7.多少のきまずさ
……先ほどの会話は、"盛り上がって"いたのだろうか。
よくわからないが、好印象を持たれているということは、ありがたい。
「精霊について、多少は知っていますから。俺も、エルフの方の食事について知ることができ、興味深かったです」
そう言うと、エドラヒルは満面の笑顔になった。
「――最初は、お前のことを、変なやつだと思って、……正直、怖かったのだ。急に名乗って、自ら魔物を呼び寄せ、助けてくれだのと叫んで――」
俺は赤面した。そうやって逐一語られると、俺も相当、変な行動をしている。
「あなたとお話したかったので……申し訳ありません」
そう言うと、エドラヒルは笑い声を立てた。
「――そんなにかしこまらなくていいぞ、オリヴァーよ」
「……それは――ありがたいで……ありがとう」
そう言い直すと、エドラヒルは嬉しそうに歯を見せて笑った。
「いや、出てきてよかった。お前と話していると、エルフと話しているようだな。――辺境民たちは、私とあまり会話をしてくれない。文字も持たない彼らでは、私の話すことがわからないのも無理はないが――」
俺は急に体が冷える感覚を覚えた。
長命で魔法に長けたエルフは、人間を子どものような存在だと思っている者が多い――という前提知識はあるが。
『君の家系は辺境民なのか……。文字を持たないような家から、よく魔法都市まで来たね』
いままで何度も言われた言葉を思い出し、身体が強張って、喉がひりつく。
言葉が自然と口から出ていた。
「辺境民が学がないわけでは、ないと思う。風を読み、家畜を育てるのには、知恵が必要です。そういう知恵こそが書物などより――」
俺ははっと自分の口をふさいだ。
「いえ……辺境民はエルフのことを怖がっているんです――悠久の森に度胸試しで入った若者が、連行されて戻ってこなかったという話もあって」
そう言って口角を上げると、エドラヒルは目をぱちくりとしてから、長い銀髪を指でいじった。
「そうか……そういうことか……」
それから、鍋を見つめた。
しばらく、夜風が草を揺らす音だけが周囲に響いた。
「もっと、もらってもいいか……?」
エドラヒルはそう俺に聞くと、置いてあった匙を自分で取り、自ら鍋を椀に注いだ。
「クセになるな」と何度も言いながら食べる彼の横で、俺は焚火に木をくべた。
なんとなく気まずい空気のなか、エドラヒルはぱくぱくと無言で口を動かし、鍋の中身を平らげてしまった。思った以上によく食べる姿に驚いて、俺は途中から目を丸くしてその様子を見つめていた。
「――ご馳走になった」
エドラヒルはそう言って椀を置くと、腹を押さえて眉間に皺を寄せた。
しばらくそうしてから、俺を見つめた。
「お前の要望だが――明日、話を聞こう。少し、休みたい」
「聞いてもらえるんですか――!」
俺は驚いて少し前のめりになった。
「――ああ」
エドラヒルはそう言うと、うつむいた。顔が、さらに青白くなっている。
「……大丈夫ですか? ――テントを使って横になるなら――」
そう言って、テントを勧めようとすると、エドラヒルは首を振った。
「いや、寝床は自分で準備できる……」
そう言って地面に手をついた。――すると、にょきにょき草が伸び、絡み合い、テントのような形になった。
「……すごい……」
――魔法で草を操ったのだろう。さすが森と共に生きるエルフだ。
生命魔法だと思うが、こんな使い方は魔法学校では見たことがない。
これなら、草地があればどこでも寝ることができそうだ。
「――私は休む。ご馳走になった」
そう言ってエドラヒルはその草のテントの中にすっぽり収まった。
さいごにシュッと音を立てて、彼が入り込んだ入り口が塞がった。
「……」
俺は草原にできあがった、その繭のような草でできた塊を見つめた。
なんというか、草原でこれに出会ったら、何かと思うだろうな。
中にエルフがいるとは思わないだろう。
思わず笑ってしまった。
変なエルフだ。――けれど、悪い気はしなかった。




