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パート16 ― 女王蜂の敗北

体育館は静まり返っていた。


空気は重く、息を吸うたびに見えない脅威が肺に流れ込んでくるかのようだった。

コートの中央に立つのは、第三の柱――女王蜂クイーン・ビーレイン。

刃のない鉄剣を強く握りしめ、その剣は黒い傘の鞘に収められ、今は床に転がっている。

その瞳は鋭く、誇りと怒りを秘めていた。


その正面に立つのは――ヴェル。


ヴェルの木剣と、レインの鈍い鉄剣が向かい合う。


カァン!


衝突音が体育館中に響き渡り、冷たい壁に反射する。


「……なぜ攻めてこない?」


レインが冷たい声で問う。


ヴェルは静かに息を吐いた。

「君を傷つけるために、俺はここに来たんじゃない」


観客席からざわめきが起こる。


「……傲慢ね」


レインはそう吐き捨て、突進した。


カァン!!


鋭く、容赦のない連撃。

だがその最中――ヴェルはゆっくりと木剣を手放し、床に落とした。


「何をしている!?」

「剣を拾え、ヴェル!!」


ヴェルは真っ直ぐに彼女を見つめた。


「俺は君と戦いに来たんじゃない」

「君を倒すつもりもない」

「ただ……全部を説明しに来ただけだ」


レインは怒りに歪んだ笑みを浮かべる。

「何を説明するっていうのよ、ヴェル!!」


言葉と同時に、再び剣が振り下ろされる。

だがヴェルは攻撃せず、ただ避け続けた。


「君は……俺が初めてキスした相手だ」


観客席が一気に沸き立つ。


「ええええ!? やっぱり噂は本当だったのか!?」


ローズが叫ぶ。

「姉さんが、あんな男とキスしたですって!? 下劣な男と!!」


ヨンビが怒りに立ち上がる。

「何言ってんだ、この女ァ!!」


ジンが慌てて止めた。

「待て! 今はやめろ、ヴェルが怒る!」


「チッ……」


レインは嘲るように笑い、再び斬りかかる。

「じゃあ、母親はノーカウントってわけ?」


ヴェルは静かにかわし、淡々と答えた。

「……二人目だ」

「でも――俺を恋に落としたのは、君が初めてだ」


「くだらない!! 男なんて皆同じ!!」

「そんな日、思い出す価値もない!」


攻撃はさらに荒くなる。

だがヴェルは一切殴らない。

肩を封じ、足を絡め、体勢を崩す――それはまるで“優しい制圧”。


「……私を、弄んでるの!?」


ヴェルは一歩踏み出し、低く告げた。

「違う」

「ただ……君に、止まってほしいだけだ」


――沈黙。


初めて、レインの心が揺れた。


自分の手を見る。

いつも強く、誰よりも前に立ち、全てを背負ってきた手。

その手が――震えていた。


「君はずっと先頭に立ってきた」

「弱さを見せないために、強くあり続けた」


レインは目を見開く。


「君は称賛なんて欲しくない」

「ただ一人……“無理しなくていい”って言ってくれる存在が欲しかった」

「もう一人じゃない」

「話してくれ」

「悲しい時は寄り添い、嬉しい時は一緒に笑う」


レインの剣が、床に落ちた。


怒り、誇り、そして――もっと危険な感情が溢れ出す。


「……馬鹿にしてるの!?」

「混乱させて……私を……!」


ヴェルは真っ直ぐ見つめる。

「俺は君を倒したくない」

「敵じゃなく……人として見てほしいだけだ」


レインは黙り込み、そして小さく笑った。

「……ふふ」

「嫌いじゃないわ、その答え」


――その瞬間。


ドォォォン!!!


体育館が爆発した。


爆弾を仕掛けたのは、昨日レインに嫉妬していた男――ハムタロウ。


老朽化した建物が崩れ始める。


レインが身を伏せた、その瞬間――

強く、抱きしめられた。


ヴェルが、全身で彼女を庇っていた。


観客席でも、皆が互いを守る。

ヨンビはローズを。

フラッシュはアラを。

ジンはシエラを。

クレイジーとゾンビはイザベラを。


「全員まとめて終わりだァ!! 柱ども!! アハハハ!!」


――崩壊。


瓦礫の中で、レインはヴェルの腕の中で目を覚ました。


「なぜ……!? 私は敵なのよ!?」


ヴェルは迷いなく答えた。

「守りたい人を、見捨てる理由にはならない」


――ミヤの言葉と同じだった。


レインはヴェルを支え、周囲を見る。

倒された柱たちが、皆――彼女の仲間を守っていた。


「……あなたは柱を壊していない」

「構造そのものを、変えている」


静かに微笑む。

「すごいわ、ヴェル」


レインは仮面のない瞳で彼を見つめた。

「……私、あなたに恋をしたみたい」


「えええええ!?」


「……降参よ」

「勝利は目前だったのに……もう剣を振れない」


涙を浮かべ、囁く。

「いつからか……あなたの馬鹿なやり方に、恋してた」


その時――


パチ、パチ、パチ……


拍手が入口から響く。


凶暴なオーラを放つ長身の男が笑いながら入ってくる。


「よくやったな、レイン」

「勝てたのに、降参するとは」


全員が凍りつく。


「そろそろ俺の番か?」

「――ワンパンのヴェル」


ヴェルはふらつき、レオに支えられる。


「……誰だ、お前は」


男は獣のように笑った。

「この学校の食物連鎖の頂点」

「最強の柱――」


「ヤミ・ザ・ビースト」


ヤミはボロボロの男を投げ捨てる。

「ちなみに、こいつが爆破犯だ」

「もう警察行きだな」


ヨンビが止める間もなく、ヴェルは一歩前へ。


二人の怪物が睨み合う。


「次は……お前だ」


「ははは……最高だ」


――その日、レイン敗北の噂が学校中に広まった。


一つの柱が倒れた。


だが誰もが知っていた。


本当の地獄は、今始まったばかりだ。


つづく

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