6.エルフと鍋
エルフのエドラヒルはあっという間に俺が注いだ椀を平らげてしまった。
「……おかわり、いりますか?」
そう聞くと、俺を見つめて、ゆっくりとうなずいた。
「いいのか」
「いいですよ」
もう一度椀に注ぐと、それを見つめてエドラヒルは口角をにやりと持ち上げた。
……嬉しそうだ。
それから、彼は俺を見た。
「――お前が、先ほど話していた話はおもしろいな」
「先ほどの、話?」
「――辺境民の家は、家系によって、鍋の味が変わるとか、味で家系がわかるとか――」
エドラヒルは椀に口をつけながら「ふむふむ」と一人でうなずいている。
「エルフもな、家系により、好む花の種類が違うのだ」
「花」
俺はしばらく考えた。
鍋の味の話から、なぜ、花の話題になったのだろう。食事の話から、花の話に変わった――そういえば、精霊に近いエルフは、悠久の森に咲く花を日常食にすると書かれた本を読んだことがあったことを思い出し、俺はうなずいた。
「花も――味が違うのですか」
「違うな。赤い花であれば、口の中が朝焼けのような味になる。――冷えきった暗い夜空に、じんわりと熱が広がり、朝がやってくる――そんな味だ。青い花は、早朝の朝露のような味。白い花は――一番、空虚だ」
俺はしばらく考えた。どんな味なのか想像が難しいが、色と味に何かしらの関連性があるようだ。
「なるほど。色と精霊は関係がありますからね。赤い花であれば、やや炎の精霊の気が強いですし、青い花であれば水の精霊の気が強く――白は、どの精霊の気も微弱だ」
「……そうだ」
エドラヒルはうなずいて、俺を見つめた。
「そういう話を、私はしている」
俺は首を傾げた。
「エルフは、森を司る風や水や土の精霊と関係が近しいと聞きました。逆に炎の精霊は嫌うとも――赤を好む方もいるというのは、意外です」
「そうなのだ。……赤い花を好む者は、里では、変わりもの扱いされてな」
深いため息。
それから、エドラヒルは俺を見つめた。
「オリヴァーよ、私の好きな味の花はなんだと思う」
突然の質問に俺は困惑して瞬きを数度した。
「……赤、でしょうか」
「――当たりだ。よくわかったな」
俺は黙った。なんとなく、このエドラヒルというエルフは、エルフの里でも変わり者だったのでは、という感じがする。だから、こんなところをうろうろしているのではないだろうか。だから、「赤」と答えたのだ。
「肉を好んで食べてらっしゃるので――、そう思ったのです。火を通した肉は、火の精霊の気の塊でしょう」
エドラヒルは深くうなずいた。
俺の親戚の鍋は、味付けもぴりっとした香辛料を使用した、いわば「火」の系統だ。
彼の口に合ったのかもしれない。
俺はふと気になって聞いた。
「その鍋は――どういう味がしますか?」
さきほどは、「いい」と一言、端的に述べただけだった。
『朝焼けのような味』だとか、彼の独特の表現でいうと、どのような味なのだろうか。
「……辺境民が森に残した焚き木の――」
エドラヒルは一瞬言葉を探すように視線を落とした。
「火がついたままの炭をそのまま口に放り込んだような味だ」
「――え?」
俺はエドラヒルの紫の瞳を見つめた。
真面目な瞳だった。思ったことをそのまま口に出しているのだろう。
「――おいしいのですか、それは……?」
「癖になる」
「……」
身体に悪いのではないだろうかという考えが頭に浮かび、俺は黙り込んだ。
すると、エドラヒルは相好を崩した。
「――お前は、魔法使いだと言ったな。人間の魔法使いと話すのは初めてだ。――会話が盛り上がって楽しい……」




