第7章 ― 赤い扉の向こう側
月島の旧校舎裏、
人目につかない廊下の突き当たりに、
**くすんだ赤い扉**が立っていた。
そこには大きく、こう書かれている。
**EXIT EMERGENCY**
塗装は剥がれ、
開くたびに蝶番が軋む。
そこはもはや非常口ではない――
**問題を抱えた三年生たちの巣窟**だった。
タバコの煙と下品な笑い声が混じり、
床には賭博用のカードが散乱し、
金が無秩序に行き交っている。
「よっしゃあ! また俺の勝ちだ!!」
マリモが満足そうに笑う。
「くそっ! また負けた!」
別の生徒が苛立った声を上げた。
そこに、バーガンディが低い声で口を挟む。
「なあ……知ってるか?
新入りが七柱のうち、二人を倒したらしい」
「ああ、知ってる」
マリモが頷く。
「ってことは、残りは五柱ってわけか?」
「ただの運だろ」
別の生徒が鼻で笑う。
「ジンは、最初から諦めてたって話だ」
ヨサクが言葉を継ぐ。
「でもよ……
もしその新入りが本気で柱を狙ってるなら、
次は間違いなく――あの双子だ」
「無理だろ」
即座に否定の声が上がる。
「あいつらは別格だ。
狂ってる。
飢えてる。
戦いに取り憑かれてる」
その時――
タッ……タッ……タッ……
足音が、近づいてくる。
次いで、
廊下に不気味な笑い声が響いた。
「ヒヒヒヒヒ……」
**ドガァッ!!**
一人の生徒が、壁に叩きつけられる。
「ぐあっ! てめぇ、このガキ――!」
会話していた三人が、音の方を見る。
マリモの目が見開かれた。
「そ……そいつは……
**クレイジーのイン**だ!!」
「逃げろ!!」
彼は叫んだ。
「俺たちじゃ勝てない!!」
**バァン!!**
今度は、上の扉が乱暴に開く。
「ま、待て……
あれは……
**ゾンビのタン**だ……!」
恐怖が場を支配する。
「何をする気だ……?」
「くそっ! みんなでやれば――!」
三年生十人が一斉に襲いかかる。
だが――
数秒後。
全員が吹き飛ばされ、床に転がっていた。
狂った笑い声と、
嗚咽混じりの声が響く。
「あははははは!!」
「ひ、ひどいよぉ……」
二人は、あまりにも簡単に勝っていた。
「ねえ、兄ちゃん」
ゾンビが涙を浮かべながら言う。
「新入りの話、聞いたよね?」
クレイジーが笑う。
「あはは……
会いに行こうじゃないか。
どれだけ強いのか、見てみたい」
「噂では……」
ゾンビが続ける。
「彼は、挑発しないと戦わないらしいよ?」
「本当かい、ゾンビ?」
クレイジーは歪んだ笑みを浮かべる。
「なら……
戦いたくなる理由を作ればいい」
「どうやって?」
ゾンビが無邪気に聞く。
「お気に入りの部下を、
グラウンドの真ん中に引きずり出す」
クレイジーは高笑いした。
「あはははは!!」
ゾンビは小さく泣く。
「かわいそう……
無実の人たちが、君のせいで傷つくよ、ヴェル……」
「行こう、ゾンビ」
「うん……」
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放課後、校庭の中央。
クレイジーはレオの髪を掴み、
ゾンビはユキの足を引きずっていた。
その頃ヴェルは――
激辛料理に当たって、
トイレを往復していた。
「おおおおい!!」
クレイジーが叫ぶ。
「どこだ、ヴェル!!
お前の部下の首はここだぞ!?
降りてこい!
それとも怖いのか!?
あはははは!!」
「うう……」
ゾンビが泣きながら言う。
「かわいそう……
君のせいで、私たちがいじめることになるよ……
どこにいるの、ヴェル……?」
その時――
「おい。
何してるんだ、お前ら」
冷たい声が響いた。
ジンだった。
次の瞬間、風が走る。
「うわぁ〜、面白そうな喧嘩だねぇ」
笑みを浮かべて、フラッシュが現れる。
「僕も混ぜてよ」
クレイジーが大笑いする。
「あははは!
そのガキに負けた最弱二人が、
まだ出てくるとはな!」
「かわいそう……」
ゾンビが涙声で言う。
「私たちが、仇を取ってあげるね」
「断る」
ジンが冷たく言った。
「俺は関係ない」
「帰れ」
クレイジーが言う。
「俺たちはヴェルに用がある」
そして再び叫ぶ。
「おおい!!
降りてこないなら、
部下の顔が潰れるまで殴るぞ!!」
……返事はない。
「よし」
クレイジーが笑う。
「拷問開始だ」
**ドンッ!!**
レオを殴ろうとした瞬間、
ジンがその腕を掴んだ。
同時に、
ユキを蹴ろうとしたゾンビの足を、
フラッシュが止める。
「なるほど」
クレイジーが言った。
「それが答えか」
「なら――
まずはお前らを潰してから、
ボスを待とう」
戦いが始まった。
だが、
それは校庭だけの出来事ではなかった。
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七階。
レインが窓越しに見下ろしていた。
腕を組み、表情は穏やか。
だが、瞳は鋭い。
「面白い……」
彼女は呟く。
「これが、あの少年の引き起こした混乱……」
屋上では、
風が静かに吹いている。
ヤミとヤマが並び立ち、
王のように戦いを見下ろしていた。
「まだ現れないな」
ヤミが言う。
「まだだ」
ヤマが答える。
「だが、必ず来る」
一方、下の階。
静まり返った教室で、
ヨンビが一人、最後列に座っていた。
罰として課された課題が机に散らばる。
だが、
彼の視線は紙ではない。
窓の向こう、
遠くで交錯する影を見つめている。
薄く笑った。
「すごい……」
「ついに、始まったね。
このショーが」
誰も気づかぬまま――
**月島全体が、息を止めていた。**
だが、無駄だった。
フラッシュは何度殴っても、
ゾンビは立ち上がる。
やがてフラッシュが疲弊すると、
ゾンビがすべてを叩き返す。
「ねえ、兄ちゃん」
ゾンビはフラッシュを踏みつける。
「私の戦い、終わったよ」
「俺もだ」
クレイジーはジンの首を絞め、
持ち上げながら言う。
「ガキはどこだ!!」
「知らない……」
ジンが弱々しく答える。
「フラッシュくん」
ゾンビが言う。
「足が速さの源だよね?
折っちゃおうか?」
「センティピード」
クレイジーが笑う。
「千の手があるなら、
二本くらい折れても問題ないだろ?」
七階で、レインが言った。
「終わりね」
「待って、姉さん」
ローズが言う。
「走ってくる人影が……」
屋上で、
ヤミが言った。
「来ない」
「……いや」
ヤマが静かに言う。
「来る」
足音が近づく。
影が走る。
ゾンビが足を折ろうとした瞬間、
クレイジーが腕を折ろうとした瞬間――
一人の男が飛び込み、
二人の頭を同時に掴み――
**バァァン!!
ドガァァッ!!**
二つの頭が、
同時に地面へ叩きつけられた。
校庭の中央に、男が立つ。
「――俺が探してたのは、
俺だろうが……
**このクソ野郎ども!!**」
---
**――つづく**




