第9話 バーレッスンする話 1
「はいはい。そろそろ始めるわよ!」
八木先生が、またパンパンと手を叩いて号令する。
「バーを並べたら、それぞれ自分の高さのバーの横にね!」
そう言って、バラバラだった生徒たちを急かせる。
その言葉に、キーちゃんは隣の列のバーに並んだ。背の高さに合わせてちょっと低い。反対側は、かなり低いが、そこに幼稚園や小学校低学年ぐらいの子が並ぶ。
ひょっとしたら、自分のお気に入りの場所があるのかもしれない。皆、迷わずに自分のポジション確保している。
ボクと花江さんは、自分たちが置いた真ん中の列のままだ。
ネギお姉ちゃんは、やっぱりヘルプとして、横に立ってくれる。
「じゃ、アユミちゃん。先生と花江を見て真似して」
先生は一番前でちょっと見づらい。でも前にいる花江さんが、ちらっとこっちを向いた。花江さんが先生の動きをトレースるから、それ見て真似すればいいんだ。
キーちゃんは、隣の低い方のバーの所から手を振っている。
ボクから良く見える位置にいる……という事は、自分も手本に見ろという事か?
「バレエは専門用語多いけど、その内覚えられるわ。今日は出来なくても、いいの。こういう事をするんだって思って。それと今、全て完璧に出来なくてもいい。悪いところは指摘してあげる。でも、出来る事は頑張って覚えて。しっかり見ていてあげるからね」
「あ、ありがとうございます」
どうやらイジメられることなく、みんなとも仲良くして貰えそうだ。
「今日は、他にヘルプの子いないから、ユイちゃんピアノの伴奏じゃなくて、皆のフォローに回って」
「はいはーい」
もう一人のTシャツの先生が手を振っている。ユイっていうんだ。
でもって普段は、この人がピアノ弾くのかな?。
「じゃ、今度の発表会向けに持ってきた音楽使うからね」
そう言いながら先生は、持ってきたCDをプレイヤーに入れてスイッチを入れる。
とたんにCDからゆっくりとした曲が流れる。
あれ? どっかで聞いたことがある。
♪たん・た~らたんたんたん、ちゃ~らったったった・た~ら!
「あ、くるみわり人形の序曲よ、これ」
「あ、確かに」
テンポの良い、ゆっくり目の曲だ。
何かこれから楽しい事が始まりそうな。
「まずプリエするね。1番、1番で立ちまーす」
みんな直立して、膝はピンと伸びながら足だけ左右に大きく開いて、180度の一直線の子もいる。
「あ、ちょっとアユミちゃん初めてだから、バーはこうやって両手で持ってみて」
ネギお姉ちゃんから、指導が入る。
皆は、バーを横になる様に立ち、左手でバーを掴んでいたが、バーの正面になる様に立ってバーを両手で握る様な体勢になった。
見ると、一番低いバーの幼稚園の子とかで何人か同様に両手持ちの子がいた。
当然ながら、真ん中の一番高いバーと、隣の中くらいのバーには両手持ちの子はいなかった。
仕方ないよね。今回は……。
「花江さんの足見て、コレが1番ポジション。基本だから覚えて」
花江さんが、そう言われて足を180度開いて立ってくれた。それ見て足の恰好を真似てみる。見よう見まねだけど、一直線に揃える。
「凄いね。いきなり180度開くんだ。でもここから膝開くから無理しなくていいよ」
「あ、はい」
バーを両手で掴んで、背筋を伸ばして、身体もまっすぐに力を入れる。
すると、
「ダメよ、無理に力んで立ったら、胸とお尻が出ているわ」
と、お姉ちゃんは後ろから、悪い所に手を当てて修正してくれた。
お尻のところをちょっと引いて、背筋を頭の方に持ち上げる感じで伸ばす。
「この時、身体は地球に対して垂直。頭も真上から糸でつり上げられているイメージで持ち上げてアゴも引いて、足もお尻の穴をキュッと引き締める感じで」
そう言って、お尻から背中までスッと延ばすように撫でる。
まっすぐ力入れて立とうとしていたから、体操で着地時のポーズが身体に染みついていた様だ。ちょっとS字の弓なりに曲がっていた。
でもこうやって、地面から垂直に、身体をまっすぐにして立つんだ。
こちらが大丈夫になったのを確認してか、八木先生が見本と号令を出した。
「では始めまーす。ドゥミプリエ!」
テンポよく曲は流れている。
その音楽に合わせるように、皆が動く。
その1番ポジションの足から、膝を両横に開いて少し腰を落とす。
パッと見にガニマタだが、動きはとても優雅だ。
これが、ドゥミプリエ?
「足の先と膝が同じ方向に向いていないといけないから、足首や膝でなく、股関節を大きく開く感じね。足だけ180度じゃだめ」
そうか無理して足だけ開いてもダメなんだ。
膝を開きやすい様に、少し角度をつける。
周りを見たら、180度の子は少ない。120度か150度くらいか。やっぱり難しいんだ。あ、でもキーちゃんは、ほぼ180度。小さいけど経験は長いって言っていたっけ。
「次、2番からドゥミプリエ」
2番? 花江さんの足をしっかり見る。
1番より足一つ分広げている。そこから膝を曲げて腰を落とす。
「カカトは極力上げないようにね」
「はい」
1番に比べて足を広げている分、少し楽。
「4番ー」
2番から幅を一気に狭め、それぞれのカカトを通り越して、足が前後2列に並ぶ。
ちょっと手間取っていたら、お姉ちゃんが足に手を当てて直してくれる。
これで、いいかな?
そのポジションからまたドゥミプリエ。
「5番ー」
これはストレッチの最後にやった。足をL字に並べるヤツ。さっきはフラフラしたけど今はバーを掴んでいるから大丈夫。5番からドゥミプリエ。
一応、形だけはマネして屈伸は出来ている。
でも、ちゃんと正しく出来ているのかは自分でも微妙。
今、両手でバーを握っているから、何とかバランスを崩さない様に出来ている気もする。
いいのかな?
ちらっと、ネギお姉ちゃんの顔を見てみる。
にこっと笑った笑顔を返される。
ちゃんと出来ているよ、と合格の意味なのか?
今はこれでもいいよ、という暫定保留の意味なのか?
「今度はグランプリエも入れるね、1番からー」
軽やかな音楽に合わせ、先生は見本で腕を大きく羽ばたく様に優雅にくねらせながらプリエをする、1番からのドゥミプリエを2回して、大きく膝を曲げて腰を落とすグランプリエを1回。
でもボクは両手でバーを握っているから、その手の動きは無い。でも、そのグランプリエのところで、
「うわ」ちょっとふらついた。両手で握っていて良かった。
「ドゥミプリエは、カカト床に付けたままだけど、グランプリエの1番の時だけはカカト浮かせて良いから」
「う、うん」
「2番ー」
足をちょっと開いた2番から、同様にする。グランプリエではカカトがちょっと浮きかけたが、極力浮かせない様に大きく沈みこんだ。
「いいよーグランプリエは、そうやって思いっきり。バランスは後で付いてくるから」
「4番ー」
4番は一番フラフラする。バーを持って、なんとか。
「ほらほら、姿勢が傾いているよ。まっすぐまっすぐ」
「うん」
ああ、確かに花江さんとか長そうな人は、足がどうでも、グランプリエになっても立つ姿勢は、地球に対して常に垂直だ。動きで見えるから、よく分かる。
「5番ー」
5番も同様、足元あぶないけど、みんなのマネ。みんなのマネ。
カカトが上がらない様に、上がらない様に。
とりあえずボクなりに気付いた事。
このプリエはガニ股のポーズの練習ではある。
皆の動きのプリエを見てみると、そのガニ股なんだけど、何ていうか、綺麗……。
ふと、カカトが上がってしまった時のポーズを鏡で見た時、同じガニ股なのに、綺麗じゃなかった。綺麗に見えなかった。
つまりは、そういう事なのだろうか?
「頑張れー」
ふと周りから声かけられた。
え? 皆から注目されている?。
ちょっと恥ずかしい。
皆に比べて、そんなに綺麗なプリエが出来ていない。




