アルバム
風花シリーズの短編です。
が、知らなくても読めます(多分
世界観が気になった方は合わせてどうぞ。
12月11日午前8時33分と45分、とてもよく晴れた寒い日の朝に僕達は産まれた。
僕が最初で彼女が後で。
まるで双子のように産まれてきたと、周りの大人達は今でも嬉しそうに話す。
双子のように……と。
*
「僕」という一人称が「俺」に変わる頃、僕等はアルバムをめくった。
「……ってか、なんでこんな写真撮るかね?」
「まぁまぁ、まだ子供だし」
最初の1ページにあったのは、昼寝の写真。
干した後の、お日様の匂いのする布団の上で気持ち良さそうに転がって寝ている赤ちゃん。
頭をくっつけて……素っ裸で。
ページをめくりかけのまま、がっくりとうな垂れる彼女を僕が宥める。
―――いつもの光景。
数枚ページをめくる。
三日月川の河川敷。季節は……春。
一生懸命白つめ草を編む二人。
「ここでよく転んで泣いてたよね。それで僕がいつも駆け寄って……」
「……さぁ?よく覚えてない」
苦笑いしながら、わざとらしく誤魔化す彼女に僕は軽く頭をぶつける。
それに応えるように無意識に頭を寄せる彼女。
―――いつもの光景。
ページは小学校時代に変わる。
入学式、遠足、プール……いきなり行事が増えて写真も増えている。
そんな写真を微笑ましげに見ながら彼女は僕に問う。
「あのさ、何が一番印象に残ってる?」
「ん~…どれも覚えてると言えば覚えてるけど…これかな」
僕はページを戻し、運動会の写真を指差した。
借り物競争で1着になった時の写真。
しっかりと彼女の手を握って、空いた方の手で1着の旗を持って。
「これかぁ……この借り物、結局なんだったか教えてくれなかった」
「そうだったっけ?」
「で、なんだった?」
「内緒」
今度は僕がとぼける番だ。
借り物があってるかどうかチェックした先生が苦笑いしながら僕の頭を叩いた。
借り物の指定は『宝物』
それは今でも変わらず。
頬をぷくっと膨らませる彼女の横顔を愛でる。
―――いつもの光景。
ページはもうすぐ終わろうとしていた。
いつの間にか彼女の背を追い越していた僕と彼女が並ぶ写真。
同じブレザーの制服を着て並んでいるが、それが余計に男女の違いを見せていた。
「この頃からかな?女らしくなったよね」
「はぁ?何言ってんだか。それを言うなら自分だってそうじゃん?力とか敵わなくなったし」
悪戯っぽく笑う彼女。
『違うよ……僕が言いたいのはそうじゃなくて』
言葉にださないで微笑みだけを彼女に向ける。
蕾が花開く直前の―――、そんな綺麗さを彼女は垣間見せていた。
彼女はその微笑の意味に気づいて、顔を隠すようにアルバムに視線を戻した。
―――いつもの光景。
アルバムは白紙になった。
ぱたんと満足気に閉じた彼女はこちらを向いた。
「ねっ、最近写真撮ってないじゃん。撮りに行こう」
「今から?」
「そう、今から。弟殿にシャッター押させてさ」
「……わかった」
いつも唐突に言い出す彼女。
心の中で、これから有無言わさず連れ出されるであろう、彼女の弟に申し訳なさを感じながらも、弾む心は隠せず、立ち上がる。
それから3人で三日月川の河川敷に向かった。
僕にとって思い出の場所。
ここで彼女は『宝物』になった。
それはまだ僕の中だけにある。
彼女にも教えていない秘め事。
「二人ともこっち向けって。写真撮る意味ねぇじゃん」
僕の弟でもあるような彼の声に視線を向けた。
芝の上に座る僕の後ろから、しがみつく様に後ろから首に両腕を絡ます彼女。
その腕にそっと自分の手を重ね……。
「1+1は?」
「「田んぼの田!」」
「ちげぇっ!!」
僕達の新しい写真がアルバムに加わった。
この写真は僕の懐で、僕を支えてくれる。
彼女の一番近い場所にいる証として。
元々写真が好きじゃない彼女だから、次いつこのアルバムに写真が飾れるか解からない。
その時も彼女はこの写真と同じ笑顔でいられるのか?
そうであって欲しい。
その為なら……そう俺は鬼にでもなれる―――――。