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千足の王の玉座

月島に流れる噂は、ただの噂ではない。


校内の片隅――

普通の生徒が決して近づかない場所に、

作り替えられた一つの部屋が存在すると言われている。


それは単なる改装ではない。

権力の象徴へと変貌した空間だった。


磨き上げられた大理石の床。

金の彫刻が施された壁。

学校の中とは思えないほど、豪奢で、気品に満ちている。


そこに座すのは――

七柱の一人、ジン。


彼はこう呼ばれている。


センティピード――千足ムカデ


その名は姿ではなく、

千の足を持つがゆえ。


月島の八つの要所に配置された、

千人の配下を意味していた。


部屋は四つに分かれている。


専属料理人のいる調理室。

限られた者しか座れない食堂。

ほとんど使われないが常に整えられた会議室。


そして最後――

玉座の間。


ジンが常に在る場所。


その時、ジンは玉座に深く腰を下ろし、

足を組み、世界が掌中にあるかのような表情をしていた。


バァン!!


扉が乱暴に開かれる。


「ジ、ジン様!!」


配下の一人が息を切らして飛び込んできた。


「はぁ…はぁ…失礼を承知で…

悪い知らせです!

柱の一人――ザ・フラッシュが倒されました!!」


ジンは、微動だにしなかった。


「一年生の生徒が…」

配下は続ける。

「七柱のシステムを乱しています!」


ジンは、静かに息を吐いた。


「落ち着け」

淡々とした声。

「そんなことは、よくある」


彼は立ち上がり、食堂へ向かう。


「頂点が落ちた時に、初めて騒げ」


「朝食にする」


食堂で席に着くと、

忠実な執事――オクタが近づき、

優雅な動作で温かい紅茶を注いだ。


「ジン様」

オクタが慎重に言う。

「七柱は……本当に、崩れ始めているのでしょうか?」


ジンの視線が鋭く走る。


「それを話して、何になる?」


「申し訳ありません」

オクタはすぐに頭を下げた。

「ただ、その少年が、ジン様の平穏を乱さぬかと……」


ジンは薄く、冷たい笑みを浮かべた。


「俺が何度か負けたから?

最下位にいるから?

――それで弱いと?」


声が低くなる。


「二度と、そんな質問をするな」


「……かしこまりました、我が主」


オクタは柔らかく言った。


「本日の料理です。

フォアグラ・ド・カナール。

フランス直送の逸品でございます」


ジンはスプーンを取った。


――だが、その一口の前に。


ドガァン!!


「クソが!!

おい来い、クソガキ!!」


外から怒号と衝突音が響く。


ジンは机を叩いた。


バァン!


「……ふざけるな。

食事すら、落ち着いてできんのか」


「ジン様!」

オクタが慌てる。

「お出になるのは――」


しかし、ジンはすでに歩き出していた。


扉を開けた瞬間――


「クソッ、ヴェル!!」

息を切らしたレオ・レオの声。


「だから言っただろ!

ここはジンの部屋だ――!」


バァン!


扉が開いた瞬間、

レオは吹き飛ばされた。


そして――

ジンが目にした光景に、血管が脈打つ。


誰かが、玉座に座っていた。


「……何の真似だ?」


ジンの怒声。


ヴェルが振り返る。


「いい玉座だな」

気楽な口調。

「細部がいい。整ってる」


ドゥガッ!!


ジンの蹴りが、容赦なくヴェルの頭を打つ。

ヴェルの体は宙を舞い、床を転がった。


「誰に向かって――!」


「執事!!」

ジンが叫ぶ。

「全軍を呼べ!

八地点、今すぐだ!!」


「了解です、我が主!」


ジンは歩み寄る。


「来るまでの間――

俺自身が、相手をしてやる」


「……お前がヴェルだな?」


ヴェルは頭を押さえ、立ち上がる。


「いてて……

結構、効くな」


二人は距離を詰める。


ドン!!


拳が交錯した。


――だが。


バキッ。


ヴェルの拳が勝った。


一直線の一撃が、ジンの頬を打ち抜く。

ジンの体が揺れ、膝が床に近づく。


――止めを刺そうとした、その瞬間。


ドガッ!


オクタの蹴りが、横からヴェルを襲った。


「ジン様!

ご無事ですか!?」


(……くそ)


ジンは内心で叫ぶ。


(一撃で……

あいつと同じだ……)


(違う。

俺は――負けない)


足音が響く。

幾十もの気配が一斉に集まる。


「ボス!!」

「準備完了です!!」

「命令を!!」


「待て!!」

ジンが叫んだ。


彼は真っ直ぐ立つ。


「これは、俺の戦いだ。

俺は……もう、負けない」


ヴェルが見つめる。


「度胸はあるな」

静かな声。

「部下なしで来るとは……

認めよう」


ジンは笑った。


「もう一度だ、バカ野郎」


再び、拳が交錯する。


今度は――


ドン!


ジンの拳が、ヴェルを捉えた。


ヴェルは半歩下がっただけ。


「……ふっ。

これで五分だな」


ヴェルが踏み込む。

表情は、氷のように冷たい。


(もし、俺が倒れるなら――)


(この敗北が……

お前の道になるなら……)


(頼む……

ヤミを――倒してくれ)


ドガァァン!!


ジンは崩れ落ちた。


――二度と、立ち上がらなかった。


ヴェルは、振り返らずに去っていく。


オクタはジンの傍らに膝をついた。


「ジン様……

なぜ、避けなかったのですか……?」


ジンは、弱く微笑んだ。


「ヴェル……

あの少年なら……」


目を閉じる。


「……託せる」


「ヤミ――ザ・ビーストを倒す者として」


――つづく

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