胸の奥で鳴り止まない鼓動
アレックス視点
湖畔の実技が終わり、
生徒たちは三々五々で帰り支度を始めていた。
アレックスは少し離れた木陰に立ち、
濡れたローブを絞り風魔法で乾かしていた。
そして、
まだ 落ち着かない呼吸 を整えようとしていた。
(……ダメだ……
全然、落ち着かない……)
目を閉じると、
さっきの感触が一瞬で蘇る。
アメリアの小さな肩。
水に濡れた制服の冷たさ。
腕の中で震えた身体。
そして──
必死で抱き寄せた自分。
思い出しただけで、
胸がどくん、と強く鳴る。
(落ちる瞬間の顔……
俺、まだ忘れてない……
怖かったんだ……
アメリアが怪我したらって……
消えてしまいそうで……)
自分でも驚くほど
“必死に”飛び込んでいた。
あれは反射だった。
考えるより先に身体が動いていた。
(こんなに……
こんなに心臓が勝手に動くなんて……)
風魔法で乾かしている間も、
アレックスの指は震えていた。
誰にも見られたくなくて、守りたくて、
自分のローブで必死に隠した。
見ちゃダメだと頭ではわかってるが
視界に入ってくる艶めかしいアメリアの身体。
勝手に熱を帯びてくる身体。
(アメリアに変な目を向けられるなんて……
絶対にイヤだ……)
胸の奥がじんじんと熱くなる。
アメリアが無邪気に
「アレク、ありがとう!」
と笑ってくれた時、
心臓の跳ね方はもっと酷かった。
(なんで……
なんでそんな顔で笑うんだよ……)
アメリアは何も知らない。
ただ、信じて笑ってくれる。
それが嬉しくて。
怖くて。
どうしようもなく胸が苦しい。
「アレクー!帰るよー!」
遠くからアメリアが手を振る。
いつも通りの明るい声。
その瞬間、
胸の奥の鼓動がまた跳ね上がる。
ドクッ……ドクッ……
止まらない。
(アメリア……
俺……)
まだ言葉にならないけれど、
確かに生まれつつある何かがあった。
深呼吸をひとつ。
アレックスは足を踏み出す。
アメリアの隣へ戻るために。
(隣にいたい。
ずっと……)
心の中で
また小さく音が鳴る。
ドキドキドキドキ──。
でも、その心臓の音は
誰にも聞こえない。




