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育成期間0年1ヵ月2週間

俺はいつものように、魔獣コッコを鍛えるべく魔獣育成所へと歩を進める。


最近では、ようやく俺の歩幅に遅れることなく

付いて来られるようになったコッコを見つつ、

僅かながらも、着実にステータスを伸ばしている事を実感する。



そうだ。やればできる。

例えコッコであろうと、鍛え続ければ光明を見出すことができると。



最近ではそう思えるようになってきた。


まだまだ課題は山積みだが、1つ1つ解決していけばいいだけの事。

トーナメントも、1年鍛えた程度では格上の魔獣に歯は立たないだろうが、

下級の魔獣であれば戦い方次第でどうにでもなるはずだ。


久しぶりに、胸に希望が灯る。

コッコを手にして以来、無くしていた心のゆとりを感じる。



今日は久しぶりに良く眠れそうだ・・・ッッ!!!




脳天を貫く衝撃。


壁に叩きつけられ、体中を駆け抜ける激痛。


一瞬、視界に映る、巨大な腕。


何が起こった?


何が、俺を襲った?


分からない。



その正体を知ろうにも、俺の意識は、闇へと落ちて行ったのだから。



--------------------------------------------------


声が聞こえる・・・


これは・・・俺への侮蔑の言葉。


俺を嘲笑う声。


・・・何故だ?


何故、俺は言い返さない。


何故、俺は反撃しない。


何故?何故・・・?



------------------------------------------------


・・・闇に落ちた意識が、次第に覚醒していく。

視点は未だ定まらず、周りの風景を確認することはできない。

が、少なくとも学内ではないようだ。



土の匂いがする。

ここは、外なのか?



体は動かない。

いや、言う事を聞いてくれない、と言った方が正しいか。



ぐッ!・・・ぅ・・



再び、体に痛みが走る。

先程のものとは比べ物にならない程、非力な暴力。


だが、完全に意識を覚醒させるには充分だった。



『よお、優等生気取り!どうだ?ふかふかのベッドは寝心地いいだろう?』



地面に伏した俺へ、不快な言葉を浴びせる影。


見上げると、目の前には口角を持ち上げ笑う太った貴族。

笑う口の隙間からは、金歯が見え隠れしている。


目覚めてまず、目に入ったのが肉の塊とは・・・


最悪な気分だ。



目の前の肉塊は、俺に対し言葉を並べ立てる。


要約すると、以前から高貴な俺達が声を掛けてやっているというのに

無視を決め込むなど断じて許せない。

よって、今日は俺に対し身の程を教えてやる。そうだ。



・・・なんて、くだらない。



俺でなくとも一般的な常識を持ち合わせている者ならば、呆れ返る事だろう。


無駄に外見ばかり大きくなり、中身は空虚。

いや、肥大し過ぎて腐りきったプライドぐらいは詰まっているか。



俺が話を聞いていないことに気付き、まるでボールでも蹴るかのように

俺の顔目掛け、暴力を放つ貴族。

・・・目に当たらなかったのは幸いか。


呻く俺の姿を見下ろしつつ、太った貴族は周りへ号令を出す。



この状況で考えられるのは、袋叩き。

他者を痛めつけ、自身は一時の優越感に浸る。奴らの好物だ。


徐々に背後から迫る足音。



・・・・・?


違う。


これは、人間の足音では、ない。


背筋に冷や汗が流れる。


先程、俺を襲った巨大な腕。


その正体に、気付く。しかし、気付いたところでどうにもならない。


足音が止まる。


そして、俺は高らかに空へ舞い上がった。


俺の視界に映った黒い影。



獣系中級魔獣『ブラストベアー』



同期の候補生達が手にした魔獣の中でも、屈指の腕力と耐久値を誇る。


文字通り、化物だ。


満足に体が動かない俺は、受け身も取れず地面へ叩きつけられる。

そんな俺の姿を見ながら、貴族達は笑っている。




何が、可笑しい?


お前達は。何故、笑える?




再び俺へ近づく黒い巨体。

振り下ろされた剛腕に、俺の腕は容易く圧し折られる。

痛みに耐えられず、絶叫する。




どうして、お前達のような屑に『力』がある?


何で、俺は何も、持っていないんだ?




ブラストベアーの腕が俺の胸を押さえ付ける。

その力に肋骨は悲鳴を上げ、少しずつ音を立て折れていく。

もう、声を上げる力すら無い。




俺は、負けない。


俺は、夢を・・・・掴むんだ。


そのための・・・スキル・・・・


その・・ための・・・・魔獣・・・・・


・・・・・・・



-------------------------------------------------------



夕日の沈む頃。


1人と1羽は死の淵に立たされていた。



あれからブラストベアーの暴力を受け続けた俺は、意識を失った。

そんな俺へ興味の失せた貴族達が、次に目を付けたのは、俺の魔獣だった。


羽を毟り取られ、翼を捥ぎ取られたコッコは、血だまりに沈んでいる。

この状態で、まだ生きているのは奇跡だ。


・・・いや、それは俺も同じことか。



また、意識が遠のいていく。

恐らく、今度意識が無くなれば、俺は死ぬだろう。


ここは、学園内ではない。教官の助けは期待できない。



・・・死にたくない。



いつの間にか、俺は泣いていた。


生への執着。己の無力。絶望。

様々な感情が入り交じり、心に満ちる。




しばらくして、俺の意識は再び、闇へと落ちて行った。

最後に、誰かが叫ぶ声を聞いた気がする。


それは、何故かとても懐かしく感じられた。



















コッコは能力アビリティ【渇望】を取得。

以降、能力取得に対し補正が付与されます。




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