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推しの義弟を守りたくて悪役ルートを回避したら、愛が重すぎる未来ができあがった  作者: ChaCha


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真冬の朝に現れた運命

真冬の朝。空はまだ明けきらず、薄い水色と灰色が溶け合うように広がっていた。

街路樹は白い霜をまとい、吐いた息はすぐに白い煙となって消えていく。

朱里は両手をマフラーの中に押し込みながら、スマホだけは離さず、画面を覗き込んでいた。


そこに映っていたのは、銀髪の少年。

乙女ゲーム『恋のマジカル学園』のバッドエンドでしか見られない、義弟アレックスの泣き顔。


暗い部屋の中、無表情のまま落とす一粒の涙。

その横顔は痛いほど美しく、悲しくて、胸を締めつける。


「……誰より優しいのに。なんでこんな扱いなのよ……」


雪を踏む音がしゃり、と静寂に響いた。

画面をスクロールすると、アレックスがヒロインを手にかける瞬間の台詞が現れる。


『……ごめんね。これが僕の役目なんだ。』


「うぅ、つらい……。攻略対象じゃないなんて、ほんと納得いかない……」


ため息をついた時だった。


つるん。


足が凍った地面で滑る。

空が逆さになり、視界がぐるりと回る。

スマホが手から離れ、宙に浮いた。


落ちていく画面に映るのは、

涙をこぼすアレックスの横顔。


その光景を瞳に焼き付けたまま、意識はすっと暗く沈んだ。



目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。

木の梁が美しい曲線を描き、暖炉の揺らめく光が部屋をやわらかく照らしている。

温かな空気に包まれた部屋。

優しい薬草の香り。


(ここ……どこ……?)


体を起こそうとすると、手が……小さい。

指も短くて、丸っこい。

髪が視界に落ち、黒い色が揺れる。


その瞬間、記憶がどっと胸に押し寄せた。


朱里としての17年。

そして、この小さな身体が生まれた瞬間からの五年間の記憶。


揺りかご。

公爵夫人の柔らかな手。

父の大きな背中。

侍女たちの優しい声。


ふたつの記憶が自然に重なり、

「自分」という存在にぴたりとはまり込んだ。


(……悪役令嬢アメリアに……転生してる!?)


しかも──


(今日……アレックスが来る日だ……!!)


推しの義弟。

前世で何度も救えなかったキャラ。

いじめられ、不遇で、バッドエンドしかまともに描かれなかった少年。


(今世は……絶対守る!!

 いじめないどころか、全力で可愛がる!!)


勢いよく立ち上がったタイミングで扉が開き、

公爵夫人──マリアが微笑みながら入ってきた。


「あら、アメリア。起きていたのね。」


「うん!今日、弟が来るんだよね!」


マリアは目を細めて頷く。


「ええ。あなたのパパの親友夫婦の遺児の子よ。

 アレックス君っていうの。きっと仲良くできるわ。」


胸がどきどきしてしょうがない。

窓の外を見ると、庭の一角で白薔薇の蕾が揺れていた。


(蕾……まだ開いてないのね……綺麗……)


朝の光を映して、透けるように白い。

この花が、後にふたりの物語をつなぐ鍵になるとは、

この時のアメリアはまだ知らない。


外門のほうで馬車の音がした。


心臓が跳ねる。

手が少し震える。

その震えは寒さではなく、胸の奥に湧いた期待のせいだった。


扉が開き、

白い光の中に小さな影が立っていた。


雪をかぶり、寒さに震える銀髪の少年。

碧い瞳は不安と緊張に揺れながら、それでも消えない強さを宿していた。


「……アレックス?」


声をかけると、少年の肩がわずかに揺れた。


アメリアはそっとしゃがみ、

ゆっくり目線を合わせる。


「今日から家族だよ。どうぞよろしくね。」


アレックスは硬直したまま、

それでもかすかに頷いた。


「……よろしく、アメリア。」


その瞬間、

背後の窓辺で蕾の白薔薇がふるりと揺れた。


まるで、

始まる運命を静かに告げるように。



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