何て呼んで欲しい?
リハビリなうなう。
消えてしまった自HPのパラレル小説から、二次部分を削除しました。
戦闘による残酷描写、R-15あります。
(おさわりと程度ですが、さらに控えます)
連載変更に当たって、タイトル変更しました。
彼は、産まれも育ちも生粋のエリート。
両親共々ワールドチャンピオンの経歴の持ち主で、当然のごとく本人も燦然と輝く栄誉を何の苦労もなく手に入れた。
ルディの柔らかく美しい毛並みのアグーティタビー、澄んだグリーンの瞳にクレオパトララインもくっきりと。
体はしなやかで筋肉質のフォーリンタイプ、大きな耳にはチャームポイントのタフトもあって、まさにキング・オブ・アビシニアンといって過言でない美猫だった。
当時まだこれほどの純血種は日本には少なく、彼を手に入れたブリーダーは繁殖に勤めさせた。
猫として最高の素材、その繁殖希望者は引く手数多で、ブリーダーはドンドン値を吊り上げ難なく大金を手に入れる事に成功した。
やがてペットブームが到来しアビシニアンの他にもアメリカンショートヘアー、ロシアンブルー、スコテッシュフォールドなど多様な種類か持て囃される様になった。
が、ブリーダーはそのブームに乗り遅れ、せしめた大金も湯水のごとく使い果たし借金がかさみ、今まで暴利を貪っていた分、他のブリーダーからも白い目で見られ、夜逃げ同然に姿をくらました。
繁殖期を過ぎ老いが見え始めていたアビシニアンを、途中の山中で打ち捨てて。
何日、山の中を彷徨った事だろう。
町ならばゴミを漁る事も出来たかもしれない、人に縋る事も出来たかもしれない。
だが全く人気のない山中では、それすらも叶わない。
しかし幸いの事に、アビシニアンは老い始めたとはいえ健康体で、そしてとても賢かった。
極限の飢餓の中で、野性の狩猟本能が開花される。
野ネズミや蛙、果ては蛇までも獲物として狩り、人に頼らない方法を身につけ生き抜いた。
たまに人間を見かける事はあったが最早それは敵以外の何者でもなく、姿を見せることさえしなかった。
だが、流石に寄る年波には敵わない。
捨てられてから数年も経たった今、体は満足に動けず餌も捕れず、もう何日も何も口にしてはいない。
野良が物を食べられなくなればそれはもう、アビシニアンは半ば覚悟を決めたかのように草の上に横たわり瞳を閉じた……もう二度と開くことはないと思いながら。
「あ~ネコちゃんv」
明るい声と温かな手に体を無遠慮に弄られ、うっすらと目を開けてみると小さな少女が、自分を撫でまくっていた。
少々乱暴とも思える手つきだが、人間に撫でられたのはいつが最後だったか。
「お父さん~、お母さん~、ネコちゃんだよホラ!」
「アラこの子、アビシニアンよ……捨てられちゃったのかしら」
「……それに、もう大分弱ってるな」
「えぇ! 死んじゃうの!?」
両親の言葉がよほどショックだったのか、少女は半泣きになりながら猫を抱きかかえた。
「イヤだ、ヤダ! 飼うの、ネコちゃん連れて帰るっ!!」
「連れて帰るって!?」
「いいかい、この子は病気か年を取っていて、もう寿命なんだ。 連れて帰っても寿命なら死んでしまうんだよ」
「イヤ~ァだぁ~、病気なら病院に連れて行くのぉ、看病するのぉ~」
「動物の病院は、お金がいっぱい掛かるんだぞ」
「看病って、面倒は誰がみるの?」
「私のお小遣いを全部あげるのぉ~、面倒も私がみるのぉ~」
とうとう猫を絞め殺さんばかりに抱き締めながら、ガン泣き始めた。
両親は困り果て顔を見合わせる。
実際、動物病院の治療費は子供の小遣いでどうこうなるものじゃない。
それに面倒を見るといっても、通例にならってすぐに世話をしなくなるのも簡単に予想がつく。
だが猫の弱り具合から、その時もそう遠くないと判断した父親は情操教育の一環と考えた。
動物の生と死、残酷で悲しい別れが待っているとしてもそれが現実なのだと。
「分かった、じゃぁ凛がちゃんと世話するんだぞ」
「うん!」
「……アナタ」
「まぁ、任せてみようじゃないか」
その言葉に母親も折れ、いざ娘が面倒を見なくなった時の覚悟を決めた。
当の本人は嬉しそうに猫の顔を覗き込み、早々に名前を決める。
「ん~とね、目がキレイな緑だからエメラルドでエルちゃん!」
それは、商品だった彼に初めて付けられた名前だった。
ハイキングに来た筈のお土産は、今にも死にそうなアビシニアン。
家に帰る途中、そのまま動物病院に立ち寄り状態回復の為の入院となった。
その日から、凛とエルの戦いが始まる。
健康体であったはずのエルも、数年の野良暮らしでボロボロの状態だった。
体にはノミやマダニ、耳ダニまで住み着いていて、目は白内障の一歩手前、内臓器官もかなり弱っていて雄猫特有の尿道結石にもかかっていた。
去勢してしまえば、治るのも早く治療費も安い。
だが高齢ゆえに全身麻酔は耐えられないと判断され、投薬と食事療法の治療が開始された。
これだけの治療費は、かなりの高額の物となる。
だが凛は宣言した通り、全て自分のお小遣いで賄った。
勿論いっぺんに払う事は出来ないから父親に立て替えてもらって、月一の自分のお小遣いの他にお年玉や親戚から貰ったお小遣い、足りない時は積極的にお手伝いをして、お駄賃を貰ったりした。
エルは、退院しては、また体調を崩し入院する。
そんなことを何回繰り返しただろう。
正直、もう駄目かもと涙したことも片手では足りない程だ。
そんな攻防が、凛が16歳になった初夏頃に終わった。
色付いた紅葉がちらほらと、凛の目の前で踊り舞い散る。
通学路は閑静な住宅街で、森の中ほどではないが庭木として紅葉する木を植えている家も多く、案外近場で紅葉狩りが出来そうな雰囲気だ。
「ただいま~」
玄関を開け靴を脱いでいると
にゃーん
鈴を転がした様な、可愛らしい猫の鳴声。
廊下の突き当りからトテトテとルディの毛並みのアビシニアンが、こちらに向かって一目散に小走りにやってくる。
「エル、お迎えに来てくれたの」
凛の足に擦り寄り、猫特有の八の字運動を繰り返す。
ヒョイと抱き上げて頭を撫でてやると、嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らした。
「それにしても、エル急に元気になったよね。 最近はご飯もよく食べるし、毛並みも瞳も綺麗だし、病院でも異常はないって言われるし、何たって外のお散歩に出るほどだもんねぇ……本当は外は危険が一杯だから出したくないんだけど、まぁ、元気になってくれたのはすっごく嬉しいよv」
鼻の頭にキスしながらリビングに入ると、旅支度を整えた母親の姿。
「お帰りなさい」
「あれ? お母さん、まだいたんだ」
「まだいた、は御挨拶でしょう? 帰るのを待っていたのに」
「ゴメン、ゴメン。 でも、いいの今日から二泊三日の婦人会の旅行なんでしょう」
「そうなんだけど。 それがね、さっき連絡があって、お父さんも三日ほど急な出張になっちゃって、この連休中、貴女一人になっちゃうのよ」
「ん~大丈夫だよ、今日と明日を食いつなげばいいんでしょ。 最終手段は、ウーバーって手があるしw」
「……カレーを作ってます、あと冷凍庫にハンバーグがあるから……そうじゃなくてね、最近このあたりで空き巣が多いでしょう? 女の子一人じゃ、危ないんじゃないかって」
「平気、平気w ホラ、ウチには立派なオトコノコがいます!」
脇抱きにされて母親の前に差し出されたエルは、体を長く伸ばしたまま、にゃーん、と一鳴き。
そこ格好が、情けないやら可愛いやら、思わず頬が緩んでしまう。
「ねっ、エルもこう言ってるし」
「じゃぁ、くれぐれも戸締り用心してね。 私とお父さんの宿泊先はメモしてるから、何かあったら連絡するのよ」
「はいはい、いってらっしゃい。 お土産よろしくね~♪」
母親の作り置いてくれたカレーを食べながら、リビングでTVを見て夜を過ごす。
普段は明るい声が絶えない家だけに、たった一人っきりの寂しさが夜が更ける程に募ってくる。
さして面白いTVがある訳ではなく、早々に二階の自分の部屋に戻ることにした。
「エーちゃーん、エルーっ!」
猫用に少しだけ開けていたリビングの窓から、顔を出し名前を呼んでみる。
本来家猫なら外に出さない方がいいのだが、野良生活が長かったからか家に閉じ込めるとストレスが溜まるらしく、わかりやすく体調を崩すものだから、まぁ仕方がない。
七種混合の予防注射をしっかり打って、去勢はしていないが老猫ゆえに生殖機能はもうないとの先生からのお墨付きをもらって、万が一のマイクロチップと、迷子札を下げた外れる首輪をつけたうえで、日中は車の往来もあって危ないから夜のみの散歩を解禁している。
元々散歩から戻ってくるには時間が少し早くて、近所にいないのか帰ってくる様子はない。
瞬間迷ったのだが老猫を締め出すのは可哀想だし、どうせ自分もまだ寝ないのだからと、窓は少し開けたままでリビングの灯りを消した。
コトリ
どれ位、時間が経った頃だろうか。
ベッドに寝転びながらサイドの照明のみで本を読んでいた凛は、階下のリビングから聞こえた物音に身を起こす。
エルが帰ってきたのだろうと、だったら窓を閉めようかと何の迷いもなく階段を降りリビングの戸を開けた。
「エル……?」
普通なら、呼べば鳴いて近寄ってくるのにその気配がない。
戸の影の照明のスイッチを点けようとした瞬間、強い力で押し倒されソファーにうつ伏せの状態で荒々しく組み敷かれた。
背後から首根っこを両手で押さえ付けられ、顔が深くソファーにめり込み呼吸が上手く出来ない。
「騒ぐな、騒ぐと殺すぞ!」
上から酷く慌てた感の男の声が聞こえたが、騒ぐなと言われてもとにかく苦しくて、何とかこの状態から抜け出そうと藻掻いていると、尚力一杯押し付けてくる。
呼吸が止まりかけ、意識が闇の中に吸い込まれそうになった時
「誰に断って、私の御主人に触れているのかね」
「っ、ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
背筋まで凍りつきそうな冷たい声と、空き巣の悲鳴が重なった。
それと同時に背中の負荷がなくなり、いっぺんに肺に大量の空気が入ってくる。
喉をヒューヒュー言わせながら、懸命に酸素を取りこもうとすると急ぎすぎて今度は咳き込みむせ返っていると、背中を優しく擦ってくれる手の感触。
酸欠でくらくらと眩暈がする頭を上げ、助けてくれた人物を見てみると、年の頃は三十前後だろうか、緑の長い髪に同系色の綺麗な瞳、心配そうな表情で覗き込んでいる男性。
「大丈夫かい? 怪我は?」
と、甲斐甲斐しく介抱をしてくれる。
しかし、凛はその言葉に答えることが出来なかった。
だって一面識もない、それより何より服を着てないどころか何も身に着けてない、しかしそんな事、今の目撃している衝撃にはたいしたことじゃなくて。
男性の頭には大きな猫の耳に、背の後ろには二つに分かれた長い尻尾が見え隠れしていたから。
その毛並みの色は、まさしく見覚えのあるルディで
「……あぁ、首に痣が……全く私が留守をしている間に、とんでもない事をしておくれだねぇ」
リビングの端で痛みに堪えている空き巣を、眼光鋭く睨み付ける。
男の背には五本の爪痕が深く切り刻まれていた。
だが今はその傷の痛みより、突然現れた男の殺気混じりの剣呑な視線のほうが痛い。
「御主人の首に痣をつけた不届きな両手など……要らないだろう」
キラリと双眸が光ったかと思うと、空き巣の両手が不自然に捻り上がる。
「うわぁぁぁ、がっ! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「いくら叫んだところで助けなど来ないよ、この空間は私の妖力で封じたからね。 さて、どっちがいいかな、粉々に砕かれるか? 千切り切られるか?」
クツクツと喉で笑う男の様子に、空き巣の背筋に戦慄が走る。
冗談などではなく本気なのだと。
だが
「ダメ! お願いやめてっ!!」
「……御主人……」
「ねっ、お願い、私は大丈夫だから」
「しかし、御主人は後一歩でこの男に殺されそうに」
「エル、めっ!」
それは滅多に怒らない凛が、猫のエルを本気で怒る時の仕草。
男はやれやれと言った感じでため息を吐くと、再び空き巣に向き直り、キラリと瞳を光らせる。
「慈悲深い御主人の優しさに感謝することだね。 さぁ、ここでの出来事を全て忘れ、早々に出て行くがいい。 ……そうだねぇ、警察に自首した方がいいだろうね、でないと私の同胞達が黙っちゃいないよ」
空き巣は、まるで夢遊病の患者の様にフラフラと窓から出て行った。
その様子を確認すると、凛の体から緊張の糸が切れヘタリと座り込む。
……要は腰が抜けたのだ……
先程まで気丈に振舞っていた女傑の相反する姿に、男は苦笑しながら手を差し伸べ横抱きに抱え上げ、そのままソファーに座り込んだ。
「御主人、怖い思いをさせてすまなかったね……痣を見せてごらん」
「ねっ、あの、本当にエル……なの?」
「おや? 先程認めてくれたんじゃないの」
「えっ、だって、その……人間なんだモン……」
「ふふ、詳しい話は後で、まずは治療が先だよ」
「きゃっ!」
エルは凛の首筋から項にかけて、ゆっくりと丹念に舌を這わす。
猫特有のざらついた舌の感触が、くすぐったくも何だか妙な気分になってくる。
こんな事、猫のエルとはよくあった事なのに!?
「もっ、いい……大丈夫……だから」
「駄目だよ、まだ痕が残ってる」
顔を背けようと、姿勢を反らそうとするのだが、腰の抜けた体は言う事を聞いてくれず、押し退け様としている腕でさえ、二本の長い尻尾で器用に絡め捕られて。
「御主人、オイタは『めっ!』だよ」
わざと言い方を真似られて、しかしそれでも腰が砕けるような甘い声を直接耳に流し込まれて、よくよく考えてみれば、こんな衆目美麗なホストのような男性に……しかも真っ裸だし……これだけ近寄られたことも抱き締められたことも、ましてや首筋を舐められているだなんて!?
「や……もっ……ダメェ……」
突然に遭った色々な出来事で、凛の脳は完全にオーバーヒート。
そのまま意識を手放してしまった。
カーテンの隙間から差し込む朝日と、微かに聞こえる小鳥の囀りに誘発されて、凛はゆるゆると目を開ける。
まだ覚めやらぬ目にボンヤリと映る光景は、いつもの自分のベットから見るもので
「何だ、夢か……そりゃ、そうだよね……でも、ちょっと残念かなカッコ良かったし」
と小さく笑った。
凛は横向きになって、胎児の様に背を丸める形で眠る癖がある。
それはお腹の所で大事に守る彼がいて、毎朝の儀式のようにその存在を確かめる為に手を伸ばすと……いない。
訝しく思いもう少し広範囲に手を伸ばそうとしたら、そっと背後から手を絡めとられて
「ここにいるよ、御主人」
「 ! 」
あのっ悩殺ヴォイスが後頭部のすぐ側から零れた。
慌てて半身を捻って後ろを見ると、頬杖をつきながら目を細めて嬉しそうにこちらを眺めている、男が一人。
「ふふ『カッコ良い』とは光栄かな、御主人の眼鏡にかなったのは嬉しいねぇ」
「えっ! あっ!! ウソぉ!?」
「おや、まだお疑いかな? 猫が二十年生きると猫又となるのは、人間の世界でもメジャーな事だと思っていたのだけど」
「エ……ちゃっ……ホントに?」
「本当だよ」
エルは凛をギュっと抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
そのまま太陽のような色の短い髪に鼻を摺り寄せ思い切り息を吸い込むと、幸福な日向の暖かい匂いが胸いっぱいに満たされる。
「御主人のお腹で守られるのも悪くないけれと、いつかこうしたいと思っていたのだよ。 ……御主人を守れて、本当に良かった。 今迄は守られてばかりだったけれど、これからは私が守るから。 御主人を傷つける全ての者から、全身全霊を懸けてね」
幸せに浸りきっている男には悪いが、凛はそれどごろじゃない。
身動きも出来ないほど抱き締められて、目の前にあるのは真っ裸のままの逞しい胸板で、飼い猫の妖怪だと頭では理解してもソレは思春期の乙女に耐えられる光景ではなくて、それと後もう一つ、どうも背筋がむず痒い事が……。
凛はモゾモゾと動き、ようやく真っ赤な顔を上げると小さく呟いた。
「あの……ね、エル」
「ん?」
「その『御主人』って言うの、気恥ずかしいんだけど」
「どうして?」
「だって、その、エルの方が年上に見えるし、何かメイドカフェか、執事喫茶に来てるみたいで」
「じゃぁ、何て呼んで欲しい?」
「えと、普通に名前で」
「それじゃぁ『御主人』に対して失礼だろう」
「失礼な事なんて全然ないけど……じゃぁ、何かアダ名でもつけちゃってくれれば」
「アダ名ねぇ……」
暫く考えて何かを思いついたのだろう、エルの口角が上がる。
「お早う、マトリカリア」
にっこり笑って、凛の鼻の頭にキスを一つ。
ソレは毎朝、凛が猫のエルにしていていた日課の一つ。
だけど今のエルは目が眩むほどの美丈夫で、そんな彼に鼻とはいえキスされて、しかも『御主人』の方がよっぽどましなアダ名を付けられて、色々パニックに陥ってる凛の叫びは
「何で、そんな展開になっちゃうのぉ~~~~~~~~~~~~っ!?」
君は、幼かったから覚えていないのだろうね。
だけど私は一度たりとも、忘れた事などないのだよ。
私を拾ってくれた、あの瞬間の出来事を。
咲き誇る夏白菊の間から注がれた、明るい声と、優しい微笑みと、温かな手の感触を……。
新たなる生の始まりを
「……私の凛……」
もう一度、羽根のような口付けを。
エタってる間に、仕様が大きく変わってちょっとピンチ >◇<;




