8.体調不良のエルフ
――翌朝、テントで目を覚ました俺は、外に出て、エドラヒルの様子を見に行った。
エルフは、やはり早起きなのだろうか……。
昨日顔色が悪かったが、大丈夫だろうか……。
「……!?」
エドラヒルが昨日、魔法で作った草のテントを見て、俺は目をこすった。
昨夜は青々としていた草が、茶色く変色し崩れかけていた。
「エドラヒル……!?」
「う……う……」
枯草の中から呻き声が聞こえて、慌てて駆け寄ると、草を掻き分ける。
――中から出てきたのは、顔を真っ青にしたエドラヒルだった。
「どうしたんだ!?」
思わず大声で言うと、エドラヒルは薄く目を開けて、紫の瞳で俺を見つめた。
「――死ぬかも、しれない……」
「――どうした!?」
「全身に、悪寒がする……」
そう言いながら、エドラヒルは耳を押さえた。
「――トカゲの足音が、聞こえる……」
「トカゲ!?」
俺は周囲を見回した。トカゲの姿は見当たらない。
「――ペタペタペタペタ……」
俺はエドラヒルを見つめた。
昨夜の様子を思い出す。――昨夜は腹を押さえていたな。
このエルフは鍋の肉をほとんど食べてしまった。
そして“トカゲ”という言葉、耳を押さえる仕草。
それは目に見えない存在を指しているのでは。
――火の精霊は、具現化するとトカゲのような姿をとるとされている。
つまり今、こいつの中で火の精霊が暴れている……?
「肉の食べ過ぎで、精霊バランスが乱れている……?」
火の属性が宿った肉をたくさん食べ過ぎたせいで、体内の精霊が乱れているのかもしれない。
そんなふうに考えを巡らせる俺に、膝の上のエドラヒルは呼びかけた。
「オリヴァーよ、昨日は、私はお前に何か失礼なことを言ってしまったかもしれない……。不快な気持ちにさせたなら、悪かった――死ぬ前に謝っておく……」
俺は昨日のエドラヒルの言葉を思い出した。
『辺境民たちは、私とあまり会話をしてくれない。文字も持たない彼らでは、私の話すことがわからないのも無理はないが』
……あれから、気まずい空気になり、エドラヒルはやたらと椀をおかわりしていた……。
――そのせいで、食べ過ぎたのか?
俺は青い顔のエドラヒルを見つめた。
――このエルフは、言葉を飾らないわりに、気にする性格なのか――
「いや、気にしていないから……」
俺は思わずつぶやくと、荷物から、革袋を出した。
中から黒い飴玉を取り出す。
魔法使いギルドからもらった、魔力回復薬だ。
マンドレイクを四大精霊の力を満遍なく加えながら煮詰めて作る薬で、体内の精霊バランスを整える効果がある。
「これを、食べてみたら、効くかもしれないぞ――」
それを口に放り込んでやると、エドラヒルは目を見開いた。
「……生き返る……気がする……」
肌にわずかだが血色が戻っている。
「それは、良かった……! もっと食べていいから……」
俺は持っている魔力回復薬を、次から次にエドラヒルの口に放り込んだ。
――しばらくして、エドラヒルはむくりと起き上がった。
「――生き返った――」
「そうか……よかった」
俺はほっとして、胸を撫でおろした。
「――けど、まだ、顔色が悪いぞ……」
エドラヒルの顔色は青く、まだ完全に回復はしていないように見える。
「まだ、気分は悪い」
エドラヒルはその場にしゃがみこんだ。
「……俺の親戚のテントで休んだら、どうかな……?」
このままでは、草の寝床も作れないだろう。
そう聞くと、エドラヒルははっとしたように顔を上げて、つぶやいた。
「――私が行っても――いいのか?」
「俺の親戚だから……頼めば、大丈夫だと思う」
そう言うと、エドラヒルは紫の瞳を瞬いて、俺を見つめた。
「――では、頼む……オリヴァーよ」




