第8章 ― 狂気の笑いと血の涙
クレイジーとゾンビの身体が地面に叩きつけられ、
舞い上がった砂埃が、まだ空中に残っていた。
校庭は――静まり返っている。
微かな風が吹き、
汗、血、そして恐怖の匂いを運んだ。
ヴェルは校庭の中央に立っていた。
荒い息。
鋭い視線。
目の前には――
**死の双子**と呼ばれる、二人の柱。
クレイジーが、先ほどよりも大きく笑い出す。
「アハハハハハハ!!!
本当に来やがったか!!」
首を回しながら立ち上がると、
骨が不気味な音を立てた。
「この瞬間を待ってたぜ、ヴェル〜」
ゾンビも、ゆっくりと立ち上がる。
頬には涙が流れ、顔は傷だらけ。
それでも――笑みは消えない。
「うふふふ……やっと……やっと来てくれた」
嗚咽交じりに言う。
「どちらかが……起き上がれなくなるまで……遊ぼうね……」
ヴェルは拳を握りしめた。
「離せ」
冷たい声。
「お前たちの相手は、俺だ」
クレイジーが地面に唾を吐く。
「おや? 怒ってるのか?」
倒れているレオとユキを一瞥する。
「それとも……
大事なおもちゃが壊れたから?」
――それで、十分だった。
ヴェルが駆け出す。
ドガァァン!!
直線の一撃がクレイジーを捉え、
地面がひび割れる。
だが――
クレイジーは吹き飛ばされながらも、空中で笑っていた。
「ハハハハ!!
いいねぇ、その拳!!」
両足で着地すると、
獣のようにジグザグに走り出す。
反対側から、ゾンビが迫る。
ヴェルは回避する。
ブン! ブン!
二つの攻撃が同時に襲う。
前からクレイジー、
後ろからゾンビ。
迷いのない連携。
二つの魂を持つ、一つの存在。
ヴェルは直撃を受けた。
身体が吹き飛び、
街灯の柱に叩きつけられる。
「ヴェルーー!!」
ユキのかすれた叫び。
ヴェルは、ゆっくりと立ち上がる。
口元から血が垂れた。
「これで分かっただろ?」
クレイジーが歪んだ笑みを浮かべる。
「俺たちが“柱”と呼ばれる理由を」
ゾンビがヴェルの胸に連打を浴びせる。
ドク、ドク、ドク
まるで死体を殴るような音。
「うふふ……
どうして……まだ立ってるの……?」
涙がヴェルの顔に落ちる。
「倒れるはずなのに……
みんなみたいに……」
ヴェルは、その拳を受け止めた。
腕が動く。
ガシッ!
ゾンビの手首を掴む。
「――俺は……」
ヴェルの声は震えていた。
だが、瞳は燃えている。
「楽しむために、戦ってるんじゃない」
ゾンビを、クレイジーの方へ投げ飛ばす。
ドォォン!!
二人が同時に地面へ叩きつけられた。
クレイジーの笑い声は、さらに大きくなる。
「面白い!!
実に面白い!!」
自ら制服を引き裂きながら叫ぶ。
「行くぞ、ゾンビ!
本気で遊ぼうじゃねぇか!!」
ゾンビは頷いた。
涙は止まり、
瞳から感情が消える。
――空気が変わった。
校庭を覆う、圧倒的な重圧。
遠くで、レインが目を細める。
「……普通の戦いじゃない」
屋上で、ヤマが呟いた。
「ここでヴェルが倒れれば……
すべてが終わる」
クレイジーとゾンビが、同時に突っ込む。
二つの拳。
一つの殺意。
ヴェルは押し込まれ、
膝を地面につく。
息が荒れる。
脳裏に、父の声が響く。
『また問題を起こしたら……』
ミアの声が重なる。
『守りたい人がいたら、どうするの?』
ヴェルは、顔を上げた。
目の前で、
レオとユキが倒れたままだ。
「……違う」
低く呟く。
「俺は……退かない」
ヴェルが立ち上がる。
足元の地面が、ひび割れた。
クレイジーが一瞬、言葉を失う。
「……え?」
ゾンビが目を見開く。
「なんで……
どんどん強くなるの……?」
ヴェルは前へ出る。
一歩。
二歩。
「この戦いは……」
静かな声。
「今、終わらせる」
最初に狙ったのは、クレイジー。
狂気を黙らせるための、一直線の拳。
ドゥァァァァン!!
クレイジーは吹き飛び、
地面に叩きつけられ――
二度と起き上がらなかった。
「にいちゃああああん!!」
ゾンビの叫び。
理性を失い、突進する。
ヴェルはかわし、
身体を捻る。
ドガァァッ!!
強烈な一撃が、ゾンビの腹を貫いた。
泣き声が、止まる。
身体はゆっくりと倒れ、
虚ろな瞳。
笑みは、消えていた。
――静寂。
ヴェルは校庭の中央に立つ。
全身傷だらけ。
それでも、立っている。
死の双子――
完全に、沈黙。
遠く、月島に声が響いた。
「第五の柱……崩壊」
そして――
戦争は、
今、始まった。
――つづく




