はじまり。
「それで…あなたはなんで私をここに連れてきたの?」
“そんなのっ君が消えたいと思ったからだよっ”
「…は?」
私は怪訝そうに眉をひそめる。
“この世界は辛く悲しい思いをした人が集まる場所!きっとお互いを分かり合えるはずだよ!”
「お、おぉ…」
私は簡単の声を漏らす。
な…ナイスアイディア!
確かに辛い思いをしてきた人達なら、きっとお互いの思いを理解できるはずだ。
が、そんな期待は次の声で打ち消される。
“だけど、そんなに単純な話でもないんだ”
「…へ?」
“人が集まれば、悩みは生まれる。悩みっていうのは生きている限りなくならない”
私はがくりと肩を落とす。
「じゃっじゃーなんで連れてきたの?!」
私が半分涙目でそう問いかけると、ふわりと優しい風が髪を撫でた。
“君が君を取り戻すためだよ”
その答えは、聞いたことのあるものだった。
“ほら、息を吸って”
声に導かれるまま、私は大きく息を吸う。
“新たな場所に来ると、心も入れ替わった気がするよねっ”
「…うん」
私は素直にうなづく。
“君の名前はーー?”
澄んだ声が私の胸に響き渡る。
「私は…山岡咲希」
“そうーー君は元気で強気でいつも前を見ていた。それを忘れないでーー”
その言葉に妙な違和感を感じながらも、私はゆっくりとうなづく。
“君は君を取り戻せる。じゃー咲希、行っておいでーーー”
優しい風が、私の背中をふわりと押した。
それから…声は聞こえなくなった。
不思議と不安も恐れも消えていた。
ただ…新たな世界への期待が胸の中に残っているだけだった。
私はこの草原の先の光町に向かって一歩を踏み出す。
これが始まり。