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猫又日録~ねこまたにちろく~  作者: セアル


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人気者の君に妬く

さて10年後、2人の関係は?

 地下駐車場から住民専用のエレベーターで上がってくると、二重の自動ドアが開き本人認証識別によって内扉が解除された。


 最新の防犯設備の整ったこのマンションには地下駐車場からマンションの周囲、そしてこのエントランスに至るまで監視システムは完璧だ。

 コンシェルジュは預かっている郵便物を渡す為、防犯カメラの映像と本人認証識別の部屋番号で、どの住人が帰って来たのが分かるようになっている。


 エントランスに現れたのは、後ろを長めに整えたショートカットの妙齢の女性。

 化粧っ気のあまり無い顔立ちが幼いような、でも快活な印象を与えていた。


「葵様、お帰りなさいませ」

「ただいまです」

「少々お待ちください、こちらが本日の分です」


 受け付けの上に手紙やら小包やらが一杯に詰め込まれた紙袋が置かれ、思わず凛は眉を顰めた。


「ごめんなさい、こっちには回さないでって言ってあるのに」

「いいえ、此方は一向に構いません。 それに切手が貼っていないのもありますので、直接投函されているようです。 流石は、大人気のペットタレントですね」


 凛の足元に視線を移して見るとその声に答えるように、足元に置いてあるペットキャリーの小さな窓からアビシニアンが顔を出した。

 ルディの柔らかく美しい毛並みのアグーティタビー、澄んだグリーンの瞳に、クレオパトララインもくっきりと、体はしなやかで筋肉質のフォーリンタイプで大きな耳にはチャームポイントのタフトもあって……昔と全く変わらない、その姿。


「先代に負けず劣らず、二代目の彼も素晴らしいスター性で。 しかし凄いファンレターの数ですね、お一人で持てますか? 手伝いましょうか?」

「結構、私が持つよ」


 抑えながらも艶を佩びた声の主は凛の背後から長い腕を伸ばし、女性では持つのも困難であったであろう量の手紙を軽々と抱えあげた。


「お帰りなさませ翠様……それにしても、既に凄い量ですね」


 受付が苦笑気味にそう言ったのも無理はなかった。

 男の両手には既に三つもの紙袋が握られていて、その中身は全て手紙や小包らしきものでパンパンになっている。


「これも、エルの人気ゆえかな……では、失敬」


 男は全ての荷物を苦もなく抱えあげると、ペットキャリーを持って先にエレベーターホールに向かった凛の後に付いて行った。  






 パタン

 マンションの自宅玄関を閉じると、凛は後ろの人物をキッと睨みつける。

 そこにいたのは、先程まで無かった猫耳に二本の尻尾……人間形の猫又のエル……


「何が『エルの人気』よっ!」


 その言葉と共に、少々乱暴に玄関に置かれたペットキャリー。

 中身はカラで、あのアビシニアンの姿はどこにも無い。


「どうしたのかな、マリアは一体何に怒っているんだい」

「怒ってなんか無いもんっ! コロコロ化けないで、もうずっと猫のエルのままでいなさいよ!」

「嫌だね」

「何でっ」

「こっちの方が、カッコいいだろうv」

「 ! 」


 ニヤリ、意味深に妖しく口角を上げる男に、凛のボルテージも上がりかける。

 が、言い争いになっても凛に勝ち目などなくて上手く丸め込まれて、気がつけばベッドの上、なんて事もしばしばで。

 そうならない為には、一呼吸措いて頭を冷やす必要があって


「私、お風呂に入るからっ!」


 乱暴に靴を脱ぐと、そのままお風呂場に直行して内鍵をかけた。


「ふふ、どうぞごゆっくり。 あぁ、ちゃんと耳の裏も洗うのだよ」


 バン!と何か(恐らく、タオルとかバスタオルとか)が扉に叩きつけられる音とエルの含み笑いが綺麗に重なった。








 キュッっとコックを捻り、凛は少々熱めのシャワーを頭から浴びる。

 怒っている訳じゃない。


 ……妬いているのだ……


 その自覚はあった、だがこんな嫌な思いをするのもエルが人間系のエル……翠の姿をしている所為で



「エルのバカ」







 事の始まりは、大学生の時。


 演劇部だった友人がある事で大変困って、今度、演劇の全国大会に参加するのだが、劇中に登場する犬が急病になってしまい。

 使える犬はいないか! この際、動物なら何でもいいっ! と、形振り構わず探しまくっていたのだ。

 そこで、凛はエルに訳を話して協力してもらった。


 ……勿論、その見返りを要求されたが……


 見返り分が功を奏したのか、それとも何事も面白がる本来の性格ゆえか、仕事分だけではなく猫としてあり得ないほどのアドリブを利かせてくれたお陰で、大会では優勝……そして、エルはペットタレントのプロダクションからオファーを受けた。



 最初は、凛も軽い気持ちだった。

 だが人の言葉を理解している猫又にとって、ペットタレント程度の演技など造作もなく、その完璧すぎる演技は他のペットタレントと比べ物にならない扱いやすさの上、元々生粋の純血種でワールドチャンピオンの経歴のアビシニアン。

 何度か仕事をしている内に人気はあっという間に鰻上り。

 凛が大学を卒業する頃にはエルを知らない人はいない一流のタレント並となっていて、安全面から今のマンションで暮らすようにと事務所から薦められた程だ。


 そんなエルの唯一つの弊害は『年を取らない』と言う事。

 流石に猫又である事を、TVで公表する訳には行かなかった。

 だがそれもエルの知恵で解決の道に、年を取れば猫又の妖力も徐々に洗練されていくもの。

 ……しかも美味しい精気を、存分に食べているとなれば尚更だ……


 いつの間にか、彼は自分の分身を作り出す事を覚えていた。

 自らは人として『猫のエル』の『マネージャーの翠』として飼主の凛の側に付き従い、分身は徐々に年を取らせておいて急に子猫の姿にして『二代目』と言う事で折をつけた。


 『二代目エル』の人気も凄いものだが、最近は『マネージャーの翠』にも人気が出てしまって。

 切っ掛けは、SNSだった。

 エルの追っ駆けがマネージャーとして一緒にいる翠の存在に気がついて、あっという間に本家をしのぐ勢いで……この場合、本家本元なのだがら今一表現は可笑しいが……

 実際、彼自身にもタレントやモデルにならないかとの誘いもあるのだ。

 今日届いたファンレター、恐らく半分以上は『人間のエル』に届いたものだろう。




 はぁ~と、重苦しい溜息を零しながら凛はコックを閉めた。

 パジャマに着替え髪を拭きながらリビングに行くと、ソファーに優雅に寛いだ姿勢でエルが座っている。


「お帰りマリア、あの分が『エル』に寄せられたファンレターだから」


 テーブルの上には、三分の一ほどの量になった手紙や包みがおいてあった。

 凛は自身のブログで『エル』に関する記事を書き、貰ったファンレターのお礼状も書いている。

 だから、ちゃんと『エル』の贈物には全てに目を通す、それが分っているから彼も妖力で検分後その分は取っておく……が


「……残りは」

「ん~、焼却処分v」


 小さな妖火を爪に点すと、一瞬だけ大きく輝かせ鎮火させる。

 恐らく彼への贈物には、熱烈なファンレターや高価な品物も含まれているに違いなかった。

 だが、そんな事は一切お構いなしで


 ……それだけ自分は大事にされている……


 何だか妬いているのがバカらしくなった凛は、エルの隣にポスンと収まった。


「ねぇエル、カッコいいのがいいのなら、モデルやタレントをやってみてもいいんだよ」

「マリアは、私にソレをやって欲しいの?」

「うぅ」


 覗き込んでくるエルに、凛の言葉と表情が曇る。

 『やってほしくない!』ソレが本音だ、そして根が正直な彼女は表情だって嘘を吐けないのだ。

 そんな凛を見て、エルは心底嬉しそうに喉を鳴らす。


「ふふ、私はマリアの側を離れないよ。 でないと色々なモノから守れないからね」

「色々なモノ?」

「そう、色々なモノ」


 囁いた、ついでとばかりに凛の耳に甘く噛み付いた。


「おや? ちゃんと耳の裏まで洗って無いねぇ、もしかしてシャワーを浴びただけかい」

「ん?」

「これは、色々と頑張っている私への御褒美と思っていいのかな」

「へ⁉」

「だってねぇ石鹸の香りがするよりも、マリアの匂いがした方が断然美味しいもの」

「はひっ!」

「じゃっ、イタダキマスv」

「えぇぇぇぇぇぇぇ」


 クルンと簡単に身を反され、ソファーに組み敷かれ、その後は……。






 私はこの姿でなければ、マリアを守れないのだよ。


 あの生真面目そうなコンシェルジュしかり、マンションの警備員や、カメラマンや、AD、それに財閥の御曹司に、スポンサーや、プロデューサーまでも。

 他にも彼女に好意を寄せているものは、それこそごまんといて。


 『エル』のファンレターに潜り込んであるのも、相当数に上っているのだよ。

 はっきり言って、ラブレターに近しいものばかりで、厚かましい事この上ない。


 まぁ、そーゆーのは、特にこの世に痕跡さえ残さず闇に葬るようにしてはいるがねぇ。


 やれやれ全く、私は人気者の君に妬きっぱなしだよ。

いや、どうやって猫又のエルに頑張って頂こうかと。

ペットのままってーゆーのも何だし、妖力バリバリ使うのも楽しいけど何でもアリってのもねぇ。

って事で、猫のままできるペットタレントになってもらいました。


きっと彼の演技力は、某CMの白いお父さんの比じゃないと思われますw

高給取りだし、十分凛ちゃんを養っていけるさ~♪


後小ネタを何話か(^^♪

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