胸の奥で小さくはじける違和感
朝の寮は、
昨日の湖畔授業が嘘みたいに穏やかだった。
アメリアは制服の胸元を整え、
窓を開けて朝の光を吸い込む。
(……なんか、今日の空、すごく明るいな……)
青空がやけに澄んで見えた。
湖の冷たさも怖さも、
アレックスの腕の温度も、
全部混ざって胸の奥に小さな波みたいに残っている。
思い出した瞬間、
頬がぽっと熱くなった。
(……やばい……
アレクに“ぎゅっ”されたの……
忘れられない……)
アメリアは両手で頬を押さえて
わたわたと部屋の中を歩き回る。
(いやいやいや落ち着け私!
これは推しによる尊さ……!
ただの推し補正……!
そう……尊さが強すぎただけ……!)
必死で言い聞かせるが、
胸のどこかがくすぐったい。
そんなとき。
コンコン。
軽いノックとともに
いつもの声。
「アメリア、行くぞ。」
扉を開けると、
アレックスが立っていた。
朝の光を受けた銀髪が少し揺れ、
昨日より少しだけ距離が近い気がする。
「お、おはようアレク!」
「……おはよう。」
アレックスは一瞬だけ
アメリアの顔をじっと見た。
その目が、
ほんの少しだけ柔らかい。
(え……なにその目……
なんか……なんか昨日より……優しくない?)
胸がきゅっと鳴った。
アメリアは慌てて話題を変える。
「今日も授業、頑張ろうね!
湖の授業、すっごく楽しかったし!」
アレックスはすっと距離を縮め
髪に触れながらジッと瞳をみて
「……楽しかったのは……
……アメリアが無事だったからだ。」
「わっ、え…」
「寝ぐせ」
「あ、ありがとう」
アメリアの胸がまたドクッ、と跳ねた。
(あれ……?
私……アレクの声でドキドキしてる……?)
推しだから?
いや。
昨日の“ぎゅっ”が強すぎたから?
いやいや。
(……なんか……おかしい……)
アメリアは自分でも分からない感情を抱えて
歩き出す。
廊下の角では
ノエラが自然に同行していた。
もちろん、任務である。
しかし彼女は内心でぼそり。
(……アレックス様、距離近……
アメリア様、昨日より意識してる……
……これは……進展の匂い……?)
アメリアは気づいていない。
自分の頬が
じんわり赤いことに。
アレックスも気づいていない。
自分がアメリアの歩く速度に
自然と合わせてしまっていることに。
朝の光だけが
二人の間の変化を静かに照らしていた。




