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文芸の才

作者: るーとに
掲載日:2026/03/21

彼は才能があった。


小説や詩、はたまた映画の脚本まで。その才は留まることを知らなかった。 


私の勧めで始めた執筆活動も、始めたては隣に居たはずなのに、いつの間にか遠い雲の向こう側へ行っていた。


彼に筆を握らせれば「1000年先まで忘れられることのない、絶世の作品を作る」、と言われていた。


彼は褒められると、困ったような顔をしていつもこう言う。


「そんなことないですよ、偶然です」と。


私の勧めで彼の小説をコンクールに出した。


彼は満場一致で最優秀賞を受賞した。


しかし、私はどうだ?


彼の名が載っているその場所に、私の名前は無かった。


彼よりも、私の小説の方がよりリアルに、シンプルに書けているはずだ。彼の小説は目新しいだけだ。


彼が褒め称えられる度、私は心臓を握り潰されるような、そんな感覚がしていた。


彼を真似て小説を書いてみるが、鳴かず飛ばずで結局辞めてしまった。


彼を真似て脚本を作ってみるが、制作会社の目の前で門前払いを食らった。


そんな私に同情をして、彼はこういう。


「大丈夫だよ、皆君に気付いてないだけ。もう少し経てば売れてくよ!」


なんとも的外れな慰めだ。


私は売れたい訳ではない。彼よりも優れていると、証明したかっただけなのに。


私よりも優れている彼が、心底憎たらしい。


彼なんて、本来なら私の眼中にすらないはずだ。


今、"俺"は彼の真後ろに立っている。今なら気づかれずにやれるだろう。


キッチンから持ってきたナイフを大きく振り翳し


どんっ!と鈍い音が響く。


ナイフは日記に突き刺さっていた。


「ん?どうかした?」


彼は小説を読む手を止め、振り返る。


彼と俺の目が合う。


「いや、なんでもないさ」


にこりと本心からの笑みを浮かべる。


そして、あの時書き殴った醜い感情を全てまとめて


ゴミ箱へと投げ捨てた。

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