第18話 ― 見えざる力
校舎の外で、足音が響き渡る。
数十人ではない。
数百人でもない。
――人の波だ。
紫岸島学園の屋上、廊下、そして校庭へと、武装した生徒たちが次々と集結していく。
怒りに染まった赤い眼。ぶつかり合う殺気が空気を歪ませ、息苦しさを生む。
遠くで、レインはヨンビ、ジン、ユキ、レオたちと並んで立っていた。
「……まずいな」
ジンが歯を食いしばる。
レインは剣を構えた。
「これは、もう誘拐じゃない」
ヨンビが唾を飲み込む。
「……戦争だ」
ジンは即座に突撃し、押し寄せる紫岸島の生徒を殴り飛ばす。
「キリがねぇぞ、こいつら!!」
紫岸島・本校舎屋上
一人の男が、ゆっくりと拍手していた。
パチ、パチ、パチ。
「美しい……」
歪んだ笑みを浮かべる。
「カイドウは倒れ、月島の柱たちは一箇所に集まった。潰すには都合がいい」
小さく笑う。
「このまま事が運べば……俺がカイドウの座を奪える。ククク……」
視線は、ヴェルとタカ、そしてカイドウの戦いへ向けられる。
「これが、俺が待っていた理由だ」
フードを下ろす。
ネズミ。
紫岸島学園・十二守護天使の一人。
「今日から――」
低く、しかし重い声で告げる。
「紫岸島は、もう闇討ちなんてしない」
両腕を大きく広げた。
「紫岸島は二度と負けない!!」
「――学園戦争、開幕だ!!」
突風が吹き荒れ、
空は暗くなり、
校舎が大きく揺れた。
空き教室 ― 決戦の場
粉塵が舞い、壁はひび割れ、床には無数の衝突痕。
カイドウのオーラは崩れ落ちる山のように圧し掛かる。
吐く息すら、殺意を孕んでいた。
ヴェルは拳を握る。
疲労は限界、呼吸は荒い――それでも瞳は燃えている。
その隣で、タカは静かに立っていた。
あまりにも静かだ。
首を絞められ、死にかけた人間とは思えないほどに。
カイドウが嗤う。
「面白ぇ……月島のガキ二人が、同時に俺に挑むか?」
二人は苦戦していた。
カイドウは強すぎる。防御はほぼ突破不能。
「聞いたぞ。お前が月島最強の防御だな?」
カイドウはタカを指差す。
「その小せぇ体で、よくやるもんだ」
「黙れ」
タカの声は鋭い。
「お前の防御は、俺たちなら貫ける」
「ほぉ?」
カイドウが笑う。
「来い!どこまで耐えられるか見てやる!」
タカはヴェルを見る。
「新人。お前が攻めろ。俺が道を作る」
「はぁ!?」
ヴェルが目を見開く。
「五分間、俺が抑える」
タカは続ける。
「弱点を見つけろ。それで十分だろ?」
「十分すぎる」
ヴェルは力強く頷いた。
タカとカイドウが激突する。
拳と拳。
肉体と肉体。
最強の肉体を持つ者同士が、限界を削り合う。
――しかし。
ドォン!!
タカが吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。
咳き込み、視界が霞む。
「後は……任せたぞ、ヴェル!!」
ヴェルが消えた。
ドガァ!!
拳がカイドウの顔面へ――片手で止められる。
だが、その瞬間、ヴェルは理解した。
力ではない。
“機能”を壊すのだ。
頭へのフェイント――防がれる。
だが、狙いは腕の筋肉。
胴体への攻撃――また防がれる。
だが、破壊するのは脚の筋。
正確に。
無駄なく。
迷いなく。
一瞬ずつ、カイドウの動きが鈍る。
「今だ!!」
ドゴォォォン!!!
ヴェルの拳が、首元を撃ち抜いた。
巨体が宙を舞い、床に激突する。
「な、何をしやがった!?」
「クソ……手も足も、動かねぇ!?」
ヴェルはタカを抱き上げる。
「筋肉を叩いた。お前の体は硬いが、神経と組織は別だ。そこを潰した」
「クソがぁぁ!! ヴェルゥゥ!!」
カイドウが咆哮する。
「気持ち悪ぃ戦い方しやがって!!」
しかし――
一歩一歩が重い。
拳は、僅かに遅れる。
ヴェルは影のように動く。
バン! バン! バン!
そして――
ドォォォン!!!
最後の一撃が顎を打ち抜く。
巨体は浮き――落ちた。
静寂。
「……勝った、のか?」
ヴェルが呟く。
タカは、静かに頷いた。
タカは抱えられ、外へ出る。
「みんな、やめろ!!」
タカが叫ぶ。
「俺たちは勝った!! ヴェルがカイドウを倒した!!」
「……勝った?」
フラッシュが呆然とする。
「信じられねぇな」
ジンが息を吐く。
「ハハハ! さすが俺たちのリーダーだ!」
クレイジーが叫ぶ。
「うぅ……よかった……」
ゾンビが泣く。
「ヴェル先輩ぃぃ!! 本当に偉大ですぅ!!」
ヨンビが歓声を上げる。
レインは黙ったまま――そして、微笑んだ。
だが。
「まだ終わりじゃない!!」
ネズミが叫ぶ。
「戦争は続く!!」
「柱を皆殺しにしろ!!」
「まだやる気か!?」
ヨンビが怒鳴る。
「――やめろ」
重く、暗いオーラが、紫岸島の校門から広がった。
「……あ、あれは……フジヤマ!! 紫岸島最強!!」
「信じられない……卑怯な祭り騒ぎね」
警備小屋の上から、女の声。
「待て!! あの女は……ハナビ!? 第二位の実力者だ!!」
さらに、十一の影が現れる。
「ネズミ、やりすぎだ」
守護天使の一人が告げる。
「ま、まさか……」
「紫岸島・十二守護天使だと!?」
フジヤマが咆哮する。
「まだ戦いたい者は、俺が相手だ!!」
紫岸島の生徒たちは後退し、武器を落とす。
「月島は勝ったのよ!!」
ハナビが叫ぶ。
「道を開けなさい!!」
人の列が割れる。
レオ、ユキ、フラッシュ、ジン、クレイジー、ゾンビ、ヨンビ。
ヴェルを担ぎ、
レインはタカを抱え、
柱たちは前へ進む。
――その時。
「俺たちの話は、まだ終わっていない」
フジヤマが呟く。
「戦争は終わったかもしれない……」
「だが、お前たちの“最後の戦い”は、これからだ。月島」
戦争は終わった。
だが、フジヤマの言葉は、空気に残り続ける。
次に待つものは何か?
真の最後の敵とは誰なのか?
つづく




