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 書庫から帰る道すがらリンディとエクレアの二人度合流した後、イリアは他国の姫と遭遇してしまった。


 三人は顔にこそ出してはいないが、心の中に面倒の文字が浮かび上がる。


「あら…貴方はイリア姫ですわね」


 派手で豪奢な扇子で口元を隠し、自国の取り巻きを何人も引き連れていた姫は晩餐会の夜、一番始めにイリアに声を掛けて来たティルローゼだ。


「こんばんは、ティルローゼ姫。散歩ですか?」


「ええ。貴方は…あら書庫にいらしたの?」


 ティルローゼは目敏くイリア達が手にしている本を発見する。


「はい。帝国の書庫は素晴らしく本が揃っていますから。見られる内に見て置こうと思いまして」


「そうですの…。羨ましいですわ、お忙しそうで」


「いいえ。充分な休暇になっていますよ」


「…所で祖国に早くお戻りになられたい貴方にお聞きするのは間違っているとは思いますが…」


 その言葉にイリア達は来た…と思った。次に出る言葉が安易に想像が付く。彼女の顔が心なしか強ばっているのだ。


「皇帝陛下は貴方様の所に何か言って来ましたかしら? 何処の国の者も未だに皇帝陛下から書簡はおろかお会い出来ていないのですわ」


「いいえ。特にそう言った書簡など頂いておりませんし、何より私達は殆ど書庫にいますので部屋にはいないのです。ですから皇帝陛下にもお会いしていません」


 きっぱりと言うイリアの言葉にティルローゼの表情の強ばりが無くなる。彼女はイリアがもしかしたら皇帝側から何か貰っていたのでは無いかと危惧して探りを入れたのだ。


(それこそ無用の心配だと言うのに…)


 皇帝に会う気が無いのはイリア達の行動を見ていれば明らかだろう。城下に出掛けたり書庫に籠もったり。他国の姫の様に部屋で何時来るとも知れない皇帝からの書簡等待つつもり等無いのは部屋をずっと留守にしているのが何よりの証拠。


「そう…なら良いですわ。こうしてお話している間にもしかしたら皇帝陛下からの書簡が届くかも知れませんわ。ですから私はこの辺で失礼致します」


「ええ」


 自信に満ちた声でそう告げると取り巻きを引き連れてティルローゼは部屋へと戻って行った。それは元来た道を戻っている所を見るとイリアに探りを入れる為だけに此処まで足を運んだのだろう。


「…熱心な事だな」


 やはりため息しか出ない。


「相当苛立ってるわね」


「無理も無いよね。何の反応も無いんだから」


 今度は三人揃ってため息を吐く。そしてこれ以上他国の者に出会さない様にそそくさと部屋へと戻ったのだった。


 それから数日が経ったが未だに何の進展も無い。


 その間に更に各国に雰囲気が険しくなって行くのをイリアは肌で感じ取っていた。未だに何処の国にも繋ぎを皇帝側が付けていない。


 それに合わせて各国の国同士の凌ぎあいも激しくなっている。今はまだ裏での小競り合いで済んでいるのだろうが、このまま放置して置けば更に酷くなって来る事だろう。


 現に、傍観者となって、極力相対する事を避けているイリアですら、ティルローゼを皮切りに、何人かの姫と会い露骨に探りを入れられていた。それは侍女であるリンディとエクレアは同様だ。いや、イリア以上の騒動に巻き込まれている節がある。


 最も二人はそれすらも楽しんでいるのだが。


「…いい加減、城内に留まり続けるのも飽きて来たな」


「そう?」


「各国の様子探るだけでも面白いのに~」


 イリアの呟きに暇潰しに事欠かない二人は揃ってそう答える。イリアは根が仕事人間なので暇が有り過ぎると逆に落ち着かなくなる。最近ではこの騒動で書庫に行く道ですら他国が待ち構えている様になり、気軽に行けなくなっているのだ。


 これではする事が無い。


「あ、だったら外に出られるか許可求めて見たら?」


「それ良いかも~! 何だかんだ言って未だに城下をゆっくり見て周れていないから」


「…ふむ。許可が下りるか分からないがそれも良いかもな」


「でしょ? そうと決まったら早速許可を求めにラドルフさんの所に行きましょう!」


「そうだね!! 書簡でのやり取り待ってたら何時になるか分からないから直に行こう!」


「それは良いが、皇帝に取り次げと言いに来た奴らと間違われる可能性が高いぞ?」


「そん時はそん時よ」


「行くだけ行こうよ!」


「分かった」


 そうして三人はラドルフの元を直接訪れる事を決めたのだった。












 駄目もとで直接尋ね、用件を告げるとすぐさまラドルフに帝国の兵士は取り次いでくれてイリア達は拍子抜けした。


「ああ、これはイリア姫様、本日はどの様なご用件ですか?」


 来た時と同様の笑みを浮かべ、ラドルフはイリア達と相対する。


「お忙しい中、お会いして下さり有難う御座います。手短に申し上げますと城下に外出する許可を頂きたい」


 そこイリアの言葉にラドルフは軽く目を見開く。


「城下…にですか?」


「ええ。無理でしたら構いませんが。何分この国に来て随分と経ちますが、城下を見たのは此処に来た初日だけでしたので。私達の馬も散歩させてやりたいですし」


 その説明にラドルフは少々考える仕草を見せたが、すぐさま先程と少々違う笑みを浮かべる。


「それでしたら構いませんよ。警備上の問題で何名か我が国の兵を付けさせて頂きますが」


 その言葉は予想の範囲内だった。


 他国の姫達だけで行動させようとする程帝国側も馬鹿ではない。イリア達にその気が無くても他国と連絡を取り合い、帝国を不利な状況に陥れさせる事態を引き起こす様な行動を取られる可能性もあるし、そうでなくても他国の姫達だけで行動させて帝国内で何かあれば信用問題にもなる。


 それがあるから、帝国側なりの譲歩を見せて条件を提示して来たのだ。


 それにイリアは頷く。


「構いません。我侭で申し訳ありませんが出来たら城下街を案内して下さる方を付けて下さると助かります」


「それ位お安い御用です。お出掛けは何時頃ですか?」


「午後からにでも…と思ってます」


「分かりました。それでは午後一番にでも案内の者をお部屋に寄越します。その者に細かい事は任せますので、イリア姫殿達は出掛ける準備をしてお待ち下さい」


「有難う御座います。許可して頂けた事に感謝致します」


「慌しくて大したお持て成しも出来なくて申し訳無いのですが…」


 その言葉にイリアは苦笑を浮かべる。


「いいえ。十分堪能させて頂いております。それでは、これ以上仕事の邪魔にならない内に失礼致します」


 イリアがお辞儀をするとリンディとエクレアの二人も合わせてお辞儀をする。


 そして三人は出掛ける準備をする為、早々にラドルフの所から退出したのた。


 部屋から出た時だった。イリアの視界の隅を人影が掠めた。それを捕らえたのはイリアだけでは無く、リンディとエクレアの二人もだ。


「…気が付いてるか?」


 前を歩きながらイリアはリンディとエクレアの二人だけに聞こえる声で言う。


「ええ」


「勿論。えーっとアルラティア国の者みたいだね。服装からすると」


「私達が摂政殿の部屋に入ったのが気になる様だな」


「まあ、こんな時期にあの部屋に入ればそう言った誤解も生まれるでしょうね」


「あ、完璧に気配も消えた。きっと報告に行ったんだね」


「忙しい事だな」


「ま、今は放って置きましょう」


「そうだね。お部屋戻って出掛ける準備しよう」


「それもそうだな」


 三人は対して気に留める事無く、部屋に戻って出掛ける準備をする事にした。




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