乙女ゲームが始まる日
乙女ゲーム『恋のマジカル学園』はじまってるよー!!
ヒロイン視点です
王立学園の門が、ゆっくりと開いた。
春の柔らかな陽光が差し込み、
風が桜色の花びらをさらさらと運んでいく。
その瞬間──
ミシェルの頭に、唐突に“映像”が流れ込んだ。
──軽快なオープニング曲。
──ピンク髪の少女がくるりと回って微笑む。
──金髪の王子が手を差し伸べる。
──タイトルロゴ。【恋のマジカル学園】
「…………あ、これ、完全にアレだわ。」
ミシェルは門の前で立ち止まり、
前世で何百時間もやり込んだ乙女ゲームの記憶を思い出した。
(てことは……ここ、乙女ゲームの舞台“王立学園”!?
しかも私がその“ヒロイン”ポジ!?
いやいやいや、転生テンプレすぎる……!)
ミシェルはピンクの髪を押さえ、深呼吸した。
(でも、これ……チャンスだ。)
伯爵家の重い空気が脳裏をよぎる。
伯爵夫人の鋭い視線。
「あの女の娘」と呼ばれる日々。
嫡男メガロの、仄暗くねじれた嫉妬の感情。
母を追い出し、母が亡くなってからもなお続く冷たい仕打ち。
(帰りたくない……絶対。伯爵家から解放されてやる。)
ミシェルは拳を握る。
(この学園で誰かに見初められれば、
“家を出る理由”と“保護者”ゲットできる。
よし、これはもう攻略開始案件!)
その時だった。
視界に金色が差し込む。
(うわっ……来た……!)
金髪に蒼い瞳。
まっすぐで誇り高い横顔。
攻略対象筆頭:第一王子ウィリアム=アルスター。
ミシェルは心の中で大騒ぎした。
(本物、ゲームよりイケメンなんだけど!?
これ反則でしょ!?)
ウィリアムがふとこちらを振り返り、目が合った。
「……君、見ない顔だね。」
(ひゃぁぁあああ言ったぁあああ!!
セリフ1番目のやつ!!)
ミシェルはなんとか落ち着いた笑顔を作る。
「ミシェル=ベルネットです。本日より学園に……」
ウィリアムは少し驚いたように眉を上げた。
「ベルネット伯爵家……大変だと聞いている。
困っていることがあれば、話してくれ。」
(あああああこれ好感度+10!
やばい、完全にルート入ってるやつ!!)
……が、ふと違和感が胸に走る。
(……あれ?)
本来のゲームの導入なら、
ここで “悪役令嬢アメリア=アルバローザ” が登場し
ミシェルを冷たく見下すはずだった。
黒髪に朱い瞳の、
華やかで気の強い、公爵令嬢アメリア。
……でも。
「アメリア様は、今年はお体の都合で登校なさらないそうです。」
とウィリアムの侍従が静かに言った。
ミシェルはしばし固まった。
(……いやいやいや、悪役令嬢がいないってどういうこと!?
アメリアどこ!?
本来ここで登場して“嫌味イベント”起きるはずなのに!!)
混乱しつつも、ミシェルは周りを見渡した。
もちろん黒髪朱瞳の令嬢などいない。
ウィリアムが優しく微笑む。
「よければ、中まで案内しようか?」
(はいはい、ここで“王子と歩くイベント”ね!
完全にゲーム通りじゃん!好感度上がりまくるやつ!!)
と浮かれた瞬間──
校門の影。
黒いローブの少年がミシェルを見て、
ハッとした表情をした後、すっと視線を逸らした。
(……ん?
よし、とりあえずウィリアムに集中!
絶対この学園で自由を手に入れる!!!)
ミシェルは胸を張り、
王立学園の門を堂々とくぐった。
本来の物語から外れた“ズレた世界線”を歩き始めているとも気づかずに。




