制服とローブと魔法杖
屋敷の仕立て室には、春の陽を柔らかく吸った布の匂いが満ちていた。
今日は、魔術学園の“制服・ローブ・魔法杖”の準備日だ。
アメリアはアレックスの手を引いて、軽い足取りで扉を開けた。
「ここが、学園の服を作ってくれる部屋だよ!」
「……なんだか……すごい匂いする……」
「布と革かな?」
ふたりは並んで中に入る。
部屋の奥にはマリアが座り、カインは腕を組んで落ち着いた顔──
……だが目はいつもより楽しげに輝いていた。
「さあ、採寸をお願いするわね。」
職人が柔らかく微笑む。
ふたりが台座に立つと、メジャーが肩や腕をそっとなぞる。
アメリアは少しくすぐったそうに笑い、
アレックスは“固まった兵士”のようにまっすぐ立っている。
「アレックス、力入りすぎ!もっと楽にして。」
「……動いたらいけない気がして……」
アメリアが笑うと、アレックスの肩の力がほんの少し抜けた。
*
採寸が終わると、職人がローブの生地を広げた。
「魔術学園のローブは、学年によって縁の色が変わります。
基本は黒。
新入生は“緑”。
二年生に上がると“青”。
ただ、ローブそのものは同じものを使うので、
縁の色はそのまま残ります。」
アメリアは興味津々で聞いていた。
「じゃあ、私が新入生になったら……緑?」
「はい。」
アレックスも説明をじっと聞き、
小さく呟いた。
「……色で学年がわかるなら……
アメリアが困った時、すぐに相手が何年か判断できる……」
「アレックス、何それ。なんの判断……?」
「……別に。」
アレックスはそっと目をそらした。
(この時、アメリアの頭には“危険察知能力が高い子”くらいにしか映っていなかった。)
*
次は“魔法杖”の核選びだ。
机の上には
蒼・翠・琥珀・紅・漆黒・透明
六色の石が並ぶ。
職人が丁寧に説明する。
「色石は、魔力の流れを安定させる役割があります。
どの色でも使えますが、相性の良いものを選ぶのが一般的です。」
アメリアは石を指先でそっと触れた。
どれもきれいだったが──
ふと隣のアレックスの横顔が視界に入った。
(アレックスの瞳……碧色に光って、綺麗だな……)
気づけば、アメリアの指は蒼の石を選んでいた。
「これ、好き。」
アレックスが少し驚いたように見つめる。
「……アメリア……その色……」
「アレックスの瞳に似てるから、落ち着くんだ。」
アレックスは一瞬だけ動きを止め、
耳まで赤くして俯いた。
「……そう。」
その“そう”は、普段より少しだけ柔らかかった。
今度はアレックスが石を選ぶ番。
石に手を伸ばしながら、
何度もアメリアの方をちらりと見た。
(アレックス……?)
彼の手が止まったのは──
紅の石。
アメリアは自分の瞳を思い出す。
(……私の色……?)
アレックスは小さな声で言った。
「……アメリアの瞳……あったかいから……
この色、好き。」
アメリアは胸が少し“ふわっ”とするのを感じた。
「ありがとう。すごく嬉しい。」
マリアは「まあ……!」と微笑ましく頬に手を当て、
カインは 「コホン…!」 咳払いし頷いていた。
*
最後は学園支給の“時計型セキュリティカード”の説明。
「こちらが、魔術学園の生徒証兼、寮の鍵、
そして学食や購買での支払いにも使える魔道具です。」
アメリアは手首につけて、そっと撫でた。
「すごい……これ全部できるの?」
「はい。教職員や寮母も皆、この魔道具を使用します。」
アレックスも腕につけ、じっと眺めていた。
「……アメリアと同じもの……」
「うん、これで安心だね!」
アレックスは小さく微笑む。
(アレックスは後に、この時計を使って
“アメリアに近づく不審な先輩の学年を即座に判断する”ようになる──
このときアメリアはまだ知らない。)
*
その日の帰り道。
アメリアは新しい杖の核を胸に抱えながら言った。
「アレックス、学園……楽しみだね。」
アレックスは杖の核を握りしめて答えた。
「…うん。」




