第20話 ― 地獄が口を開けたエリート校
アレクサンドリア学園は、いつも通りの朝を迎えていた。
整った制服に身を包んだ生徒たちが、誇らしげな表情で校門をくぐる。
――まるで、世界が自分たちのものだと言わんばかりに。
だが、その朝は違った。
いくつもの視線が、同じ方向へ向けられる。
C棟。
そこを、月島学園の生徒たちが列をなして歩いていた。
使い古された鞄、疲れ切った顔。
その一歩一歩は重く、踏みしめるたびに屈辱を刻んでいるかのようだった。
蔑むような視線が突き刺さる。
「ゴミ学校の連中だろ? なんでここにゴミがあるんだよ」
アレクサンドリアの生徒の一人が鼻をつまんで言う。
別の生徒が冷笑した。
「ここはゴミ捨て場じゃねぇぞ。なんで連中がいるんだ?」
「うわ、気持ち悪い」
「ゴミと同じ学校とか最悪」
月島の生徒の一人が、ついにキレた。
首の筋を浮かせ、アレクサンドリアの生徒の襟を掴む。
「おい!! さっきから何言ってんだ!! 殴られたいのかコラァ!!?」
空気が一気に張り詰める。
――その時。
一人の美しい女性が前へ出た。
冷たい視線、鋭い声。
「ねえ。その汚い違法な手を、今すぐ離しなさい」
月島の生徒が鼻で笑う。
「へぇ? 美人だけど口は毒だな。お前から殴られたいのか?」
ドガッ!!
一本の傘が、月島の生徒の顔面を叩きつけた。
「おい、バカ!!」
そこに立っていたのはレインだった。
傘を構えたまま、鋭く睨む。
「この学校の三つのルールは守れって言ってんだろ!!」
一瞬で静まり返る。
アレクサンドリアの女性が、薄く微笑んだ。
「なかなか賢いじゃない。名前は?」
「あ、どうも」
レインは落ち着いた声で答える。
「レインです」
女性は頷く。
「私はネズコ。アレクサンドリア生徒会の一員よ。よろしく」
空気が少し和らいだ、その時――
後ろから、ヤマとヤミが現れた。
「アハハ」
ヤミが軽く笑う。
「ゴミって言われてもいいじゃん。こっちも同じように思ってるし」
「余計に話をこじらせるな、ヤミ」
レインが低く、だが強く言う。
「アハハ、悪い悪い」
次の瞬間、ヤミは拡声器を奪い取り、C棟の中央へ歩み出た。
深く息を吸い――叫ぶ。
「アレクサンドリアの生徒に手を出した奴は!!
それ即ち――俺に宣戦布告したってことだからなァァァ!!!」
声が校内全体に響き渡る。
アレクサンドリアの生徒たちは凍りついた。
唾を飲み込む者、目を逸らす者。
恐怖が、静かに広がっていく。
レインが振り返る。
「……やるじゃない、ヤミ」
「誰だと思ってんだよ」
ヤマがニヤリと笑う。
「俺のボスだからな。アハハ」
A棟・とある教室
窓の向こうから、いくつもの影が様子を見ていた。
「なかなかやるな、あの生徒」
――影A。
「どうやら、あいつがまとめ役か」
――影B。
「じゃあ、あれがヴェルか?」
――影C。
「違う、バカ」
影Dが切り捨てる。
「ヴェルは細身だ。あれはデカすぎる」
「もういい」
影Eが冷たく言う。
「獣の遠吠えを見るより、授業に出た方がマシだ」
「そうだな、もうすぐチャイムだ」
影Fが頷く。
「行こう」
彼らが誰なのか――
誰も知らない。
だが一つだけ確かなことがある。
――ただの生徒ではない。
チャイムが鳴る。
全生徒が教室へ向かう。
――ただし。
突然、校内放送が流れた。
「月島学園の生徒は全員、ただちにC棟中央広場へ集合せよ。
欠席者は退学とする」
月島の生徒たちは顔を見合わせる。
――嫌な予感しかしなかった。
C棟の広場。
そこに立っていたのは、圧倒的な威圧感を放つ男。
アレクサンドリア学園 校長――
オロチ。
「やあ、諸君。初めまして」
淡々とした声。
「私はアレクサンドリア学園の校長、オロチだ」
「三つの基本ルールは、もう知っているな?」
薄く笑う。
「だが、それだけでは足りない」
「これから――
お前たち専用の、七つの追加ルールを与える」
一つずつ、淡々と告げられる。
「第一。汚くするな。唾を吐くな、ガムを捨てるな、ゴミを散らかすな」
「第二。校内外を問わず、争いは禁止。月島同士も、アレクサンドリア相手もだ」
「第三。髪を染めるな。奇抜な格好をするな。爪を切れ」
「第四。服装は整えろ。破るな、乱すな」
「第五。武器の持ち込み禁止」
「第六。教師に逆らうな。何があってもだ」
「第七。教科書必携。最低成績は七」
広場が一気に騒然となる。
「ふざけるな!!」
「やりすぎだろ!!」
「いじめじゃねぇか!!」
「こんなルール守れるか!!」
「俺たちは奴隷じゃない!!」
怒号が飛び交う。
――次の瞬間。
「黙れ!!!」
オロチの怒声が、空気を凍らせた。
「この学校は、私のものだ」
鋭い声。
「耐えられない者は、出て行け」
一人ひとりを見渡す。
「このルールを――
《七つの大罪》と呼ぶ」
「お前たちには、七回の猶予を与える」
「七つの“罪のバッジ”を集めた者は――
即刻、退学だ」
沈黙。
月島の生徒たちは、俯いた。
理解したのだ。
これは転校ではない。
――公式な拷問だ。
彼らの“天敵”は、すでに姿を現していた。
アレクサンドリアという名の地獄で、
月島は生き残れるのか?
それとも――
すべてをひっくり返すのか?
新たな地獄は、正式に開かれた。
つづく




