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第18話 ネギお姉ちゃんが、踊る話

「あれ? ネギお姉ちゃん。その靴は?」

 そう聞くと、お姉ちゃんはニヤっと悪戯いたずらっ子の様にニコっと笑って、

「これはね、魔法の靴。でもそれ穿いた人にじゃなくて、それを見る観客に向かってかける魔法なの」


 そう言うと、ネギお姉ちゃんはさっきまでボクが平均台で演技していたところと同じ場所に立ってポーズをとった。


 同時にユイ先生がCDプレイヤーのボタンを押した、カチっと鳴った。

 プレイヤーのスピーカーから何か、オルゴールの様な音が流れてくる。


 そしてネギお姉ちゃんはその音楽に合わせて踊り始めた。


 え、 立った?。

 つま先だけで立った。

 ただ立っただけじゃない。つま先から、足から、身体から、伸ばした手の指の先までが1本にまっすぐ伸びた。

 そこから音楽に合わせてステップ踏んでいる。その、つま先だけで。


 で、この曲知っている。何だっけ、あのくるみ割り人形の中の一曲?。

 金属的な、冷たく響く、透明な音だけの曲。

 聞いた事はある。でも、それに合わせてこんな踊りするの?


 つま先だけで立ってステップ踏むだけじゃない。

 跳んでいる。跳んで片足で、着地して、もう片方の足は "く" の字に持ち上げて、もう片方の膝に当ててポーズ取っている。

 そこからまた、大きく跳んで、つま先で立っているのにもう片方の足が後ろに上がって、アラベスクっていうんだっけ、そのポーズを決める。

 何で?、何でこんな事出来るの!?


 さっきお姉ちゃんが言っていた、魔法の靴っていう奴?


 そういえば、バレエって確かそんな靴履いて、踊るんだっけ?

 でもさっきまで誰もそんな靴履いて踊っていなかったから、てっきりそういうのはプロバレリーナが踊るもので、自分たちの様な学生やアマは使っちゃいけないものだと勘違いしていた。


 でもお姉ちゃんはその靴を履いて、踊っている。プロじゃないのに。

 そんな事出来るの? して良いの?


 このオルゴールの様な曲が、とても綺麗。

 そしてその弾ける様な1音1音に、ひとつづつのアクションが入る。

 刻む様に、音に合わせてつま先がフロアを叩く。


 ステップ踏みながら、目の前の舞台を大きく移動していく。


 こっちに来た。

 あ、目が合った。

 こっち見ている。ちゃんと見ている。


 ボクなんか、自分の技の一つ一つを決めるために、誰も見る余裕なんか無かったのに。


 見て、にこっと笑ってくれた。

 ボクの為に、ボクの為に、踊ってくれているの?


 くるっと振り返って、ゆっくり向こうへステップ踏んで行った。

 

 大きくステップ。手も足も、大きく丸い円をえがき、そのまま、くるっと回転する。そしてまた、大きくステップ。手も足も、大きく丸い円をえがき、そのまま、くるっと回転する。


 これは本当に魔法だ。

 魔法で機械仕掛けの人形が、オルゴールの中から飛び出して、ボクの夢の中の世界でダンスを披露してくれているんだ。


 音楽のテンポが急に早くなった。

 同時に、ダンスの動きも早くなった。

 つま先立ちの連続で、クルクル回る、ステップ踏む様にクルクル回る。クルクル回って、この舞台の端から端まで移動していく、端まで行ったらまた、その舞台を回る様に帰っていく。クルクル回りながら、何度も何度もクルクル回りながら。手も大きく振りながら。


 そして音楽が止まる。同時にお姉ちゃんの動きも止まって、両手を上に上げて決めた。フィニッシュ!?


 途端にボクは大きく拍手していた。たまらず拍手していた。

 まわりの子達も、合わせてくれてか一緒に拍手してくれた。


 実は、先生とユイ先生は、小さな声で色々とチェックは入れていたのは聞こえていた。足が上がっていないとか、伸びていないとか、キープできていないとか。

 でも、そんな事は全然気にならない。というか最高だった。


 ゆっくりお姉ちゃんはこっちに来た。

 

「どうだった?」

「凄かった、凄かった、凄かった、最高だった!」


「そう?」

 と、言いながら、にっこり笑顔を向けてくれた。

「でもアユミちゃんの平均台も良かったよ。感動したもん」


 思わずお姉ちゃんに抱きついていた。

 その大きな胸に顔を埋めていた。

 泣いていた顔を見られないように。恥ずかしくて顔を見られないように。


「こういうのは一期一会なのよ。今会えたから、今会えた喜びを全部伝えるの。悔いのない様に、その気持ちが冷めないうちに」

 ボクは、うんうんと頷いていたんだと思うけど、声は出ていなかったかも。


 バレた。ボクの気持ちが。

 隠していたのに、でもお姉ちゃんに全部、気付かれてしまっていた。


 落ち着いて、やっと顔を上げられた。

 お姉ちゃんの顔がアップで見えた。


 泣くのは耐えた。もう見られないように。

 見られて、その理由を聞かれないように。


 気が付くと、もう今日の教室は解散して、皆バラバラに帰っていくところだった。

『あーあ』とキーちゃんがこっちを見て呆れている様だった。


 落ち着いたところでユイちゃん先生が、こっちに来た。

「実はねぇ、この後の午後からの部が始まるまでは、この会場使っていい事になっているから、まだちょっと練習しているからね。じゃあね」


 そう言いながらユイちゃん先生はネギお姉ちゃんの肩をポンポンと叩いた。

「ごめんね。もう行かないと」


 そう言ってネギお姉ちゃんも、向こうで待っている花江さんとか他の大きなお姉さんたちの方に合流していった。


 一期一会。そうなんだ。

 ボクが此処にもう来れないとしても、今日ここでネギお姉ちゃん達に会えたことは、無駄じゃないんだ。


 彼女たちが此処を去って行くのと入れ替わりに、見学を終わらせたママがこっちにやってきた。 

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