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「んじゃ、早速」


 そう言ってクノーラが懐から何かを取り出した。それは媒介。一目見て分かった。国を移動する手段はいくつかある。


 普通の庶民の移動手段と言えば徒歩、船、馬車か馬。それが普通だが、騎士団や王族クラスになると高価な道具を媒介にして一度行った所ならば瞬時に移動出来る魔法も存在する。


 クノーラとデュオ以外の騎士団は先行して捕らえた盗賊団を連れて王城まで帰った。あの大人数でいとも簡単に移動してのけるとはやはり帝国騎士団と言う所か。


 イリア達もそれをしようと思えば出来た。だが、その魔法は一度行った所でないと無駄だし、媒介となる道具は高価すぎて金の無駄だと判断した。だからイリア達も一般の者達と同じ移動手段で帝国大陸まで移動して来たのだ。


 尤も帝国からの帰りは即座に国に帰る為にその方法を使うつもりだったが。


「そんな高価な物を…」


 やはり辞退するべきと口を開くがクノーラは気にした風も無く言ってのける。


「良いって。迷惑掛けたお詫びだ」


「…使うのは俺だが…まあ、良い。お前達も馬を連れて此方に来い」


 二人は送る気満々の様だ。


 これでは断るに断れない。三人は顔を見合わせて頷き合う。するとイリア達の愛馬は何かを察したのか自らイリア達の側に寄って来た。


 イリア達の愛馬も訓練されていたとあって、あの乱闘の最中でも逃げるどころか、被害が及ばない所まで自分達で判断して避難していた。ごく一般的な馬は臆病であんな大乱闘が側で繰り広げられれば混乱して逃げ出してしまうだろうが、イリア達が育てた馬は賢かった。


 それを見て、デュオは頷くと何やら呪文を素早く唱える。


 イリア達の周囲を光が覆う。


 次の瞬間、鬱蒼とした山の中からイリア達が目指していた街セルテルの目の前だった。


「あんな事に事後承諾とは言え巻き込んで本当に申し訳ねーな。長旅して来て疲れている所悪いな」


 ともう一度詫びを入れるクノーラにリンディが答える。


「いいえ、こうして隣街まで帝国騎士団の方に送って貰えて助かりました」


「これ位しか出来無くて悪いけどよ」


「充分ですよ~」


 確かに充分な待遇だ。


 運悪く騎士団による盗賊退治に巻き込まれただけなのにだ。


 だがそんな事は別に気にはしない。


 既に日は落ち、辺りは暗闇に包まれている。幾ら街の前とは言え既に日が落ちて暗い為、デュオが魔法でイリア達の周りを明るく照らしている為、問題も無かった。そのお陰で光を嫌った魔物も近寄って来ない。


「帝都までとはいかないけどな。帝国で二番目に大きな街…セルテルだ。此処で合ってるよな?」


 クノーラの確認に三人は頷く。


 予定よりも早く街に着いてしまったが。


 クノーラとデュオの二人は三人を街の入り口まで律儀に送ってくれた。自警団でも無いのにましてや皇帝直属の騎士団員である者が此処までしてくれた事には驚きだったが、好ましく思える。


「んじゃ迷惑掛けたな。もし、帝都まで来る機会があったら会いに来てくれよな」


「有り難う御座いました」


 三人揃ってごく普通の者と同じ様に頭を下げる。礼に持って礼を尽くすのは自国では当たり前の事だ。


 それにまたもやクノーラは本当に申し訳無さそうにしている。何処までもいい人の様だ。


「んじゃ俺達も行くか」


「ああ」


「それじゃあな! 良い旅をしてくれよ」


 そう言うと二人と二人の馬の姿は消えた。


 デュオが再び移動魔法を使ったのだろう。二人はそれで帝都に帰ったのだ。


 それを見送って漸く三人はため息を吐く。


「ハプニングはあったが随分と早く着いたな」


「そうね」


「まさか、こんな所で帝都のしかも皇帝陛下直属の騎士団の人に会うとは思っても見なかったよ」


 確かにそうだ。たまたま降り立った所でたまたま盗賊退治に巻き込まれてたまたまそれが皇帝陛下直属の騎士団員だった。偶然が偶然に重なったとしても、もの凄い奇跡だ。帝国とは言え、シュッセルと違い広大な土地を持つと言うのに。


「…あの二人とはいずれ帝都で会う事にはなるな」


 イリアの言葉にリンディとエクレアの二人も頷く。


「皇帝直属の人だったもの。会わずにはいかないと思うわ」


「でも、会った時の反応楽しみかも~」


 エクレアは面白そうに言う。それはリンディも同様の様だ。表情を見れば分かる。


「でもまさか招待された一国の姫がこうして旅人装っているとは思わないわよね」


 さっきも気付いている様子も無かったし。


 リンディの言葉にイリアは苦笑する。後でどうして言わなかったのかとは問われるかも知れないが、別段特別な理由など無いから平気だろう。少しの間だったがクノーラの性格は少しは理解出来た。


 金が勿体ないからと言っても彼は笑い飛ばすだけに違いない。


「まあ、そう装っていたんだからな。予定よりも早く着いた。暫くはこの街にのんびり逗留するとしよう」


「賛成」


「あ、そう言えば観光案内本に此処って帝国にしては珍しく天然の温泉が湧き出る街って書いてあったよ!!」


 そのエクレアの言葉を聞いてリンディの目が光る。


「温泉ですって??! イリア! エクレア!! 早く街の中に行きましょう!!」


 リンディが珍しく興奮している。彼女は極度の温泉好きだった。


 温泉は自国では珍しく無いが他国では普通の風呂はあっても温泉は滅多に無い。シュッセル独特の文化だが、それがセルテルにもあると言う。極度の温泉好きのリンディにはたまらないのだろう。


「長風呂に付き合わされるのか…」


「頑張ろうね、イリアちゃん」


 自国の文化故に二人も温泉は好きだがリンディ程では無い。


 温泉に入る時は決まってリンディが一番の長風呂だ。そしてそれに毎回付き合わされるのがイリアとエクレアであった。


「意外にこの街には長く留まる事になりそうだ。そう思えば一週間早く着いたのは案外幸運だったのかも知れないな」


「二人とも早く!」


「待ってよリンディちゃん! そんなに急がなくても温泉は逃げないよ~」


 エクレアが急いで追い掛け、その後をイリアは苦笑混じりに愛馬を引きながらゆっくりと付いて行き、街の中に入って行った。



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