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「なっ…まさか…??!」


 イリアの手元に姿を現した武器を目にして暗殺者達の空気が変わる。


 誰もが信じられないとばかりの表情をしている。


 デュオだけが事の成り行きを面白そうに見ていた。


「こ、この女がっ??!」


「あの”異剣の魔法剣士”だとでも言うのか??!」


「こんな話は聞いていないぞっ!!」


 暗殺者の一人が口に言葉にイリアはふんっと鼻で笑う。


「その名を聞くのは久しぶりだな…」


 肯定ととれるイリアの台詞に更に暗殺者達の顔色が変わる。


「ほう…。イリア姫が彼の有名な”異剣の魔法剣士”とはな…」


 デュオは面白そうにしていた表情を更に深めて感心した様に言う。イリアは暗殺者達を見ながらデュオに返答を返す。


「貴方までご存知でしたか…。この剣はずいぶんと有名の様ですね」


「それはイリア姫込みだ。…なるほど噂等当てにならない物だとばかり思っていたが、この噂に関してはその通りだったのだな。鬼神の如き剣技を身に纏い、大地をも揺るがす魔術をも操る異剣を持つ少女……そんな者は等いないとは思っていたが…」


「鬼神の如きとか大地をも揺るがすと言う箇所に些か疑問を持ちますが、これが我が国以外では異剣と見られるのも仕方が無い事でしょう」


「謙虚な事だ。だが、イリア姫の身のこなしを見ていれば分かる」


「まあ、そんな噂が立った経緯には身に覚えがあり過ぎてどうしようも無いのですが …」


「確か幼年頃からその噂を耳にしたな。それも事実か?」


「まあ、その人物が私であるのでしたら。4歳頃から国を離れ、祖父の旅に付いて各国を…何故か帝国のあるこの国には来た事はありませんでしたが…。兎に角我が国の言葉で言う”ムシャ修行”という事をしていましたし。何よりその名の下に私は祖父に傭兵紛いの実践の中に放り込まれましたから」


「ほう。随分と荒々しい祖父だな」


「ええ。わが師はたとえ血の繋がりを持つ者だろうと修行はかなり手厳しい物でした。ですがそのお陰で私は強くなる事も出来たので」


「それはとても良い師だったのだな。俺もその方にお会いしてみたいものだ」


「何時かこの国にも来るかも知れません。物凄い突っ込み所満載な旅人が来たら間違いなくそれが私の祖父にして師匠です。デュオ殿でしたらすぐにお分かりになられると思います」


「突っ込み所満載な旅人…ね。覚えておこう」


 イリアの言い様にデュオは口元を歪めて言う。


「まあ、我が師の話はこれ位にして…いい加減静かではありますが、煩い暗殺者達を片付けましょうか」


「そうだな。もっと有意義は話をしたかったが仕方が無い」


 イリアとデュオはおどおどとして様子を窺っている暗殺者達を見やる。


「ひっ!!」


 暗殺者達が一歩後退する。


「先程まで勢いはどうした? 怖気付いたか。ならばえらべ。大人しく帰るか……それとも私のこの相棒の餌食になるか…はたまたデュオ殿に切られるか…」


「くっ!! くそがあああああっ!! 相手は女だ!! あんな話は嘘だ!!それにこいつらを生かして置く訳にはいかねぇからなぁっ!!」


「そうだなっ!! やってしまえ!!!!!」


 イリアとデュオの妥協案はどうやらお気に召さなかった様だ。


「ならば仕方ありませんね。…デュオ殿ご助力願いませんか?」


「ふむ…。イリア姫なら一人でも大丈夫であろうが……事は帝国のしかも城の中で起こったものを立場上見過す事等出来ぬからな。良いだろう。本来であればイリア姫には私の方でお守りしなければいけないのだが…」


「それは結構です。己の身は己で守れます。デュオ殿は賊を捕まえる事に専念して下さって構いませんよ」


 良いながらイリアとデュオの体制は背中合わせになっていた。


「俺は此方側の奴等を捕まえよう」


「では、私は此方の者達を捕らえる事にしましょう」


 そうして二人は同時に剣を抜いた。






 力の差は歴然としていた。


 二人は長年の相棒の様に息の合った行動でもって次々と敵を地面に伏せて行く。暗殺者として育てられた筈の者達がこうもあっさりと倒されて行く。


 次第に残った暗殺者達の動揺も多くなる。逃げる事は許されない。


「…っ! もはやココまでかっ…!!」


 暗殺者達の末路。失敗した者は殺されるが自害するか。


 失敗を悟った一人が己の口の中に毒薬を含もうとして薬丸を手にした。


 が、その行動は失敗に終わる。「風よ、かの者を戒めろ」


 言葉と同時に意識を持ち、それぞれが自害しようと動いていた暗殺者達の動きを風が渦を巻き、全身に纏わり付き動きを止めた。


「ぐうっ…! 戒めの術かっ!!」


 悔しげに暗殺者の一人が呟く。


「自害させる訳にはいかない。何せこの帝国のしかも王城で事件を起こした者だからな。証人に今死なれては困る」


 目の前には術を放ったと思われるイリアが淡々としながら言葉を紡ぐ。それは慈悲から齎された言葉では無かった。


「そうだな。暫く大人しく寝ていろ」


 デュオがそう言葉を放つと同時に暗殺者の最後の一人を気絶させる。


 そうしてようやく静寂を取り戻した。


 無傷で息を乱した様子の無いイリアとデュオの周囲には無数の人が倒れていた。


「片付きましたね。ご協力感謝致します」


「いや、こうもあっさりと行くとはイリア姫の実力の高さには驚かされた」


「いいえ。これもデュオ殿のご助力があってこその事です」


 そう淡々とイリアが返した所に第三者の気配を感知する。遠くの方から慌しい足音と共にイリア達の方へと近付いていた。


「デュオ…っ!!」


 駆け込んで来たのはクノーラだ。幾人かの兵士と共にやって来て、デュオの姿を見てホッとし、次いでその隣のイリアの姿を見て驚き、最後にその二人の周囲の状況を眼にして驚きを露にしていた。


「遅かったな」


「不穏な気配を察知してお前の所に報告に行こうとしたらいねーし。まあ、その報告する前にお前が片付けちまったみたいだがな」


「たまたまだ」


「しっかし……まさかイリア姫さんまでいるとは思っても見なかったな」


「私も偶然居合わせただけですよ」


 その返答にクノーラは苦笑するしかなかった。周りの部下に指示を出しながら今までに無い、真剣な表情をしてイリアに対して最上級の礼を取る。


「この度は我が国の落ち度により、他国の姫であるイリア様に大変ご迷惑をお掛け致しました。此度の事に対して苦情には誠意を持って我が国は対応致します」


「いいえ。今夜の事はそちらのデュオ殿のお陰で事なきを得ました。此方こそのその対応にご協力を感謝致します。それに私から特に苦情等はありませんのでお気になさらぬ様に」


 そのイリアの返答にクノーラのもう一度礼を返す。


「では、夜の闇も深まって来ましたし、これ以上此処にいては他の方々に迷惑になるでしょう。私は部屋の方に戻らせて頂きます」


 そして礼をするとイリアはその場をデュオ達に任せて後にした。








 イリアは部屋に戻るとそのままベッドへと潜り込む。向かいの部屋で休んでいる筈のリンディとエクレアは先程の騒動に気が付いている筈だ。しかし、姿を現さなかったのは側にデュオがいたからだと思われる。


 イリアの目から見てもデュオの腕前は相当のモノのようだ。もしかしたらクノーラよりも遥かに強いかも知れない。そんな彼と一緒だから大丈夫と判断したのだろう。その事を別段攻める気も無い。彼女達の今日の仕事は既に終わっているのだ。自分も助太刀し、あの異剣とも呼ばれる己の相棒まで出したが、今回の件はデュオが暗殺者達を片付けてくれた事になるだろう。


 そんな事をつらつらと考えながら、イリアの瞳は閉じられた。








「ねえ、エクレア見た?」


「うん、見た見た」


 リンディとエクレアはこっそりと覗いていた窓から離れると、ベッドの上で向かい合わせに座りながら小声で話す。


「招かれざる客は来たみたいだけどデュオさんが来ていたし、何より暗殺者如きがイリアに勝てる筈も無いから心配はしていなかったけど…」


「うん。けど何かデュオさんと凄く良い雰囲気だったよね? イリアちゃんが気にしている訳じゃ無さそうだけど」


「デュオさんも軍服着ていたし、クノーラ大将の事を呼び捨てにしてたもの。高い地位にいると見て間違い無いわね。皇帝陛下の后になれなくてももしかしたら…」


「そうだね。顔も良いし、何より強い! そんな人だったらイリアちゃんと結婚しても大丈夫そうだよ」


 目を輝かせながら二人はきゃいきゃいと話し合う。


「イリアが意識していなくても何かデュオさんの方は興味津々って感じだったでしょう? これはもう脈ありと見て間違い無いわよ」


「うわー。イリアちゃん凄い~。皇帝陛下じゃ無いけどもしかしたら凄い人捕まえちゃったのかも」


「これからどうなるか楽しみだわ」


「本当だね~」


 こうして二人は乙女話に花を咲かせる。それはイリアが寝た後も続いた様だ。



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