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赤い月の夜に、君を殺す夢を見た。  作者: 妙原奇天


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第13話 断章

 紙片は、風のたまり場に積もっていた。校庭のいちばん隅、サッカーゴールの後ろで草がまばらに生えている場所。そこはいつも砂が寄って、落ち葉と粉のような石灰がくるぶしの高さで渦をつくる。昼休みの終わり、シュウトが「白線の粉が足りない」と言って取りに行ったおり、偶然見つかったのだという。彼は声を上げなかった。驚くのは体力の使い道として間違っている、と彼は最近学習していた。それで、近くにいたユウとミサキに、無言で手招きした。

 近づくと、白いものの層は砂でも粉でもなかった。紙だ。古びた紙の切れ端。角が欠け、もとが何の本だったのかわからない。文字がある。文字は墨の色が少しあせて、ところどころ滲み、ところどころ焼けたように茶色い。紙はほんの少し丸まっていて、その丸みの間に風が入り込み、ぺらぺらと笑い声みたいな音を立てている。

「図書館のやつ、だよね」

 ミサキがしゃがみこみ、そっと一枚をつまみあげた。唇に触れる空気を薄く舐めるように、彼女の指先は紙の縁から縁へと移動する。ユウも腰を折り、重なった紙の下へ手を差し入れた。めくるたびに、紙の温度が変わる。表にさらされていたものは冷たく、間に挟まれていたものはわずかに暖かい。暖かいほうが生々しい匂いを持っている。古い紙の匂い。埃。インク。塩のような、乾いた甘さも少しだけ混じっていた。

「盗まれてた、って先生が言ってたやつかな」

「図書館の裏口からなくなったやつだと思う。あの日、抜き取られてた頁の端っこが、これと同じ匂いだった」

 ユウの言葉に、ミサキは「匂いでわかるの」と笑った。彼女は笑ってから、すぐに笑いの形を消した。笑いは、この町ではすぐに剥がれる。剥がれた下には、紙に似た薄さの別の表情がある。

 ひとつ、ふたつ、三つ。重なりを解くたびに、違う活字が顔を出す。すぐに目に入った見出しは、昔の学級新聞の切り抜きかと思った。けれど、書体が違う。横書きではなく、縦だ。ぬかるみのように古い縦書き。ところどころに振られたルビは、丸い字でかわいらしいのに、本文は硬い。

「民話集、かな」

 シュウトが低く言い、手の甲で紙の脇をならす。その所作は、段取りに慣れた人の動きだった。彼はいつの間にか、正義の代わりに仕事の手つきを持っている。紙を傷つけないように、空気を押す。押された空気が、重なりと重なりの間に薄く入り、息をする。

 読む。ユウは目で追った。たどたどしく、しかし取りこぼさないように。

 ——この町は、海とともにあり、海の年は月とともにある。赤い月の年は、海のそこにある鐘が鳴る。鐘は水をくぐり、骨に入る。骨に住みついた音は、眠りのとりの嘴に似る。とりは夜ごと、人の夢のうへへおり、夢の白いところだけをついばむ。ついばまれてのこった殻に、人はしだいに閉じこめられていく。殻は薄く、かろく、はがれやすい。けれど、はがすと中から海があふれて、家々の床は濡れる——

 字は古いが、話はまっすぐだった。赤い月。海の底の鐘。眠りの鳥。夢を啄む嘴。殻。

 ミサキが、息を飲んで紙を抱えた。抱える、というよりも胸の前に掲げて、胸骨の上に文字の重さをのせる感じだ。彼女の頬の筋肉が、ほんの少しだけ緩み、目尻の形が変わる。ああ、と思った。彼女は、こういうものが好きだ。

「続き、ある?」

「……断ち切られてる」

 シュウトが別の一枚を裏返し、首を振った。文の途中で、紙はまるで刃物で切られたように途切れている。途切れた先の一片が見つからない。探せば見つかるものではない、と紙自体が言っているみたいだった。風がめくる。紙は笑う。笑いは乾く。乾いた笑いはよく燃える。燃えやすいものほど、今は燃やせない。

「結末、ないんだ」

 ミサキは紙片を胸に抱えたまま、ふっと笑った。紙の角が彼女の顎の下に触れ、その触れた一点に小さな白が残る。白は粉か、古い糊か。彼女はその白を拭きもせず、遠くの灯台方向を見た。

「結末がないの、好き」

 言い方は明るかった。明るい、というより軽い。軽さはこの町では貴重だ。軽いものが、重いものの上に一瞬だけ浮かぶ。浮かぶ間に、人は息ができる。ユウも浮かびたかった。けれど、浮かぶふりをするだけで精いっぱいだと自覚してしまった。笑えなかった。結末がない現実を、笑えるほど強くない。強さは、欠けに入るときに町が求めるもののひとつだ。今は満ちに向かっている。

「ない、ってことは、好きな結末を選んでいいってことだよ」

 ミサキは続けた。紙片を抱いた腕の中を、風があおる。紙は鳴らない。紙が鳴らないかわりに、かすかな金属音がどこかからした。観覧車の骨が、日向と日陰の境目でわずかに縮み、また伸びたのだろう。

「選ぶ、のは……」

 ユウは言い淀んだ。選ぶことが、最近いちばん苦手になっていた。眠るか眠らないか。守るか置いていくか。言うか言わないか。選ぶための言葉が、薄い紙に吸い取られるみたいに減っていく。選んだ結果がいつも二択の輪郭に戻ってきて、その輪郭が夜の端でじわじわ滲む。

「この民話、図書館に戻すべき?」

 シュウトが問う。問われて、ユウは紙片の束をもういちど見た。戻す。戻せば、紙は元の棚に帰り、誤って抜かれたところへ挟まる。けれど、抜かれた頁は、そもそも誰が、何のために抜いたのか。戻す場所は、本当にそこなのか。

「……戻そう。戻さないと、誰かが燃やすかもしれない」

「燃やす?」

「夢に近すぎるから」

 紙は夢に近い。物語は夢に近い。近いものは、この町では遠ざけられる。図書館の棚に白布がかけられた日の匂いを、ユウは思い出す。布から立つ糊の匂いと、埃のかすかな甘さ。甘さは眠りの入り口に似ていた。似ているものは、今は危ない。

 それでも、紙はここにある。ここにいる、と紙は言っている。ここにいる、と言えるうちはまだ大丈夫だと、最近自分に言い聞かせる癖ができた。癖は救いの形をして現れることがある。救いは、紙に貼られない。

「校務員室に、古い教科書を綴じるための紐と針があったはず。仮に綴じ直して、箱に入れて戻そう」

 シュウトが段取りを言い、立ち上がった。彼の背中に、いちど正義が貼りついて剥がれた跡が、うっすらと見えた気がした。剥がれた場所は、ふつうより少し白い。白いところは、風に焼けやすい。焼けると、紙の匂いが強くなる。

 三人で紙片を丁寧に重ね、手触りだけで大体の順序を探る。ところどころに同じ語が出る。「鐘」「赤い月」「眠りの鳥」「殻」。殻、という字の形が、妙に紙の上で目立った。四角の中に、細い線が何本も重なっている。重なりは、割れやすい。

 午後の授業の始まりの鐘が鳴った。校内放送で流れる電子音の鐘は、海の底の鐘とは似ても似つかない。それでも、誰かの頭の中でふたつの音が重なることはある。重なると、境目が太くなる。太くなった境目は、踏むとやわらかい。

 紙片を抱え、校舎へ戻りかけて、ミサキがもう一度屈んだ。草の根に、最初に拾った束からはぐれた小さな欠片がひとつあった。そこには、ほんの短い文だけが残っている。

 ——わたしたちは、鳥をまねた。

 ——鳥をまねると、おちるのがゆっくりになるから。

 ミサキはそれを胸のポケットにしまい、唇を曲げた。笑っているわけではない。笑いの手前で、何か別の形に変わる瞬間の顔だった。彼女はユウを見た。ユウは頷いた。頷いた拍子に、胸の中で小さな鐘が一度だけ鳴りそうになって、鳴らなかった。鳴らない音のほうが、骨の裏に長く残る。

 紙を綴じ直す作業は、思ったよりも時間がかかった。校務員室の古い机に紙を広げ、紐を通す穴を既存の綴じ穴に合わせる。穴の縁はもろく、少し触れるとほぐれて粉になる。粉は白く、指に溜まる。指の白さを見て、ミサキは言った。

「雪みたい」

「雪、見たことあったっけ」

「川の上にうっすら積もった年。父が舟を出さなくて、軒先の鳥が寒そうにしてて、母がパンの耳を投げたよ。パンの耳が雪で少し湿って、鳥が嘴でついばんだ。鳥って、固いところが好きなんだって、母が言った」

「固いところ」

「夢の殻も、固いところだけ残るのかも」

「残る殻に、閉じこめられる」

「閉じこめられたら、鍵、いる?」

「鍵は、名前」

「最後に使うやつ」

「最後まで、折らないで持っていられたら」

 紐を結ぶ。紐は細く、ほどけやすい。ほどけやすいものを結び、結んだところへまた紐を巻く。巻くたびに固さが増し、紙の束は一冊の本の顔つきに戻っていく。本になれば、棚に戻せる。棚に戻せるものは、今の町では貴重だ。

 その日の夕方、役場から「電力調整のお知らせ」が掲示板に貼られた。満ちの前夜、町の電灯を一斉に落とすという。夜間待機のための電力を確保するため、と紙は言う。紙の言うことは正しく、正しいものは冷たい。冷たさのぶんだけ、現実は乾いていく。乾いた夜は、音がよく響く。

 日が沈みかけるころ、ユウは図書館へ向かった。窓には白布。入口には錠。鍵は、手続きすらもう冷えてしまった。シュウトが何か所かへ電話をかけ、役場に顔を出し、腕章の人を何人か説き伏せ、結果として図書館の隅の箱だけが開いた。そこへ紙を戻す。箱は木でできていて、内側に古い布が貼られている。布はところどころ擦り切れ、裏の木目がのぞく。木目は川の流れに似ていた。似ているものは、今は慰めになる。

「ありがとう」

 誰に向けてか、ユウは小さく言って箱の蓋を閉めた。音はしなかった。閉じる音の手前で、誰かの指が箱の縁を支えた気がした。誰かは、たぶんいない。いない人の指の温度は、木に吸い込まれて木の匂いになる。

 夜になった。町の電灯が、一斉に落ちる。音はない。落ちるものは、いつも静かだ。静けさの中で、遠くの海だけが赤く息づいているのが見えた。潮の表面は暗く、けれど底から上がってくる赤が、呼吸のように膨らみ、縮む。膨らむたび、観覧車の骨がわずかに影を太らせる。縮むと、灯台の白が相対的に強くなる。強さは短く、刹那のように消える。

「真っ暗」

 ミサキが言う。声は空気に溶け、すぐに輪郭を失った。輪郭の代わりに、手が来る。ユウの頬に触れる。指先は冷たく、爪の先は柔らかい。柔らかさが、顔の皮膚の上で小さな円を描く。円は見えない。見えないものほど、今はよく見える。

「いる?」

「いる」

 暗闇の中では、言葉の重さが普段と違う位置にかかる。「いる」という二文字が、毛布より重く、鉄より軽い。ちょうどその間に落ちて、そこに留まる。留まることができる言葉は、ここでは少ない。

 ユウも手を伸ばす。ミサキの頬へ。頬の骨の縁。耳たぶの下。顎のやわらかいところ。触れるたびに、今この瞬間の地図が更新される。地図には名前がない。名前をつけると、鍵が回る。鍵は、最後まで取っておきたい。暗闇の中では、合図の順番もわずかに変わる。手首。肩。名前。名前のところで、ふたりは黙って呼吸を殺した。殺す、という言葉の響きが悪くて、すぐに別の言葉に置き換える。抑える。抑える、と言っても、空気の出入りは止まらない。止まらないところが、まだ温かい。

 遠くの海が、赤く息をする。息づきのタイミングで、鐘の影が背骨を撫でていく。撫でた指の数は三つ。三つ目で、ユウは指を噛む代わりに、頬に残る何かの温度を測った。温度は涙だった。涙は、眠くなるから出さないと約束したはずだ。約束は、紙に貼られていないから、容易に破れる。破れるたび、破片の形は、夢の殻の破片に似る。

「泣いてる?」

「泣いてない」

「泣いてないのに、温かい」

「泣いてないから、温かいのかも」

 暗闇の中で、冗談の形をした言葉がすべる。すべるのに、転ばない。転ばない程度の勾配が、町にはまだ残っている。残っているうちに、ふたりはもう一度、頬にふれる。片方の頬は濡れていて、片方は乾いている。濡れているのはどちらの涙か、わからない。わからないことは、この町では救いだ。

「眠りの鳥」

 ミサキが、胸ポケットから摘んだ紙片の言葉を思い出したように言う。暗闇の中で、紙は見えない。見えないのに、指に触れる。紙の角が皮膚に押し当てられると、そこだけ現実が強くなる。強くなった現実は、暗闇の中でも形を保つ。

「夢をついばむ鳥」

「殻だけ残る」

「残った殻に、人が閉じこめられる」

「殻を破ったら、床が濡れる」

「濡れた床で、転ぶ」

「転んでも、手をつく場所。三番の柱」

「三番の柱」

 何度目かの反芻が、暗闇の中で新しい意味を持った。手探りで頬を確かめることが、まるで灯台の白に触れるみたいに感じられる。白は届かないのに、届いた気がする。届いた気がするだけでも、夜は薄くなる。薄くなった隙間から、誰かの息が入る。入った息が、涙の温度をわずかに変える。

「結末、ないの、いいな」

 ミサキがもう一度言う。笑っているのかどうか、暗闇ではわからない。彼女の声は、紙の表紙みたいに薄く、指の跡を残さないですべっていく。

「いい?」

「いい。だって、これから好きなところで止められる。止めるのは選ぶことじゃないから」

「止める場所、どこにする」

「今」

「今」

 今、と言うと、海の息が一度だけ深くなった。深くなったところで、鐘は鳴らない。鳴らない音が、骨の裏を静かに撫でた。撫でられたところに、もういちど、涙の温度がのった。温度で生の位置がわかる。生は、ここにある。ここ、と言えるうちは。

 遠くの住宅街で、誰かが小さな悲鳴をあげた。悲鳴はすぐに飲み込まれ、夜がまた静かになった。静けさは厚く、厚い布のように町を包んだ。包まれた中で、ユウは思った。笑えない自分の強さのなさを、無理に責める必要はない。笑える人が浮きを持ってくれば、その浮きをつかめばいい。浮きが来ない夜は、手を伸ばして頬を確かめればいい。頬の上にある涙の温度は、自分の体温と混ざって、正確な地図になる。

「ねえ」

「なに」

「鳥をまねるって、どうやるんだろ」

「ゆっくり落ちる」

「じゃあ、今日、まねる?」

「まねよう。ゆっくり落ちるなら、戻る階段が見えるかもしれない」

「階段、泡でできてる?」

「たぶん。すぐ消えるけど」

「消える前に、踏む」

「踏む足に、名前をまだ載せない」

「名前、最後」

 ふたりは、暗闇の中で頷いた。頷きは見えない。見えない代わりに、首筋の筋肉がわずかに動く。その動きの微かな音を、自分の耳の中で聞く。耳の中の音は、海の底の鐘とよく似ていた。似ているだけのものは、今は救いだ。

 夜は長く、けれど終わる。町の電灯は朝に向かって少しずつ戻る。戻る前に、一度だけ風が強くなり、校庭の隅の紙片の山を撫でた。撫でられた紙の中から、一枚が舞い上がり、観覧車の骨の間にひらりと引っかかった。引っかかる瞬間、紙は短く音を立てた。鳴らないはずの紙が、鳴った。誰も気づかなかった。気づかれない音が、朝にはいちばん長く残る。

 朝。ユウは起き上がり、窓の外を見た。赤い息は薄くなって、潮はふつうの色に近づいている。ふつうに近づくことが、今はかえって不安だ。ふつうのふりの上で、人はよく落ちる。落ちる手前で、頬に触れる。昨夜の涙の温度はもう残っていない。残っていなくても、残ったような気がする。気のせいは、ここでは役に立つ。

 学校で、校庭の隅を見に行くと、紙片の山は低くなっていた。綴じて箱へ戻したぶんが消えたのだろう。残った紙は、風と子どもの靴跡に混じって散らばり、ところどころに文字の断片が見えた。そのどれもが途中で切れている。切れているのに、読み終わった気持ちになる文がひとつあった。

 ——いま、ここにいる。

 それだけ。文の前にも後ろにも、何もない。なのに、それだけで十分だと思えた。ここにいる、と言えるあいだは、人は落ちない。落ちないあいだに、眠りの鳥をまねる。ゆっくり落ちて、泡の階段を足でさぐる。足でさぐるあいだだけは、戻ることも可能だ。

 ミサキが隣に来て、散らばった紙のひとつを拾った。そこには、こうあった。

 ——夢をたくさん食べたとりは、満腹になっておもくなる。おもくなったとりは、ゆっくりおちる。

「いいね」

 彼女は笑った。笑いは薄く、持続しない。でも、その薄さが今はよかった。薄いものは、破れたときに傷が浅い。

「ねえ、ユウ。今夜も、三番の柱」

「三番の柱」

「鳥、まねる?」

「まねよう。ゆっくり」

「泣く?」

「泣かない。泣いたら、眠くなる」

「眠くなったら、呼ぶ?」

「最後に名前」

 約束、と言わない。言わないほうが、軽い。軽いものは持ち運びやすい。持ち運びやすいものだけを持って、今夜まで歩く。歩きながら、ユウはポケットに手を入れ、昨夜書いた自分の手帳の欄を指でなぞった。黒い塗りつぶしの手前に、細い余白がまだある。そこに、細い字で足す。

 ——結末は、まだない。

 ——だから、ここで止める。

 ——ここにいる。

 ペン先を持ち上げたとき、窓の外で風が校庭の白線を少しだけまっすぐにした。まっすぐになった線の上に、誰かの影が通り過ぎる。影は短く、細い。細い影のまま、観覧車の骨の間へ消えた。消えたあとに残ったのは、紙の匂いと、涙の温度と、遠い鐘の鳴らない音だ。

 結末がない物語を抱いて、ふたりは夜へ向き直る。暗闇が来る。電灯は落ちる。海は赤く息づく。眠りの鳥は夢を啄み、殻だけが残る。そのとき、殻の内側から、頬に触れる手がある。涙の温度で、生の位置がわかる。位置がわかるうちは、鍵はまだ折れない。折れない鍵を、最後まで持っていく。名前は、最後。最後まで。

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