13.遺跡調査(本番)
俺は邸宅の広間だと思われる跡地へとエドラヒルを手招きした。
「ここに、古代魔法文字が刻まれている」
エドラヒルはしゃがむと、目を細めた。
「……これは、空間魔法の魔法陣だな」
「……空間魔法か」
俺は唸った。空間魔法は高度魔法の一つで、一般の魔法使いは使うことができない魔法だ。
現実とは異なる別空間を作り出す魔法だが、古代の魔法使いは今よりも気軽に使っていたとされている。
「――閉ざされた、空間がある?」
俺は教授から借りて来た、この遺跡から出土した水晶飾りを手に持つと、魔力を流した。
この遺跡に空間魔法による隠れた空間が存在しているなら。
もしそこにこの水晶の片割れがあるなら。
何か反応があるはず――
「駄目か。前にもやったもんなあ……」
エドラヒルに会いに行く前に、同じことをやってみたが、そのときも反応はなかったことを思い出し、ため息をつく。
「――少し、空間を揺らしてみよう」
エドラヒルが地面に手を置いた。
――途端、ぶわっと周囲に草が芽吹いて、花が咲いた。
と同時に、俺の持っている水晶飾りが微かに――確かに震えた。
「――これは!」
「……隠れた空間が、ありそうだ……」
エドラヒルは俺を見つめて、にやりと笑った。
「今、何をしたんだ?」
「オリヴァーよ。空間魔法は、どのように別空間を作るのかは知っているか?」
「――精霊を大量に集めることで空間を歪ませ、それを魔法陣で固定する」
自然界には平穏時――通常時は均一に精霊が存在している。
精霊が偏る――いわゆる『精霊バランスが崩れた』状態になると、魔物が発生したり、自然災害が起きたりする。
精霊を一カ所に大量に集めることで、空間に歪みを生み、異空間を作り出す。
それが空間魔法だ。
大量の魔力と高度な精霊操作を必要とするため、使える魔法使いは多くない。
「そのとおりだ」
エドラヒルはうなずくと、先ほど彼の魔法の力で育った、ひときわ背の高い草むらを見つめた。
「そして……、生命属性の魔法は全ての精霊の源となる力だ。生物の成長は、全ての精霊力を消費する。今、この植物を一斉に成長させて、周囲の精霊力を一気に消費した。――それにより」
「――空間に固定された精霊が動いて、空間魔法が揺らいだのか」
エドラヒルの言葉の続きを奪うようにつぶやくと、彼はにやりと笑った。
「そうだ。……お前との会話は川の流れのようで、やりやすい」
「――そのまま、隠し空間の入口を作れないのか?」
「――入口をこじ開けるのは、難しい。しかし、私の魔法と、お前の魔法を合わせれば、できると思う」
「俺の魔法?」
「オリヴァーよ、お前は風の乙女たちに愛されているようだ。お前の周りには風の精霊たちが集まっている」
エドラヒルは俺を見つめた。
「お前はきっと、私より風魔法が得意だろう。風で、歪みを探り、風穴を開けろ」
俺は周囲を見回した。草原の風が、俺を鼓舞するように頬を撫でた。
エドラヒルは俺に笑いかけた。
「ちなみに私は、生命魔法については里でもかなり得意な方だ。――なにせ罰として、長い間、延々花を育てさせられてきたからな」
「……自慢するところか、それは」
「――冗談だ」
エドラヒルはまた笑うと、地面に手をついた。
「お前と私の魔法は、よく響き合うらしいな。風の魔法使いよ――その風で、道を開け」
それと同時に、にょきにょきと、また植物が伸び出した。
こんどは木まで生えてきている。エドラヒルは、先ほどより魔法の出力を上げたようだ。
魔法使いギルドに戻って、報告するべきでは?
今この場で、俺だけで、空間魔法の先へ……踏み込むのか?
……けれど、エドラヒルほどの生命魔法の使い手はギルドでも見たことがない。
そんな術者が、この遺跡の調査に協力してくれているのだ。
そうだ。俺だけではない。このエルフが一緒に来てくれる。
――きっと、できるはずだ。俺とこいつなら。
俺は目を閉じると、手に握った水晶と、周囲の風の精霊の動きに集中した。
精霊たちを駆けまわらせ、空間の歪みを探る。
――そして。
「見つけた!」
俺は目を開けると、杖を持ち、渦巻を作り出した。
それを見つけた歪みめがけて叩き込む。
空間が軋み、空気が裂け――
目の前に、真っ黒な穴が口を開けた。
「――おお。入口だ」
エドラヒルが立ち上がった。
俺は周囲を見回した。
俺たちの周りには、いくつかの木が俺の背丈ほど伸び、小さな森ができあがっていた。
黒い穴の先からは、古びた匂いが漂ってきて鼻先をかすめた。
エドラヒルは穴をのぞきこむと、こちらを振り返って少年のように嬉しそうに笑った。
「行こうではないか」
俺より張り切った様子で、エドラヒルが黒い闇の裂け目へと、足を踏み入れた。




