第12話 センターレッスンの話 2
ちょっと間をおいて、
「んじゃ、もう一回ね。手はアンバー。足は5番。右足前でー」
え? 5番ってどんなだっけ。
先生と他の子を見ながら、真似る。右足をまっすぐ前にして、その踵に左足の先をL字にして合わせる。
「そのままドゥミプリエー」
ゆっくり膝を曲げる。
真似をして、同様に膝を曲げる。
今回は、バーの支えが無いから少し不安定だが、ゆっくりだから何とか。
「腕はそのままでいいからねー」
何度かプリエをした後、
「じゃあ見ていて。次っ、プリエで勢い付けて、踵を上げるよー」
ユイ先生は、そう言って手本を見せた。
一回プリエした後、ピョンとジャンプするようにカカトが上がって足が開く。ピンと一直線に伸びた足と身体も真上に伸びて、まるで東京タワーになったような感じ。
伸びて降りる。降りた時は足は同じ5番のポジション。
「エシャペって言うのっ。本当はねー、ピンと伸ばした後にー、足の前後を入れ替えるんだけど、無理して戻さなくていいわっ。出来るならやってみる。ジャンプするような感じで身体を伸ばしてー」
一通り、手本を見せた後、
「じゃ、行くよー。いちにの、さんはい!」
ユイ先生が、手を叩いて号令する。
それに合わせて、皆がそのエシャペをする。
皆は既に習った事のある技だろうから、難なく出来る子、ちょっと戸惑いながらする子といるが、ボクは完全に初めてだ。
ちょっと遅れながら、ピンと伸びる様にやってみた。
形は出来たかもしれないが、姿勢は良くなかったと思う。
「そうねー、最初だからそんなものねー。じゃもう一回、はいっ!」
皆、それぞれ難なくこなしていく。
ボクも、さっきよりは上手くできた感じがする。
ユイ先生もボクの動きを、笑うでもなく褒めるでもない感じで見ていた。
「さっきまで練習していたプリエはねー、ただの運動じゃないっ。次にジャンプしたり回転したりする為の予備運動なのよー。この色んなパ……つまりはステップねっ、それを連続で一連の動きにする為の動作だからー、一つ一つを大事に確実にマスターして欲しいのっ」
そう言いながら、皆の前で一回、ピシッと立って見せる。
「プリエは同時にジャンプした後にぃ、着地でしっかり衝撃を吸収する為の動きでもあるから、しっかり身につけないと足を悪くするわよー」
そう言いながらプリエした後、大きくジャンプして、つま先で着地してゆっくりプリエして踵を落とした。
一つ一つの動きはゆっくりしていて、ジャンプした重力すらゆっくり見える。
とても優雅な動きだ。
「つまりプリエは柔道で言う、受け身みたいなものですね」
つい最近、柔道の基礎を教えて貰ったばかりだから、つい言葉に出た。
でも、ユイちゃん先生は
「ごめんなさい。その例え、全然分からない」
ニッコリ笑って、言葉を返した。
そうだよね。柔道用語なんか一般女性はすぐ分からないよね。
そして、ユイちゃん先生は、練習場の中央の方に手を向ける。
そちらジュニアとユースのメンバーが、いくつもの動作を次々にこなすように踊っていた。
「あの動きをよーく見てねー。どれ一つ無駄な動きはないしー、意味のない動きはないのよっ」
そのジュニアとユース達は、全員がほぼ一糸乱れずに同じ動作で踊っている。跳んで、着地して、軽くプリエして伸びあがる様に回転して、横にステップして……
一人一人の動きだけなら上手だね、と思うだけかもしれないが、それを全員が全く同じステップで踊っている。何か迫力を感じた。
そして、タン・タン・タンとステップして回って、ピタッと決めて止まった。
「凄いでしょっ。その為にも、色々な技を覚えていきましょうねー」
ボクは思わず、コクコクと頷いていた。
「じゃ、今度はそのエシャペを連続でするわよっ。じゃプレパラシオン!」
と言ってから、ユイ先生は一回止まった。
「あ、ごめんねー。教えてなかったわぁ。このプレパラシオンって最初のポーズを取ってねっていう号令なのー。だからさっきの5番の直立で立ってスタンバイね」
あ、ボク以外は全員分かっていたみたい。
「じゃ、いくよープレパラシオン!」
全員、ピタッと直立して待っている。
「手拍子に合わせてねー、いち・にぃ・さん・し、プリエ、エシャペ、プリエ、エシャペ……」
その号令に合わせて、伸びて、かがんで、を繰り返す。
一回一回がどうかなんか考える暇もない。
正直手拍子も、皆が聞いているのかも分からない。
足も入れ替えているつもりだけど、ぶつかったり微妙にズレたり。
でも他の子も似たようなものだ。足があっち行ったりこっち行ったり。
一糸乱れずどころか全員バラバラで、伸びたりかがんだりを繰り返している。
でも、楽しい。ただ手拍子に合わせて身体を動かしているだけなのに楽しい。
「はいはいはいっ」ユイ先生はパンパンと手を叩いて皆を止める。
「じゃ、次の動作に移るねー」
その後も、全員でシャンジュマン(エシャペで、本当に跳びあがる)とか、バーの時にやった、フォンデュしたり、フラッペしたり、ジュテしたり、デヴェロッペしたりを繰り返した。
正直動作は皆、バラバラだったけど、時々決めで止めたり、でもってバランス崩したりして、低学年・幼稚園の子に一人大きな子が混じってだけど、何か一体感は感じた。
そんな子達に混じっていたからか、いつもの自分と違って異常にはしゃいじゃったせいか、皆、自分も含めて息も切れ切れになった。
その皆が、はぁはぁするのを見てか、
「じゃあ、ちょっと早いけど。終わりまーす」
そう言って、皆を止めて並ぶよう指示した。




