表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/46

育成期間0年1ヵ月3週間

・・・・・・


深層から意識が引き上げられていくのを感じる。


俺の幸運値ラックはすでに無いものと思っていたが、

どうやら悪運だけは人並みに残っていたようだ。


重い瞼をゆっくりと開く。



『にゃーん』



・・・猫だ。



思わず、叫び声を上げる。

目覚めてすぐ、目の前に馬鹿でかい猫の顔があれば、

誰だって驚くに決まっている。


体中に走る痛みに顔をしかめる。今の俺は全身ボロボロなのだ。

本来なら、声すら上げられない状態のはず。


恐る恐る、体を動かしてみる。


腕、足・・・ちゃんと動く。

ブラストベアーに圧し折られたはず腕は、痛みこそあるものの

ちゃんと繋がっている。


状況を確認しようとベッドから起きようとするが、

さすがにそれだけの体力は戻っていないのか、中々起き上がることができない。



『にゃー』



猫が鳴き声と共に、丸太のような太い腕で俺の体を掴む。

驚き、その腕を振り払おうとするが、今の俺では到底敵うべくも無し。


まあ、ただ俺を起こそうとしていただけだったんだが・・・。


体を起こしてもらったところで、隣に立つ猫を見上げる。



獣系下級魔獣「ワーキャット」



ランクでいうと「コボルト」に並ぶ、ごく普通の魔物である。

しかし、目の前の魔獣は、俺の知っているワーキャットとは明らかに違っていた。


通常、ワーキャットは厳つい猫の顔に、

引き締まった細身の体を持ち合わせた外見をしている。

しかし、このワーキャットは違う。

子猫のような可愛らしい顔つきのくせに、

体躯はまるで「オーガ」のような分厚い筋肉の塊である。


ワーキャットの基本戦術は、その体に秘めた敏捷性を武器に、

相手を翻弄するトリッキーなスタイルを主としているが、

このワーキャットは、どう見てもそのような戦法を得意とする類のものでは無い。


豪快に力で相手を叩き潰す。

そういう戦法が良く似合う部類だ。



『もう起き上がっても平気なのか?』



不意に、俺に掛けられる声。


振り向くとそこには、1人の女性。

一目見ただけで分かる。



こいつは、貴族だと。



警戒する俺に対し、相手は語り続ける。


エレナ・フィルグ・クスィーネと名乗った彼女は、自身が従魔士であること、

ここ最近活発になってきた魔物の討伐へ向かう最中、俺が倒れている

のを目撃し、近くの治療所へ運んでくれたことを俺に告げる。


貴族など、良識の欠片も無い、身勝手で、自分の事しか頭に無い屑だと

思っていたが、どうやらまともな奴もいるらしい。


ちなみに、コッコも一命は取り留めているとのこと。


ホッと胸を撫で下ろす。


気持ちに余裕の出来たところで、彼女にお礼の言葉を述べる。

貴族だろうと命の恩人に変わりない。

感謝の意は示さねばならない。


ここは、どうやらヴィングル従魔士育成学校近隣に

位置する町「カナマラ」のようだ。


大事を取り、しばらくここで静養したほうがいいと彼女は言うが、

生憎、ここに長居できるほどの金など持ち合わせていない。


貧乏人の辛い所だ。


金云々の話をしたところ、従魔士エレナは突然笑い出した。

学園にいる連中とは違って、どこか品のある笑い方だが、

笑いのツボがおかしいのは共通らしい。


笑いながら、彼女はすでに治療費・宿泊費は払ってあると語った。

何でも、困っている者へはできる範囲で助けることを信条としているそうだ。



・・・やはり、貴族にまともな奴はいないのか。



とは言え、まともじゃなかったが故に助かった俺がどうこう言えた義理でもないが・・・。


それから、しばらく従魔士エレナと何気ない会話を続けた。

誰かと、こんなに会話するなんて何時以来だろう。


話しつつ、彼女を観察する。


真っ直ぐと伸びた金髪に、端正な顔立ち、そして燃えるような赤い瞳。


普通の人間には在り得ない瞳・髪の色はその者が「加護」

を得ているからに他ならない。


彼女の場合、「火」の精霊か、亜神の加護を得ているのだろう。


スタイルは凹凸がはっきりとしており、

特に服を押し上げている胸や、スラリと伸びた足が刺激的である。


女性に対して、免疫の無い俺にとっていろんな意味で辛い。


言ってしまえば、彼女は美人である。いや、だった。というべきなのか・・・

彼女の整った顔には一筋の切り傷が刻まれている。

それが、彼女の魅力を損ねている。


ジロジロと見過ぎたのか、彼女の視線がやめろと告げていた。

慌てて目を伏せるのと同時に、彼女は部屋を後にする。



最後に一言『また会おう』と言い残して。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ