第8話 練習用のバーを準備する話
「それじゃ、ここからバーを使うから皆お手伝いね!。いつもの3列で並べてね」
「「「「はーい」」」」
でもって皆、勝手は分かっているのか壁際の端っこに寄せていたバー……つまりは肩ぐらいの高さの、鉄棒のような洗濯物乾しみたいなスタンドを移動させ始めた。長さは3mぐらい。それを2人か3人で持って移動しようとしている。
「あ、手伝います」
ふと中学生と背の低い小学生で、大きなバーを持ち上げようとしたところに声をかけ、小学生の子に真ん中に行って貰い、後ろの方に回った。
「あ、ありがとうねぇ。助かるわぁ」
前を持っていた中学生は何か、ちょっとおっとりとしたしゃべり方だった。バーは、2人だとちょっと重いけど、3人なら難なく運べる。
「これはねぇ、高い方だからぁ、真ん中の方にねぇ」
「はい!」
「キーも持つのだ。楽ちんなのだ」
真ん中の子は自称キーちゃんというらしい。最初に見た時に緑のレオタード着てクルクルと回っていた上手い子だ。背が低いので両手を大きく上げて、持つというより支えて貰っている。ぶら下がっている訳じゃないよね。
「花江ーっ。よろよろするななのだ。持ちにくいのだ」
あ、前の人は花江っていうんだ。でも花江って姓かな? 名前の方かな?
何とか、ゆっさゆっさと運ぶ。
「ねぇ、あなたさぁ、見えたんだけどぉ、とぉっても身体、柔らかいじゃなぁい。バレエ初めてって嘘じゃないのぉ?」
「いえ、本当に初めてです。ただ、ちょっと前まで体操やってて」
「体操って、ラジオ体操とかのじゃなくてぇ、鉄棒とか平均台とかのぉ?」
「そうです、器械体操の。特に平均台とかが得意で」
「そっかぁ」
その話を聞いていたのか、キーちゃんも話しに加わってきた。
「じゃ、バク転とかバク宙もできるのか?」
「出来るよ。でも助走いるし、こんな板の間じゃなくてマットとかあるなら」
出来るって言ったら、やってくれとか言われるのかな? でもここの木の床はとても硬いし、クッション性もない。ちょっと怖いかな。
「鉄棒は?」
「鉄棒は男子競技。でも平行棒しているから、簡単な技なら出来るよ」
「じゃ、これで」
前の子が置いた位置のすぐ後ろに、花江さんがバーを置いた。
え、 このバー?
「ちょちょっと、そういう事するのに、このバーは低すぎるよ。それに不安定だし」
そう言うと、キーちゃんはバーの足にしがみついて座った。それ見て花江さんも反対側の足に乗ってギュッと持つ。
「バーの足、固定してもダメ~っ!」
何かやらないとこの人達、納得しないかな?
「あれ? えっと」
気になって、ちょっと周りを見渡してみた。
「ええ? どぉしたのぉ?」
「さっき補助して貰ったお姉さんいたけど、どこにいるのかな? って」
「お姉さんー?」
「うん、お姉さん。背が高くて、胸も大きくて」
最後は別の子の様子見に行っていたようだけど、背も高くて目立つ筈だから、すぐ分かると思ったけど……
「え、何なに? お姉ちゃんって、私の事?」
いきなり後ろから抱き付かれた。
え? ちょっと。
首だけ振りむいてみたら、あ、さっきのお姉さんだ。
「ねぇ今、お姉ちゃんって呼んだよね、お姉ちゃんって呼んだよね」
「ええ、一応……」
年上のお姉さんだし。
「よーし、特別に私の事、お姉ちゃんって呼ぶことを許そう。今から私はあなたのお姉ちゃんだからね!」
抱き付いて、ぐいぐいと身体を押し付けてくる。
あ、背中におっぱいの感触が。
ふと前を見ると、花江さんとキーちゃんが呆れた顔で見ている。
「あの、この状況……」
すると花江さんが頭にちょっと手をやり、
「ネギはねぇ、見込み良さそうな後輩が入ってくるとぉ、お姉ちゃん強要するのよねぇ。でも、みんなぁその翌週からネギとか先輩に落ち着いてぇ……」
「キーもネギって呼んでいるのだ」
なぜかキーちゃんは得意顔だ。
「何でネギなんですか?」
ネギ焼きが好きだとか、ネギ持って練習に来たとか。
「名前が根岸なんだよ……」
ちょっと不機嫌そうな声で根岸さんが言う。
ネギの愛称が嫌なのか、後輩にタメ口で呼ばれるのが嫌なのか。
「でもアユミちゃんは私の事、お姉ちゃんって呼んでくれるよねぇ」
あ、私の愛称もアユミで決定か?
でもイソとかザキとか呼ばれるよりはマシか。
「ねぇ!」
顔を覗き込まれて、目の前がネギさんの顔のアップになる。
「えと、ネギお姉ちゃん……」
「んっ!」
とたんにその表情が、難しい顔になった。が、直後に崩れて、
「じゃ、そのネギお姉ちゃんで、決っ定~っ!」
そう言って、さらにギュッと抱く力が強くなった。
ああ、ネギと呼ばれる分にはいいんだ。というより、もう諦めているのか。
それより背中に感じるおっぱいの感触が!。まぁ同性だから良いっちゃ良いんだろうけど、何か凄く照れる。




