知らずに特訓!影への道。
閑話
アレックスはいつも、朝が少し早い。
まだ日が昇りきらない時間、
中庭の空気はひんやり澄んでいて気持ちがよかった。
「アレックス様、今日も“遊びの時間”ですよ。」
影部隊の――しかし子どもには“優しい家庭教師”に見える男が微笑む。
アレックスはこくりと頷き、木剣を握った。
「今日は“はやく動くごっこ”です。」
「……うん。」
アレックスは地面を蹴った。
木剣が軽い円を描く。
男は effortless に受け止めた。
「お上手ですよ。では、
“影になって、気配を消すごっこ” に移りましょう。」
アレックスは壁に背を預け、息を潜める。
(アメリアに見つからないように近づくゲーム……これ、好き。)
影の男は一切の音を立てず近づきながら言った。
「とても静か。
あなたは“気配が軽い”のが長所です。
そのまま成長なされば、どんな場でも役立ちましょう。」
アレックスは何のことかわからなかったが、
褒められるのは嬉しいので小さく笑った。
「次は“鬼ごっこ”ですね。」
これはアレックスが得意な遊びだった。
相手に触れられる前に、すっと距離を取る。
影の男は満足げに頷く。
(反応速度……上がってきたな。)
アレックスはただ、
“アメリアを守るために強くなりたい”
それだけで毎日を頑張っていた。
***
昼下がり。
執務室で、影部隊隊長ノワールがカイン公爵に報告していた。
「アレックス様は順調です。
戦闘、護衛、察知、気配操作。
どの基礎も幼少としては異例の伸びです。」
カインは書類をめくりながら微笑む。
「そうか。アメリアを守るための婿だ。
死角を作らぬよう育てよ。」
「御意。」
***
夕方。
アレックスはアメリアの部屋の前に立ち、
今日覚えた“足音を立てない歩き方”で近づいていく。
(アメリア、びっくりするかな。)
“影歩き”を練習したアレックスは、
そっと息を潜めてドアに手をかけた。
──キィ、と音を立てずに扉を開ける。
その瞬間。
「アレックス!今日はね、絵本読んであげる!」
ぱあっと振り返ったアメリアの笑顔に、
アレックスが びくっ と肩を跳ねさせた。
(……ぼ、僕が……びっくりした……)
アメリアは何も気づかずにニコニコしている。
「ねえ早く座って!この本、すごく面白いんだよ!」
アレックスは胸を押さえながら
苦笑いみたいな、でも嬉しそうな顔で小さく頷いた。
「……うん。読む。」
“驚かせるつもりが驚かされた”なんて言えないけれど、
アメリアが僕に先に気が付いたことの方が、
アレックスにとってはずっと大事だった。




