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猫又日録~ねこまたにちろく~  作者: セアル


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7/7

痛みも涙も君のもの

小ネタで一つ


動物のシモ関係の病気の描写が出てきます。

苦手な人はバックプリーズです。

 コンコン

 控えめなノック音が控え室に響き、本を読んでいた長い黒髪の女性は顔を上げた。


「はい、どうぞ」

「失礼しま~す」


 元気な声と共にドアを開けたのは、その女性の共演者。

 というか、共演者の飼い主で


「今、大丈夫、千代」

「えぇ、大丈夫だけれど、どうかしたの凛」


 凛が控え室を訪れた女性の正体は、同業者のペットタレントの飼い主で、しかも蝶とかネズミとか、通常では扱えないようなペットを意のままに出来る人物。

 だけど今日の撮影で、エルと共演したのは


「うん、ちょっとね~」


 凛がキョロキョロと控え室を見回してみれば、隅っこのクッションの上と前に二匹の犬がいて、そっと近づけば豆柴の方は不機嫌そうに低く唸り、隻眼の秋田犬は豆柴を守るかのように立ちはだかる。

 勿論、彼等も彼女のペットタレントだ。  


「和成クン、ご機嫌斜めだったね」

「昨日からなの、一体どうしたのか」

「ちょっと、いいかな?」


 凛は立ちはだかる大型犬もなんのその、唸る豆柴の尻尾を掴んでお尻を持ち上げ、しげしげと肛門周辺を観察し、摘む様にモニモニと触ってみる。


「やっぱり、溜まってるね。 千代、今ここで絞っちゃっていい?」

「え?」


 千代が言葉の意味を理解する前に、凛は窓を開け放ちティッシュを何枚も重ねて手に取ると、豆柴の肛門を挟むように下から上に扱き上げた。

 瞬間、茶色いクリーム状の物体がティッシュに漏れ出し、排泄物に近い臭気が漂う。

 ティッシュを換えながら何回かその作業を繰り返していると、次第に柴犬の様子も落ち着いてきて


「はい、お疲れ様、スッキリしたね~」

「……凛、何したの?」

「肛門嚢を絞ってあげたの」

「それは、何?」


 首を捻る千代に、凛は手をウエットティッシュで拭きながら簡単に説明する。


 肛門の両脇には、肛門嚢という分泌物を蓄える袋がある。

 通常は排便時に便と一緒に排出されるが、様々な要因で溜まってしまうことがあって、酷くなると炎症や細菌感染で膿をもって破裂してお尻の皮膚に穴が開いてしまう病になる。


 猫でもないのに、豆柴がしきりに肛門を舐めていたので気になったのだ。


「小さい子だと、そうなりやすくてね」

「凛、詳しいし、処置が上手なのね」

「エルで、散々経験させてもらったからねぇ」


 苦労したのだろう、凛が遠くを見るように苦笑する。


「それは、二代目エルの事」

「あっ、えと、うんん、前のエル」

「そう一代目の、元気なの?」

「ウン元気だよ~、すっごくね~」


 苦労してるのだろう、凛がすごく遠くを見るような表情で、ちょっと宇宙猫(スペースキャット)状態だ。





「じゃぁね~獣医さんや、ペットトリマーの人とかでも絞ってくれたりするから」

「うん、ありがとう」


 にこやかに手を振って控え室のドアを閉めた途端


「……あれは、まさに地獄の責苦だからね」


 普段飄々としている人物に、珍しくも軽く青ざめた表情で壁にもたれたまま出迎えられた。


 まだ普通の猫だった頃、エルは肛門嚢炎になってしまった。

 当時はまだ凛も処置方法どころか病名さえも知らず、治療は看護婦に任せた。

 腫れて痛みを伴う肛門嚢を絞り上げる看護婦をサポートするために、凛は胸元でがっちりエルを抱え込んで押さえつけた。

 よほど痛いのだろう老猫が懇親の力で暴れ、一度も耳にしたことのない絶叫を治療中途切れる事無く上げ続けたのだ。


「ほんと、二度とごめんだねぇ」

「だって治療なんだったんだもん、仕方ないでしょ。 でも、あの、ね」

「ん?」

「治療が終わった後、涙目になってこっちを見上げるエルは、すっごく可哀そ可愛かったの。 『どうしてこんな痛いことするの? もうしない? もうしない?』ってみえて」


 申し訳ないとは思っているのか、その笑顔は微妙なものだ。

 が、はにかむ表情は、本当に可哀そ可愛かったと思い返しているのだろう。


 そう、この笑顔には見覚えがある。

 あの時は理解不能の下半身の激痛は続いていたが、この笑顔を見て何があっても大丈夫なのだと、無条件に信じられた。

 だから、そのまま最も安全圏であろう飼主の胸元に体を滑り込ませたのだ。


 それは、昔も今も変わらない。

 ……変わろう筈もない。




 先程までの青ざめた表情はどこへやら、エルはゆるく口角を上げ凛の耳元に唇を寄せる。


「ふ~ん、私が痛い思いをしていると言うのに、そんな風に見ていたなんて、ずいぶんと酷い飼主だ」

「あっ、ごめん」  

「傷ついたねぇ、これは少々の事では癒せそうにないけれど」

「ってぇ!」


 耳に注ぎ込まれる声と口調で、本気で気を害していないことも分かる、というかそれは夜の言い回しだ。


「明日は仕事も入っていないことだし、じっくり癒してもらうことにしようかな。 ペットタレントの機嫌を保つことも、重要な仕事だからねぇ」

「───っ!」


 誰も通ってないTV局の廊下で、真赤な顔をして固まるペットタレントのオーナーと、その女性の背後を陣取って笑みを浮かべているマネージャ。

 今からでも仕事のオファーがないか天を仰ぎ見るのだが、視線の先にあるのは自分に憑いている妖艶な猫又で



「今日は私の日の筈だろう……だから、ね、御主人」



 嗚呼、そういえば今日は猫の日だったなぁ。

 なんて取り止めもない事に思いを馳せるしかなかった。

2/22 猫の日のネタでした。


ウチ先代猫が体を張ってネタ出ししてくれたのは、ちょうど一年前ぐらいで一年越しで日の目を見てもらいました。

因みに、破裂させてしまった駄目な飼い主ですorz

先代猫は16年一緒にいてくれましたけど、肛門嚢炎といい、尿道結石といい、膀胱炎といい、シモ関係を総なめにしてくれましたOTL


またネタができたら、追加するかもしれません。

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