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イリアが部屋に戻ると、既にリンディとエクレアが戻っていた。
その表情が何処か輝いていたのが目に入る。
「ただいま……」
「イリア!」
「イリアちゃん!!」
「どうした。そんなに興奮して…。朝の時とは偉い違いだな…」
「やっと皇帝側から宣言があったのよ」
「今夜…って言っても後数時間後なんだけど皇帝陛下謁見の元で后選定で選ばれたお后候補を集めたパーティが開かれるのよ」
「本当にやっとよ。今は何処もかしこもエステだ何だと準備に大忙しで着飾るための準備中よ。ある種の戦場よ」
「そんなに凄い事になっているんだな」
「あんまり驚いている様子無いね?」
話を聞きながらも何時もと同じ様子のイリアにエクレアは首を傾げる。
「そうね。イリア、あんたもう知ってた?」
二人の視線がイリアに集中するとイリアはため息を吐いた。そして先程のデュオとのやり取りを二人に話した。
「先程、書庫室で偶然デュオ殿と会い、ある事に関して話をしたんだ」
「ある事?」
「…ああ。実はこの場内に魔の者が入り込んでいる可能性が高い」
その言葉にリンディとエクレアの表情がサッと変わる。
「……魔の者ですって………?」
「何で、そんなのが……」
二人は信じられないとばかりに顔を歪めている。彼女達もまたかつて魔の者の脅威に晒された事があった。だから、魔の者の力をその身で知っていたのだ。
「理由は分からん。推測だけになるが、魔の者は今回の后選定による負の感情を狙っている可能性が高い。此処は戦場に引け劣らぬ程に負の気配があり過ぎる」
「確かに、魔の者にとっては格好の餌場だよね……」
「急にそんな話をするなんて……まさか…っ」
そこまで話をして、リンディが何かに気が付いた様に、イリアを見る。追って、エクレアも気が付いた様に見やり、二人と視線が合うと、イリアは頷く。
「そうだ。今夜、急遽開かれる事になった皇帝陛下謁見の下のパーティは魔の者を誘き寄せる為の物だ。デュオ殿が策を講じると言っていたが…それが皇帝陛下が出席するパーティを開く事とは流石に私も思わなかった」
そう。まさか此処まで大掛かりに仕掛けるとはイリアも思っていなかったのだ。
だが、この様子では既に話は皇帝陛下自身にまで及んでいる事だろう。だから急遽この様なパーティが開かれる事になったのだ。
そうした策を実行に移せるデュオ自身も相当高い地位に居ると見ても間違いない。
「成る程ね……。それでこの騒ぎって訳か…」
「イリアちゃんがそう言うって事はイリアちゃん、この件に関してお手伝いするの?」
「ああ。魔の者に関わった事があるしな。あの独特の気配は未だに良く覚えている。それに魔の者の脅威を広める訳にもいかない。此処で食い止めるかをしないと被害が民にまで及ぶ。だから手伝う事を決めた」
帝国内で起こった事だから本来ならば他国のしかも小国の者であるイリアが立ち入る事はあってはならない事態だ。だが、魔の者に関する情報を持っているし、何より他国で小国の者である筈のイリアに協力を帝国の上位に居るであろうデュオがしたのだ。
それに万が一この城で魔の者の脅威が及べば帝国だけの問題では済まされない。今この国には多くの王族が集っているのだ。
「…分かったわ。私達もそのつもりで動く」
「うん。何か起こった時にはそれぞれの判断で動く。何時も通りで良いよね?」
「ああ、それで良い」
二人の言葉にイリアは頷いた。
「ま、その件はそれで良いとして……」
ちろり…と今までの話を無かったかの様に何時もの調子を取り戻した口調でリンディが言いながらイリアを見やる。
「そうだよね……」
それに引き続いて、エクレアもリンディと同じ様にイリアを見やる。
「な、何だ…?」
二人の視線が再びイリアに集中する。
と、徐に二人が笑う。
「せっかくの機会だし、イリアもドレスアップしましょう」
「そうだね! 王妃様からイリアちゃん用にってドレス預かって来てるんだよ!」
その言葉にイリアの顔が引き攣る。
「いや、だからドレスは動き辛いと……」
「あら、イリアは小国とは言え、我が国の立派な姫君よ? ドレス姿を披露しないなんてあんまりじゃない?」
「そうだよ~。折角の機会何だからこの際着ちゃおうよ」
「だから…」
「あんたがドレス着たがらないのは分かってるけど、それでも…ねぇ?」
言いながらリンディはエクレアを見ながら言う。その視線にエクレアも頷く。
「折角王妃様が持たせてくれたんだもん。それに着飾ったイリアちゃんも見たいし…」
じーっと見てくる。
イリアはそっと顔を背けた。
「だが断る。今回の件もあるんだ、何時もの服にしろ」
「えーっ」
「え~っ」
二人から文句の声が上がったが、イリアはその声が聞こえない振りをして無視をしたのだった。




