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第17話 平均台の演技する話 3

 観客側で、そういう動きがある中でも、アユミの演技はずっと続いていた。

 というより、演技に集中していて、そんな動きに気付かなかった。


 平均台の端で、くるっと反転し、2歩歩いて片足立ちで身体を倒してバランス。

 上げた右足がピンと伸びているので、パンシェ(前傾)のアラベスクにも見えない事はないが、大きな違いは両腕を脇に揃えている事。

 バランスを取る為だ。

『静止系は大丈夫。平均台が思ったより安定している感じ。高さ低いからかな?』


 そのまま両手を前について、開脚のまま倒立。

 倒立したまま、その両足も閉じて垂直の一本の直線になる。

 今日のレッスンで習った直立して立つのと上下は逆だが、今日習った事の成果がはっきり分かる位に安定している。腕の下に延長する先には地球の中心があり、足のツマサキの延長には真っすぐの宇宙がある。

『本当の演技では、直立は無しなんだけど、さっき習ったまっすぐ立つというのを、倒立で試したかった。意外と良い感じ』


 規定とちょっと違うが、その会場にいる者では誰も分からない。でも、その直立した倒立は美しいと、見ている人を感動させていた。 

 実際、八木はそれを見て小さく音が出ない拍手をしていた。

 見た瞬間、これは私が教えた直立だと気付いていた。


 やがて、そこからゆっくり両足を開いていく。

 開いた足が、180度の一直線になり、大きなTの字になる。


 これも美しいと八木は感動していた。

 でもバレエでは使えない。

 地に手をつく動作は、バレエではあまり無いし、まして倒立などしない。

 それを悔しいと感じていた。

 

 アユミはそこから身体をゆっくり倒して、平均台に片足ずつ着いて立ち上がった。そしてそのまま両腕を大きく振りながら後ずさりしていく。

『ここまでは、とりあえず大丈夫。でもラストは変えないと。この平均台は高さも長さも足りない。だからと言ってポロっと降りても、もの足りない。規定とは違うけど、やってみよう。その練習だけは何度もしていたし』


 平均台の一番後ろにいる事を足の裏で確認する。ちょっと息を整える。

『もう、この平均台の3mの長さも身体が覚えた。行ける!』


 と、軽くステップ2歩前に助走し、ひねりを入れた側転をし、またギリギリの反対側の端に着地。踏ん張って後ろ向きに、一気に宙に跳び上がった。

『よし! 端っこOK。ジャンプも跳べている!』


 跳んだのは真上だが、勢いが付いていたので身体は平均台の先のマットの中心に向かっている。


 跳んだ瞬間、身体を抱え込むように縮める。伸びていた身体がヨーヨーの様な回転運動に変わる。

 これまで回転の中心は胸でする様に意識していたが、今回だけは腰に来るように意識した。平均台が低く、地面までが近すぎる。回転はコンパクトに纏めないといけない。この場合、宙返りするなら前方より後方の方が、綺麗にまとまる。


 地面が近づく。

 何とか回転のスピードが間に合って、ギリギリ両足がマットに着地した。

『よし、手もお尻も付かなかった!』


 ギリギリだったが、そのまま平常心で身体を伸ばす。

 

 伸ばして着地のポーズは一直線でなく、お腹で身体が大きく弓なりに曲がり、両腕を大きく上げたYの字。

 バレエでは駄目だが、体操では定番の着地ポーズだ。


 アユミが着地して、ふっと一息ついて皆の方を見る。

 皆が、息を呑んでいるのが分かる。

『あれ? 終わったの、見てくれていたよね』


 アユミが少し不安に思ったその一瞬後、その直後に緊張の糸が切れる。

「「「「うおぉおああ!!」」」」

 歓喜の声が上がった。

 パチパチパチと、大きく拍手が上がった。


「あ……」

 落ち着いた。アユミはそれぞれの人達の顔を認識できた。演技している最中は、それが全く見えていなかったから。

 先生が、キーちゃんが、花江さんが、お姉ちゃんが、皆が、感激して手を叩いてくれているのが分かった。


 と、同時にいきなり恥ずかしくなった。

 そんな、賞賛を受けたくてやった訳じゃない。

 今日、ボクはバレエ教室に来て色んな事を教えられて、自分が受けた感動の一部でも返したいと思ってやった事で、大げさな事をした訳じゃない、と思っていた。

 そして、同時に自分はもう、ここに来れない。皆が受け入れてくれたこの教室に、もう来れない事のお詫びも兼ねてだから、こんなに派手に喜ばれてしまうと、かえって恐縮してしまう。


 ネギお姉ちゃんが、すくっと歩いてやって来て、頭を撫でてくれた。

「凄く良かったよ。だからお返ししないと」 

 そして、お姉ちゃんは、そのまま更衣室の方に走り去っていった。


「え? お姉ちゃん……」

 別に、何かを期待していた訳じゃなかったけど、何でお姉ちゃんは此処からいなくなるんだ。少し憤慨した。


 その代わりに、ユイ先生がこっちに向かってきた。

「あのね、根岸さんがね、アユミちゃんに見せたいものがあるんだって」


 そして八木先生がこっちこっちと手招きしている。

 もう、ぼぅっとして何も考えられずに八木先生の方に行って横に座った。

「凄い! 本当に美しいわ、貴方。こんなが私の教室に来てくれて、私、本当に嬉しい」

 そう言いながら、頭をくしゃくしゃに撫でられた。


「私はバレエ一筋で、体操なんか全然興味なかったけど、初めて体操で美しいって感動したわ。やっぱり体操もバレエも、本質では繋がっているみたいよね」

「あ、はぁ……」

 もう、脱力して身体も動かない。


 その代わり、ユイ先生とか花江さんとかが平均台とかマットを片付けてくれていた。

 そして、それらが片付いた後、ネギお姉ちゃんが更衣室から帰ってきた。


『あれ? 着替えに行っていた訳じゃないんだ』

 レオタードや衣装が変わった訳では無かった。

 そう思ったけど、よく見ると靴が変わっていた。

 パッと見には同じだが、足の甲の部分が大きく開いて、生地がツルツルしている。靴の両サイドからリボンが伸びて足首を固定している。


 これも、バレエシューズ? ちょっと違う感じ?。

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