う水色を持っているのか」


「はい。シュッセルでは水色の髪を持つ王族は王位継承に尤も近い者とされています。水色の髪を持つ者が現れれば生まれた順位に関係なくより王に近い継承権を持つとされています。第三姫は係累に男子が産まれる前までは王位継承権第一位でした。今でも第二位と高いですが」


「シュッセルの文化って独特だよな」


 感心した様にクノーラが呟く。


「ええ。我々には馴染みの無い独特の文化を持つ国ですからね。まだまだありそうですよ。水色の髪を持って生まれると言う事はその国の王族の血が尤も濃いとされているそうですから。シュッセルを建国した最初の王が起源とされているそうです。彼が見事な水色の髪を持って居た所から由来しているそうで」


 そこまで情報を短期間で収集したラドルフの能力は凄まじい。


「成る程な……」


 そこまで言われてデュオは考え込む。


「水色の髪を持つ者は現在三名ほど。王位第一継承権持つ男子に前国王陛下…そして第三姫だけだそうです」


「それで第三姫さんを選んだって訳か?」


「そうですよ? 上二人は結婚適齢期過ぎている様ですし、第三姫は十七歳で適齢期真っ直中。それ以上に権力を握っている事や水色の髪を持つ事、優秀な事を考えれば一番呼ぶに値すると思います」


「…ってじゅうななぁっ?! そんなに若いのかよっ?!!」


 クノーラの驚きの声が静かな廊下に響き渡る。


「だから言ったじゃないですか。一番呼ぶに値するって。…尤も年齢に関して言えば私達も人の事は言えないでしょう」


 そう言ってラドルフは呆れた様子でクノーラを見やってからデュオの方を見る。


「どうです? 少しは興味を持たれたでしょう?」


 そんなラドルフの言葉にデュオは苦笑した。


「そうだな……」


 そして次に出た言葉はクノーラを驚かせるには充分な威力を持っていた。


「その様な姫には一度会って話をして見ても良いかもな」


 デュオの言葉にラドルフは笑みを深めた。


「うっひゃぁ…。天変地異の前触れだ……」


 クノーラがぼそりと呟くのをデュオは睨み付けてからラドルフに向き直る。


「その姫の名は?」


「イリア……イリア・シュッセルですよ」


 その言葉を聞き、デュオとクノーラの動きが止まる。


「イリア…?」


「……なんかついさっき聞いた様な名前…だよ…な……?」


 ぼそりと呟く二人にラドルフは首を傾げた。


「どうかしましたか?」


「いや…まさか…な……」


 デュオはそこで会話を切った。



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