11.エルフと遺跡へ
翌日、俺はエドラヒルと共に調査中の遺跡に行った。
「これは――大きな邸宅の跡だったのでは?」
石積みの跡を見ながらつぶやくエドラヒルに、俺はうなずいた。
「そうだと言われている。――エドラヒル、君は、ここに古代都市があったのを見たことがあるのか?」
エルフは長命だ。
もしかしたら、エドラヒルはこの遺跡に人が実際に住んでいたときを見たことがあるのかもしれない――そう思った。
「――ない。私は、里を出るのは二回目なのだ。――以前、里を出てみたときは――このずっと先の、赤い屋根の城を見た――」
「それ、もしかして――」
俺は思わず声を上げた。
「今の、魔法使いギルド本部じゃないか?」
ずっと先に見える赤い屋根の城といえば、現魔法使いギルド本部として使用されている、かつての領主の城だ。――今は、魔法使いの象徴として黒く塗り替えられているが。
「あそこが赤い屋根だったのは百年くらいは前だ――」
俺はエドラヒルを見つめた。
「エルフに年齢を聞くのが失礼だったら悪いが、エドラヒル――お前は、何歳なんだ?」
エドラヒルは首を傾げた。
――見た目は俺と同い年くらいに見える。
しかしエルフというのは、ほぼずっと青年の姿のままと聞くので、実際何歳なのかはわからない。
「――わからない」
俺の内心と同調するように、エドラヒルはつぶやいた。
「……わからない?」
「人間の暦で何歳か――そういう意味だよな? それならば、わからない。人間の暦など知らん」
「……それは、そうか……」
「私は大人だ。……親も既に森に還った」
エドラヒルは俺を見つめた。
「“森に還った”……?」
耳慣れない言葉を復唱すると、エドラヒルはうなずいた。
「ああ。年老いたエルフは森に還って、悠久の森の一部となるんだ」
「……亡くなった、ということか?」
「違う。エルフは寿命が来れば、森の中へ還り、木となる――死とは、無だろう。それとは違う。――形は変わっても、いなくなるわけではない」
……エルフは悠久の森の精霊のような存在だ。
人間とはやはり風習がかなり違うのか……
そう圧倒される俺を横目に、エドラヒルは羽織っている辺境民のマントのポケットから、両手ほどの長さの木の枝を出した。
「これが、私の父母だ」
「……は?」
思わぬ発言に驚き、目を見開くと、エドラヒルは不思議そうに首を傾げた。
長い銀の髪が風に揺れる。
――”森に還って”木になったエルフの、枝ということか?
「里を出るときに、なんとなくな……折って連れて来た」
「……」
「――前回、その城が見えるところまで遠出をしたとき、私はまだ大人ではなかった。――だから、父母が探しに来て、森へ連れて帰ったんだ。……今はもう、私を捜しに来ることはないがね」
つまり――
前に里を出たとき、あの赤い屋根の城が、まだ領主の城だった頃。
そのとき、エドラヒルはまだ少年で、両親に連れ戻された。
そして百年以上経って――今。
大人になったエドラヒルは、再び森を出てきた。
「――エドラヒル、君はなぜ、里を出たんだ?」
「最初は、海を見たかったんだ」
「海」
「書物でしか知らなかったからな。森には泉はあるが海がない。海を見ようと、ある日思い立ち、森を出てひたすら南へ行ってみた」
「……海は見られたのか?」
エドラヒルは肩をすくめた。
「その赤い屋根の城が見えたあたりで、追いかけて来た両親に捕まって、里に戻された」
「そうか……。それで、今回はどうして」
「――里が嫌になったからだ。親も森に還ったし、いる理由もなくなった」
「“厄介者”だったと言っていたな」
「ああ。――外に出たがるし、肉を食べるからだ。……精霊の気を乱すと言われた。精霊の気が乱れると、森に還れない。――だから、里では、外に出るのも肉食も禁忌だ」
「だが」とエドラヒルは眉間に皺を寄せた。
「子どものときに外に出たとき、食事は辺境民の食事を分けてもらった。――肉を食べて、衝撃を受けた。癖になる味で、口にすると止まらない」
“癖になる”であって、”おいしい“ではないのは確かなようだ。
「しかし、里に連れ戻された俺を、里の者は“腐敗した魔物を煮込んだような臭いがする”――と言って、遠ざけた。そして、里を勝手に抜け出した罰として、臭いがとれるまで、花畑で延々、里の食糧の花を咲かせる仕事をしろと言われた」
「……その言い方は、ひどいな」




