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追放者たちの学校

ヒムラ・ヴェルが月島高校の校門をくぐったその日、

彼の周囲の空気は、明らかに異なっていた。

それは天候のせいではない。――雰囲気そのものだった。


彼は二学期からの転校生。

そして一年生の中で、唯一の転校生だった。


校門を越えた瞬間、混沌とした光景が目に飛び込んでくる。

壁にスプレーで落書きをする生徒、教師も止めに来ない喧嘩、

ベンチを壊す者たち、カードゲームで大声で笑う者たち。

堂々と煙草を吸い、たむろしている生徒もいる。


「……ここが、学校か?」


ヴェルは小さく呟いた。


教室に入っても、状況は大して変わらなかった。

担任教師――バレット。

大柄な体格に鋭い眼光を持つ男が、教壇に立つ。


「静かにしろ」


淡々とした声が教室に響く。


「こいつは転校生だ。

名前はヒムラ・ヴェル。アレクサンドリア高校から来た。

今日からお前たちのクラスメイトだ」


その瞬間、教室はざわめいた。


「アレクサンドリア? あの名門か?」

「細っせぇな……」

「なんで弱そうな奴が月島に来るんだ?」


ヴェルは何も言わず、

教室の一番後ろの席に座った。


数学の授業が始まる。

真面目に聞く者、私語をする者、

そして――ヴェルを標的にする者たち。


丸めた紙が飛び、

小さな嘲笑があちこちから聞こえる。


それでも、ヴェルは黙っていた。


――その時。


ガンッ!


後ろから椅子を蹴られる。

ヴェルはゆっくりと振り返り、

冷え切った目でその生徒を見つめた。


その視線だけで、相手は言葉を失った。


名前は――キンタロウ。


やがて、休み時間のチャイムが鳴る。


キンタロウは仲間を連れて近づいてきた。

一人がヴェルの髪を掴み、怒鳴る。


「おい、バカ!

さっき誰を睨んだか分かってんのか?

こいつはこのクラスのナンバーワンだぞ!」


キンタロウがヴェルを見下ろす。


「今回は許してやる。

だが――頭を下げろ」


ヴェルは、頭を下げた。


キンタロウは笑いながら、

その背中を踏みつける。


「そうだ、それでいい」


ヴェルは、なおも黙っていた。


――それには理由があった。


回想


その夜、自宅で。

ヴェルは父と母の前に立っていた。


「父さん、母さん……これは不公平だ」

声を抑えながら、彼は言った。

「俺は、あいつらが度を越してたから……」


父は机を叩いた。


「もう自分を守るな!

どこの学校に行っても、お前は問題を起こす!」


母は鋭い目でヴェルを見る。


「次に何か起こしたら、ここが最後の学校よ。

小さな田舎町に送る。

叔父のソウルと一緒に暮らしなさい」


「分かったわね、ヴェル?」


ヴェルは俯いた。


「……分かりました。

もう、問題は起こしません」


それが、ヴェルが反撃しなかった理由だった。


二週間の間、彼はいじめを受け続けた。

そしてある日の放課後、

校庭裏の路地で、再び殴られる。


地面に倒れたヴェルの前に、

一人の少女が現れた。


彼女はヴェルの顔の傷を拭きながら言った。


「どうして、反撃しないの?」


「……約束がある」


短く、ヴェルは答えた。


「もし、あなたが守りたい人が

同じ目に遭ったら?」


ヴェルは言葉を失った。


「……分からない。

まだ答えは出てない」


二人は、そのまま別れた。


翌日。

昼休み、ヴェルは腐った食べ物を投げつけられる。


放課後、彼は再びあの路地を通り――

悲鳴を耳にした。


「助けて……!」


引き返そうとした、その時。


「なんであんなバカを助けたんだ?

さあ、金を出せ!」


ヴェルは壁の陰から覗く。


――昨日、彼を助けた少女だった。


キンタロウたちが彼女を囲んでいる。


少女の言葉が、脳裏に蘇る。


守りたい人が、同じ目に遭ったら――


ヴェルの目が変わった。


「……これが」

「俺の、答えだ」


ヴェルは走り出し、

一人を蹴り飛ばした。


「なっ!?」


キンタロウが叫ぶ。


「やれ!」


三人が同時に襲いかかる。


――今回は、違った。


ヴェルは反撃した。


一人、また一人と倒れ、

キンタロウは顔を青ざめさせて後退する。


「なんで……

なんでこんなに強いんだよ、てめぇ!?」


ヴェルはキンタロウの手首を掴んだ。


「俺が黙ってたのは、弱いからじゃない」


冷たい声。


「黙ることを、選んでただけだ」


拳を振り上げる。


「ゴムゴムの……ガトリング!」


連続した拳がキンタロウを叩き伏せ、

仲間たちと共に地面へ沈めた。


ヴェルは息を吐く。


「……また、問題になるな」


彼は少女の方を見た。


「大丈夫か?」


「は、はい……ありがとうございます」

彼女は緊張した声で言った。


「俺はヴェル。

月島高校の生徒だ」


少女は小さく微笑む。


「私はミア。

アレクサンドリアから」


ヴェルは頷く。


「分かる。

その制服で」


彼はミアを家まで送り、

いつも通り、静かに帰宅した。


――しかし翌日。


一年一組は騒然となった。


キンタロウが負けた。

転校生、ヴェルに。


その日から、

月島高校は――

ヴェルを“普通の生徒”とは見なくなった。


――つづく

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