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残念ながら全部聞こえてます~召喚聖女は誰を守るか自分で選ぶ  作者: Jun


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4 どれもこれも短すぎる

エイヴァに蹴飛ばされた姿勢のまま、二人のやりとりを怯えて聞いていた獣人のミルコは、急に自分の身体を包み込んだ暖かい魔力に驚いていた。

彼女はもっと小さい頃、暮らしていた土地に現れた奴隷商に両親と共に捕まって、この城に連れて来られて以来ずっと働かされ通しだった。

ああやって怒られては暴力を振るわれ、薬などもらえるはずもないので、沢山の傷跡が身体に残っている。それが、さっきの魔力の後に痛みはもちろん、目に見えるところにあった傷が全部消えている事に気が付いた。

「痛くない」ミルコはつぶやいて、サラの立ち去った後をじっと見送った。


一方、エイヴァ達に連れて来られた豪華な部屋で、用意されていたドレスを見せられたサラは頭痛がしていた。

「先代の聖女様の文献を参考に、ルーカス王太子殿下がご用意したドレスです」

目の前に広げられたドレスは色が白というのは良いが、やたらとリボンやフリルの付いた小学生の学芸会もかくやという代物で、さっき見た紺髪とピンクのものと比べて、明らかに幼稚で装飾過多だった。

しかもサラの身長にはドレスの丈は足らず、仮にワンピースだとしたら中途半端に長いという、絶妙にみっともない丈だった。


王太子が先代の聖女を参考にしたと言うが、人にはそれぞれ体格というものがある。

前に来た人と同じにされて、今回も大丈夫と思うのは安易過ぎないだろうか。


「私には、これは小さすぎますね。それに子どもみたいなデザインで、似合わないと思うわ」サラはばっさり切り捨てた。

すると途端に『何を偉そうに!聖女って言っても、元の世界ではただの平民だって知ってるのよ!』エイヴァの怒りの声が、頭に直接伝わって来た。


(この人の声ってヒステリックでうるさいんだよね。心が聞こえるのって、相手が強く思った時に自動的に聞こえるみたいだけど、自分で聞いたり遮断したりコントロール出来るかな)


荒れ狂う心の声をダイレクトに受け止めるのにうんざりして、サラはドアを閉めるイメージで遮断したいと念じてみた。途端に心の声が聞こえなくなって、困ったように微笑みを浮かべているエイヴァだけが残り、サラは(おお、魔法は想像力ってホントだった)とウキウキした。


「聖女様。これは王太子殿下がわざわざ聖女様の為に用意されたドレスでございます。殿下のお心を汲んで、お召しになってくださいませんか」

これだけ聞いたら、確かに少しは悪いと思ってしまったかもと考えるくらい、エイヴァは申し訳なさげに見えた。

(聖女として召喚されて自動的に能力が使えるみたいだけど、心を読むっていうのは、聖女っぽくないよね。これは私個人の為に誰かがカスタマイズしてくれたのかな。いずれにせよ有難いや)


エイヴァの意見は大体わかったので、アンナが何を考えているか、サラは自分の意志で聞こうと試みた。すると無表情で立つ彼女からも声が聞こえて来た。

『いくら先の聖女様が着ていたからって、百年前のデザインを今の時代に着させようなんて、ありえない。こんな道化師みたいな服を用意して、王太子殿下は何をお考えなのか。この方は本物の聖女様なのに、こんな扱いは酷過ぎる』

(だよね。やっぱりおかしいよね)サラはアンナからの声を読み取り、エイヴァに向かってはっきりと拒絶した。


「こんなサイズの合わない服、何と言われても着られないわ。デザインだって、さっきいた女の人達はこんな装飾過多なデザインじゃなかった。他に服が用意されてないなら、私はこのままの恰好で行きます」

顔を真っ赤にしたエイヴァは、アンナにも手伝わせて他にもいくつか『王太子殿下の用意した服』を出してきたが、どれもこれもサイズが小さく幼稚だった。

「いったい、前の聖女って何歳だったの」サラの問いにエイヴァは「存じ上げません」と答えた。

サラは「まず私の住んでいた所では、百年前よりうんと体格が良くなってるの。その中でも私は背が高いから、その服が合うはずないわ。良いです。このままの服で行きます。案内して」

サラの決心が変わらないと悟ったエイヴァは、ルーカスの叱責を恐れながら、国王を待たせている為仕方なく謁見の間へ案内した。その後ろをアンナはまた黙って付き従った。


豪華な客間を出ると、さっきとは違い幾人かの人とすれ違った。

人々は一瞬ギョッとしたように制服姿のサラを見て、見なかった事にするように目をそらした。さっさと通り過ぎれば良いのだろうが、廊下は長く、歩みは遅い。

サラが人々の心を読んでみると、おかしな格好だと思っているだけで、誰も聖女が召喚された事は知らないようだった。

この王宮にいる人間はほとんど貴族のはずなのに、わざわざ異世界から聖女を呼ぶという一大イベントを知らないのはおかしいと、サラはいぶかしかった。



読んでいただき、ありがとうございます。


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