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第9章 ― 第四の柱

ヴェルが三本の柱を打ち倒したという事実は、

学校全体を大きく揺るがした。


その名は、もはや普通には口にされない。

畏怖と称賛が入り混じり、

噂となって校内を駆け巡る。


そして、彼には新たな異名が与えられた。


――ヴェル、“最後の一撃ワンパン”。


その異名は、決して誇張ではない。

彼の前に立った者は、例外なく同じ結末を迎える。


一撃。

容赦なく。

迷いなく。


七本あった、学園の支配構造を支える柱は、

今や――残り四本。


問いは、ただ一つ。


ヴェルは本当に、

誰も揺るがせなかった“柱のシステム”を

崩壊させることができるのか?


その日、学校は再び平穏を取り戻したように見えた。

――表向きは。


だが、ヴェルにとっては、

新たな嵐の始まりだった。


教室の前に立つヴェル。

無表情の彼を、教卓の向こうから鋭く睨む大柄な男。


ろく先生。


校内の教師の中で、

最も恐れられている存在。


低く重い声。

氷のような視線。

そして――

不良生徒の怒りよりも速いと噂される、その拳。


誰も逆らわない。

誰一人として。


――ただ一人、ヤミを除いて。


それも勇気ではなく、

単なる愚かさゆえに。


そしてヤミは――

一発で沈んだ。


今日は、ヴェルの番だった。


「また宿題をやっていないな」

六先生は静かに言った。

だが、その声には危険が滲んでいる。

「理由は?」


ヴェルは小さく舌打ちした。

「忙しかったです」


教室が、一瞬で静まり返る。


「……随分と肝が据わっているな」

六先生が呟く。


数々の残虐な柱を相手にしてきたヴェルは、

逆にその態度に火が付いた。


「じゃあ……」

ヴェルが言う。

「別の方法で片付けますか、先生?」


数秒後――


ドンッ!


六先生の拳が、ヴェルの世界を反転させた。


床に倒れ伏すヴェル。

――初めての敗北。

それも、一撃で。


処分は明確だった。


空き教室での反省。

そして、山のような宿題。


その空き教室で、

ヴェルは一人ではなかった。


部屋の隅で、眼鏡をかけた生徒が静かに座っている。

分厚い本に囲まれ、

整えられた髪、青白い顔。


そして――

この学校には不釣り合いなほど、

穏やかな雰囲気。


「なあ……」

ヴェルが声をかける。

「お前も、罰か?」


生徒は顔を上げた。

「うん。ヨンビだ」


「ヴェル」


ヨンビは、薄く微笑む。

「君が“最後の一撃”って呼ばれてる人?」


ヴェルは頭をかく。

「その呼び方はやめてくれ」


気まずい沈黙が流れる。

やがてヴェルは、問題集を睨みつけた。


「この数学……無理だろ」


ヨンビがちらりと見る。

「これは簡単だよ」


「は?」


ヨンビは近づき、鉛筆を取った。

「ほら。式を分解すれば、答えは自然に見える」


ヴェルは黙り込む。

流れるように動く手に、目を奪われた。


「すげぇ……天才かよ」


「違う」

ヨンビは静かに言った。

「ただ……一人に慣れてるだけ」


放課後、

夕日が沈み始めた頃。


ヴェルは、

ヨンビが五人のシガンシナの生徒に囲まれているのを見た。

残忍で有名な集団だ。


「金を出せ!」

一人が怒鳴る。


ヨンビは俯いたまま、抵抗しない。


拳が振り下ろされる、その瞬間――


ガン!


ヴェルが、その手を掴んだ。


「喧嘩がしたいなら」

冷たい声。

「俺を相手にしろ。

弱い者に手を出すとか……卑怯だな」


五人が一斉に襲いかかる。


だが、結果は――


早かった。

あまりにも。


次々と倒れていく。


一人がよろめきながら、ヴェルを指差す。

「こ、これを……リーダーに報告する!

戦争だぞ!」


ヴェルは、怯まない。


「行け」

静かな声。

「お前たちのリーダーに伝えろ。

誰が相手でも、俺は受けて立つ」


ヨンビは、硬直したまま立っていた。


「……助けなくてもよかったのに」

小さな声。

「あいつらは――」


「気にするな」

ヴェルは笑った。

「数学教えてもらった礼だよ――」


ドゴォッ!!


鈍い衝撃が、ヴェルの腹を貫いた。


身体が宙を舞い、息が詰まる。

地面に倒れ伏すヴェル。


意識はある。

耳は、音を捉えていた。


ヨンビが、彼の上に立っている。


「次からは」

淡々とした声。

「僕の問題に、首を突っ込まないで」


ヴェルは動こうとする――

だが、動けない。


「そうそう」

ヨンビは眼鏡を直しながら続ける。

「君が、柱を狙ってるって噂……聞いたよ」


透明なレンズ越しに、

ヴェルを見下ろす。


「明日、学校に来て」

「その時――

僕と戦え」


薄い笑みが浮かぶ。


「僕は第四の柱――

二重人格の柱だ」


ヨンビは去っていった。


夕焼けの空の下、

ヴェルは目を閉じる。


最も危険な敵は――

いつも、最も近くにいた。


――つづく

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