落ちた雷
月島高校に、再び朝が訪れた。
キンタロウの敗北は瞬く間に広まり、
ついには“触れられぬ存在”とまで言われていた男の耳にも届く。
――ザ・フラッシュ。
一年生最強。
最速、最強、そして最も恐れられる存在。
校舎の屋上で、フラッシュは不敵に笑った。
「興味があるな」
部下たちに向かって言う。
「どうやって、あの転校生はキンタロウを倒したんだ?」
「もしかしたら、本当に強いのかも……」
一人がそう答える。
フラッシュは小さく笑った。
「なら――確かめてみたい。
放課後が、ちょうどいいな」
昼休み。
ヴェルを見る生徒たちの態度は、明らかに変わっていた。
嘲りの視線は消え、代わりに警戒の色が宿る。
――だが、その静けさを破る者たちがいた。
「新入りの隣は、俺が座る! ユキ!」
「違う! 私が先よ!」
レオ・レオとユキが睨み合う。
「先に机に着いた方の勝ちだ!」
「決まりね!」
二人は一斉にヴェルへと走り出した。
「何してるんだ、お前ら!」
ヴェルが怒鳴る。
「やあ! 僕はレオ・レオ!
千の策を持つ、学校一の頭脳派だ!」
「そして私はユキ!
この学校で一番のお金持ちよ!」
ヴェルは無表情で言った。
「……それが俺に何の関係がある?
それに、俺が誰だろうとお前らに関係ないだろ」
レオは唾を飲み込んだ。
「恩があるんだ。
キンタロウは、いつも俺たちをいじめてた。
でも君が来てから、標的が君に変わった」
ユキも素早く頷く。
「それに、あなたの近くにいれば……
少しは安全だから」
「好きにしろ」
ヴェルはそう言って肩をすくめる。
「昼飯の邪魔をしないならな」
放課後。
校門を出た瞬間――
ドンッ!
背後から押さえつけられ、視界が塞がれる。
頭を袋に入れられた。
「ヴェルがさらわれた!」
窓からレオの叫び声が響く。
「えっ!? 追いかけなきゃ!」
ユキが叫び返した。
やがて、袋が外される。
――古い倉庫。
埃の匂い。
薄暗い照明。
ヴェルの前に立っていたのは、
明るい髪をした男。
残酷な笑みを浮かべている。
「やあ」
軽い調子で言った。
「俺の名はライトニング。
だが――ザ・フラッシュと呼んでくれ」
「用件は?」
ヴェルは冷たく聞く。
「俺と戦え」
「断る」
一瞬の沈黙。
そして――フラッシュは大笑いした。
「断る、だと?」
その時、倉庫の扉が勢いよく開く。
「待ってください!」
レオが駆け込み、床に跪いた。
「どうか、彼を解放してください!」
フラッシュは面倒そうに振り返る。
「……ああ?
こいつらはお前の仲間か?」
次の瞬間。
レオの体が蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。
続けてユキの頬を、容赦なく打った。
「どうだ、ヴェル?」
フラッシュは笑う。
「まだ戦わないか?
お前が拒むたびに、こいつらは壊れていくぞ」
その言葉が、ヴェルの記憶を貫いた。
――守りたい人が、同じ目に遭ったら。
拘束が外れる。
ヴェルは立ち上がった。
「来い」
低く、静かに言う。
「……馬鹿」
フラッシュの動きが止まり、笑みが歪む。
「やっとその気になったか、新入り」
戦いが始まった。
フラッシュは雷のように動く。
消え、現れ、殴る。
ヴェルは何度も吹き飛ばされ、反撃の隙すらない。
「俺は雷だ!」
フラッシュが嘲る。
「この速さ、お前には避けられない!」
再び襲いかかろうとした、その時――
「なっ!?」
足が止まった。
「今度は……逃げられない」
震える声で、レオがフラッシュの足を掴んでいた。
「離せ!」
フラッシュは蹴り飛ばす。
その隙に、
ヴェルがゆっくりと歩み寄る。
ドンッ!!
たった一撃。
ザ・フラッシュは、その場に崩れ落ちた。
「……雷が、落ちたな」
レオが呟いた。
ヴェルは振り返ることなく、その場を去った。
翌日。
学校は騒然となった。
走ってきた一人の男子生徒が、ヴェルにぶつかり――
そして、目を見開いた。
「こ、こいつだ……!」
「ザ・フラッシュを倒した男だ!」
誰かが叫ぶ。
「七つの柱の一角が、倒されたぞ!」
ざわめきは、やがて叫びへと変わる。
「大きな変化が起きる!」
「七つの柱って、何者なんだ!?」
「月島の支配構造が、崩れるのか!?」
ヴェルは、騒ぎの中心に立っていた。
静かに。
無言で。
だが――
彼の周囲の世界は、確実に軋み始めていた。
ヴェルの“終わりの始まり”は、ここから始まる。
――つづく




