勇者と敵の魔女
魔女、魔女・・・・
そう呼ばれるようになったのは何時から?
私はこの土地の人間ではない。
いや、この世界の人間ですらない。
すっかり忘れていたが、ここに来て、もう何年たったのか。
どうしてここに来たのかもわからない。
何故、私なのかも。
運命を恨むしかない。
この世界は私に優しくなかった。
当然といえば当然だ。
見ず知らずの、そしてまったく異質の人間に優しい人間というのは、自分がいた世界でもまれであった。
そしてまた私も、大多数の優しくない人間であったから。
でも、自分と同じ境遇であれば、その立場になれば、わかりあえるはずだったのに。
数日前、この国の王から命が下された。
『異端者・異分子の排除』
この世界を束ねる帝国まで発展した国。
それを束ねるのは、歴戦の勇者とその優秀な仲間達。
彼らは恐れているのだ。
自分達の構築した世界の均鈎が崩れるのを。
そして、私はその排除される対象となった。
この命を下した理由を、私はわかっている。
対象は多いが、これは実質、私をターゲットにしたものだ。
あなたと出会ったのは何年前だったのだろう?
なぜ、ここで私を?
私のことは忘れていると思ったのに。
あなたの脅威になると思ったの?
私はこの世界に来て、この世界にない知識と力があることに気が付いている。
だからといって、それを利用しようとは思わない。
でも、あなたはそうは受け取らなかった。
あなたとは道が分かたれている。
それなら、私もやられるわけにはいかない。
せめて、あがいてみたいから。
この見知らぬ世界で、埋もれていくのは悲しすぎる。
いつかは元の世界に戻りたい。自分の失われた時を取り戻したい。
不可能かもしれないけれど。
私だけが知る勇者よ、魔女として、この世界の敵として、あなたの敵として・・・・
私は戦います。
国王は、苦虫を噛み潰したように、手紙を握り締めた。
これは名も書かれていないが、執務室の窓から投げ入れられたものだ。
自分は、これを書いた者を知っている・・・
彼は立ち上がり、隠し扉を開く。
其処には、ここでは見たことのない、黒い上下の厚手生地の服に、白い薄手の服がかけられていた。
『・・・・悪いが、俺の世界の邪魔をする者には、消えてもらうしかない。
それが、同類であればあるほど、障害になるからだ・・・・』
『あの時・・・お前を切れなかったのは・・・俺が甘かったのか、それとも俺はお前を・・・』