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[13]隣に立つ人④



 アンスカレット家に珍しく上質な客が訪れたのはタクミが消えてから少し経った風の冷たい日のことだった。


 目に見えない何かを切り払うかのようなレイドゥースの振り稽古は日に日に度を増しており、発生した真空波によって美しい庭を悪意もなく破壊、洗濯物を乾すメイドや年の喰った庭師を泣かせていた。


 そんなこの頃の日常に、踏み込んできたのは一人の男。


 しかし、ただの男ではない。この男が見たメイド達が部屋の影でヒソヒソと噂話に興じ、この家に長く勤める男達はなにか挑みかかるように男を迎えた。


 まるで荒探しに忙しい噂好きのご婦人のように……。


 娘を守る父のように……。








「お久しぶりですね。レイドゥース嬢」


 ニッコリと微笑んできたのはタクミよりも背が高くて、タクミよりも大人な一人の男であった。


「……お久しぶりですね。キギリアさま」


 来訪者は、レイドゥースの数多くの婚約者の一人である男だったのだが、レイドゥースの認識としては……ああ、そう言えばこんな人もいたな~。といったものだった。


 何しろ、レイドゥースの祖父ランドルフが決めた婚約者の数は数十人いるのだ。


 しかも、会ったのは五年も六年も前の顔合わせのときだけ、などという人が多いのだった。


「あのキギリアさま、今日はどういったご用件で…?」


 本気で不可解だったので、レイドゥースはその感情を思いっきり表情に表しながら聞いてしまった。


 キギリアはちょっと苦笑している。


「もちろん、機嫌伺ですよ、レイドゥース嬢。…これから、起こる戦いを前にワタシが一歩、先んじてきたのです」


「……戦争ですか??」


「ええ、ある意味。他国との戦などよりワタシにとっては重要な戦ですよ」


「では、だれと戦うのです?…近隣諸国に戦意はありませんよ。起こらないんじゃないんですか?」


 レイドゥースの瞳の光が、騎士としてのそれに変わって行くのをキギリアは認めて溜息をつきたくなった。


 可愛らしく利発でらっしゃるが、色事においてはとても鈍感なのは以前にあった時から変わらないらしい。


「違いますよ。……貴女という、美しい華を手に入れるためのワタシ達、男の戦いです」


 噛んで含めるように、ユックリと言葉を紡ぐ。


 優しい口調は、レイドゥースにその意味をユックリとではあるが……正確に理解させた。


 スゥッと、頬に赤味が差すのを見て取り、キギリアもハッキリと理解する。


 レイドゥース、彼女はまだまだ、……準備ができていない。


 ひとつ呼吸を置いてから、キギリアは優しい提案をしてあげた。


「立ち話もなんですし、少し座って話しませんか?……久しぶりに貴女の淹れたお茶が飲みたい」


 レイドゥースが自分を取り戻す間を与えるために……。


「あ、は…はいっ、喜んで」


 未だに真っ赤に染まっているが、やっとレイドゥースが動き出す。 


 しかし、そのカチコチとした人形のような動きはキギリアに美味しいお茶を諦めさせた。










 案の定、レイドゥースが手ずから淹れてくれたお茶は風味も何もかもブランデーで飛んでしまったいた。


 ほとんど、モルトなままのアルコールがティーカップから匂ってきている。


 しかし、その程度で顔をしかめるほどにキギリアは子供ではないし、それに目の前にいる子供の様に混乱している人に怒ってみせる気など最初からなかった。


 カップのお茶をユックリと飲みながら、


「……知ってますか?いま、ランドルフさまに認められた皇国の若い貴族達が、皆、社会的に成功してきていることを……」


 ユックリと語りかけると、レイドゥースが不可解そうに顔をしかめた。


 どうして、話が飛んだんですか?と、その今だ赤みの残る顔が聞いてくる。


「競っているのですよ、貴女の婚約者である皆がね。つまらない男のプライドですがね、先ずは身を立ててから女性を迎えるのがワタシ達の常識なんですよ」


 ポカン、とした顔でレイドゥースが口元に手を当てた。


 自分の、結婚と婚約者たちについて今まで、深く考えたことなどなかったのだろう。


「ワタシは、アルベルン西方の地券のホトンドを手に入れました。皇都に召還されるまでになるのは、もう目の前でしょうね」


 皇都への召還はエリートの道だ。


 我らが大地が皇国の要所とは言え、皇都とアルベルンではその地のステータスにかなりの差があるのは仕方のない事実であった。


「貴女の他の婚約者達も、皆それぞれに成功を収めていますよ。貴女の隣に立つために…」








「ワタシ、……まだ結婚なんて考えてません」




 小さな声で呟くような声をだすレイドゥースにキギリアはわかっています、と言った頷きをかえした。


「もちろん、貴女の意思を無視する気はありません。でも…だからこそ知っておいてほしいんですよ。


ワタシ以外にも、これから貴女を手に入れようとする男がたくさん現れるでしょう。貴女はその中から最も素晴らしいと、好ましいと思われた者の手を取るのですよ」


 大きく瞳を見開いたままのレイドゥースは、ただ何も言えずに、キギリアの言葉を聞いていた。


「婚約者とか、そうじゃないとか関係はないのですよ。貴女が心のそこから求める相手をしっかりと見てあげなさい。


 貴方の周りにいる皆を見てみなさい。ユックリとなにも慌てずに、しっかりと見てみなさい」


「好ましい……人?」


 真剣だけれども、ここにいないような希薄な声をだすレイドゥース。


 レイドゥースが今、誰をおもっているかはキギリアにも解らない。


 だけれども、「ええ、そうです」と優しく頷いてやった。


















 キギリアがアンスカレット家を辞したのは、太陽が沈むずいぶん前のことだった。


「あまり長居していると、剣聖さまに斬られかねないしね。それに……一泊などして彼の機嫌を損ねるのはうまくない」


 大地の力に溢れた、アンスカレット家近隣の領地は機械の車を頑強に拒否しているので、彼には珍しく馬車という物に乗っての移動であった。


 ふぅ、本当にまったく可愛らしいお嬢さんだな。


「グレフ殿があそこまで固執なさるわけだ」


 ガタガタと揺れる馬車は不快な乗り物だったが、レイドゥース嬢を思い出すとクスクスと笑いが洩れてくる。


「どうしました?キギリアさま、お楽しそうでございますね」


 御者台に座っている男がキギリアに声をかけてきた、言葉遣いは丁寧だが、どこか面白がっているようなところがある。つまりは、不遜なのだ。


「いやね、ハットン。君たちの主人の想いの君は可愛い人だと思ってね」


 キギリアは男の言動というか雰囲気を気にした風もない。


「そうなんですか?……ワタシ、まだお会いしたことないんですよね。つねづね、御目に掛かりたいとは思ってるんですけど……あの方は滅多にお屋敷をお出になられませんからね」


「グレフ殿が惚れるほどの女性なのか?その人となりを確かめたいのだろう?」


「そ、そんな不遜なこと考えちゃあいませんよ!」


 焦ったように、弁解する男の声は知らずに大きな物になっている。


 キギリアは男の過剰とも言える反応に再び、微笑んだ。


「まぁ、主の最も大事な存在なのだからね、下のものが心配するのもわかるよ」


 妙な小石を拾ってしまわれて、主が悪いほうに変えられてしまうのはたまらないだろうから、だって、彼らは今のグレフだからにこそ付き従おうと心に決めたのだから。


「心配しなくても、グレフ殿は変わらないお人だよ。…そしてレイドゥース嬢もな」


「主人についてならワタシ達はなんの心配もしておりませんよ。誓ってです」


「ワタシもだよ」


「………本当に?」


「ああ、ワタシは彼の下につくとワタシの神に誓ったからね。偉大なるアデューにそむく気はないよ」









 思い出せば、今でも笑いが洩れてくる。あれはとても面白くて、可愛い提案だった。


 昔、グレフと出合った頃の戯言。今ほどにグレフが強くなかったときのことだ。


「キギリア卿、貴方とワタシのどちらが、レイドゥース嬢に相応しいか、賭けをしてみませんか?」


 勝敗の分け方と、得られる物はなに?


「勝敗はどちらかが納得したときに決めましょう。負けたと意識したとき、それが賭けの終わりです。


 そして、賞品は負けたほうが勝ったほうの下に就くというのはどうでしょう」


 薄っすらと微笑みながら提案するグレフに当時のキギリアは笑いながら勝負を受けた。


 十六歳で伸し上がってきていた平民の商人がワタシに取り入るために言った、ただのお上手。


 あの時は本気で思ったんだよ。………今となっては、お笑いだがね。


 グレフの鮮やかな経営手腕そして、あの男としての覚悟。まったく完敗だった。これが本当に自分の半分しか生きていない少年なのかと当時は目を疑ったものだ。









「だが、知っていますか?グレフ殿。……いい部下を得るよりも、いい主人を探すほうがずっと難しいんですよ」


 その意味で、ワタシはあのときの賭けがどちらに転ぼうとも損はしないんですよ。やはり、あの賭けの本当の勝者はワタシかもしれませんね。


 まぁ、どちらにしてもレイドゥース嬢を貴方と取り合うほど無謀ではありませんがね。













「あの時といえば、あの時もだな。こんなに彼女に対して興味を持っていなかったのにね」


「あの時?」


「ああ、剣聖さまの孫娘との結婚話が持ち上がったときのことさ、レイドゥース嬢には失礼だがワタシは余り、この話に乗り気でなくてね。百歳くらいまでは気ままに独身生活を送ろうと思っていたんだよ」


「それが、またなんでこんな機嫌伺にお行きになったんですか?」


 不可解そうに、しかし油断なくキギリアの話を誘う男。


 男とキギリアの接点はタクミだけであった。もし、タクミが居なければ自分達は一生住む世界の違う人間だっただろう。


 しかし、だからといってキギリアは男達から仲間だと思われているわけでもなかった。


 現に、キギリアはこの御者をしている、ハットンという名の男に監視されているのだから、これはグレフの意思ではないだろうが。自分はそれくらいには彼に信頼されているはず、この恐らくは最下級階級出身の男とその仲間達の意思だろう。


 それは、それでいいと思う。


 主人のために自分から動くのは、良い家臣の証拠だ。


 ……だからこそ、自分もレイドゥース嬢を尋ねたのだから。




 グレフ殿、あの華は摘み取る前に、育てなければいけませんよ。


 今日はあの可愛いお嬢さんの心に小石をひとつ投げ込んでおきました。


 あとは、貴方とお嬢さん次第。


 できるなら二人が手を取るところを見てみたいものだ。


 そのためには、この後の大仕事を確りとこなさなければいけないが…。






「ハットン」


「なんでしょう?キギリアさま」


「ワタシはグレフ殿が生きている間は、リシトの民を迫害しないことを誓っておこう」


 キギリアが、笑いを引っ込めたまじめな言葉でハットンに告げた。


 その時、ハットンから殺気に似たものが漂いだしたが、キギリアは揺るぎもせずにハットンの返答を待った。


「……害虫を見逃してくれると?」


 震えているような声でハットンが呟く。それが怒りからくるのか、悲しみからくるのかはキギリアの境遇からは解らなかった。


「ふふ、まぁグレフ殿のことだ。おまえ達の神をキッチリと殺してくれるだろうさ。おまえ達、崩れた人間がワタシの邪魔になるまえにね」
















「あら………猫?」


 お気に入りの陽のあたるテラス、そこに先客を見つけてレイドゥースは目を瞬かせた。


 いつも、お茶を飲むのに使っている丸テーブルの上に燃えるような毛並みの美しい獣が丸まっている。


「わっ…………………………眠ってるの?」


 小さく呼びかけると、丸まった毛玉の中からピンっと耳が二本突き立ったが、息を殺しているとすぐにまた、フニャリと垂れていった。


「ふふ」


 ソロリソロリと近づいていき、音を立てないようにして高い椅子の背を預けた。


 時折、ピクッ……ピクッと身体を痙攣させているが、尻尾が揺れるたびに覗く小さな顔は幸せそうにお昼の気持ちのよい睡眠をむさぼっている。


「気持ちよさそう」


 名前も知らない猫だったが、愛くるしいその姿に頬が緩む。


 ワタシとタクミのお気に入りの場所で眠るのも許してあげるわ。


 冷たい木目の美しいテーブルにピッタリと寝そべるとレイドゥースの目の前に、猫の鼻先が突き出されていた。


 時折、小さな舌を出して鼻の頭をペロペロと舐め上げている。


 そして、思い出したように鼻をヒクヒクさせて周囲の臭いを嗅ぐのだ。


 眠ったまま、レイドゥースの臭いを嗅ぎ当てて、鼻の頭でグイグイと進み出てくる。


 手足はまったく、動かさずに顔が身体を引きずるようにレイドゥースの目の前まで移動してくる様は、なんとも言えず笑いが洩れた。


「君、……可愛いね」


 寝そべったまま、指の腹で猫の額を撫で下ろしてやった。


 何かを探すように、上を向く猫。それを交わすよにして今度は咽元を掻いてやる。


「っふふ。まだ、目を覚まさないんだ」


 小さな猫は、レイドゥースに対してとても無防備だった。


 まるで、よく親しんだ飼い主にあやされているように。


「映える緋だね。…ワタシもその色好きよ」


 撫でられることをチットも嫌がらない猫に、少しずつ大胆に毛並みを手串で撫で付けてやる。


「ズイブン前にね、プレゼントしたことあるんだよ。君に良く似た真っ赤な帽子。…再生の象徴、フェニックスにあやかってね」


 ユックリと撫でていると、いつの間にか猫が目を覚まして此方をじっと見つめていた。


 まるで、レイドゥースの独白を受け止めているように…






 ワタシが言ってることが解るの?






「ナァオ~」


 視線で問い掛けると、猫が優しく鳴いてくれた。そのとき、スッと目が細まったが、レイドゥースの見まちがいでなければ、それは猫が笑ったのだ。


「返事してくれるんだ」


 優しい猫に、少し癒された気がする。


「ワタシが、プレゼントした相手はね。……ワタシの弟。とっても、重い怪我をしててね早く怪我が治りますようにって思ってあげたの。


 あの子の怪我はすごいスピードで治っていったわ。それこそ神さまの奇跡だと思ったくらい。ワタシ、ほんとに家族みたいにあの子を愛してたの。ほんとに……ほんとよ。だから、だからね……………………。」


 なんとなく話が詰まったとき、猫が起き上がって机に伏せてしまった顔を優しく舐めてくれた。


「それから……?」と、優しく聞いてくれた気がした。


「あの子は、凄く素敵な男性になってて、ワタシは自分で信じられなかったわ。だって、タクミは今まで弟だったから」






 貴女が心のそこから欲しいと思った相手の手を取りなさい。


 不意に、自分の婚約者だという男の言葉がレイドゥースの耳に蘇ってきた。






「ワタシはタクミが好きよ。でも、ワタシはワタシがタクミをどう好きなのか、自分でもわからないの」






 婚約者とか、そうじゃないとか関係はないのですよ。貴女が心のそこから求める相手を。


 関係なく……ワタシが求める相手を。


 タクミ。




「それに、それにね。ワタシはタクミにとって、ただの…………ただの姉さんなのかもしれないの」


 独り善がりで舞い上がっているような気がして成らない。


 ワタシは、あの子をどう思って、あの子はどうワタシを見てくれているのだろう?


 結婚を意識したからだろうか?ワタシは男を見ずに生きすぎてたみたいだ。


 最後は言葉にならない嗚咽のような言葉、切なさで擦れる声とにじみ出る涙にレイドゥースは浸っていた。


「タクミ。会いたいよ、顔を見たい、声を聴きたい、………触れたいよ」


 名前も知らない優しい猫が慰めるようにレイドゥースの頬に頬を擦り付けてくれていた。








 だいじょうぶですよ。貴女の男は最初から選んでいるんですから。


 ユックリ行けば良いじゃないですか?


 ワタシ達の長い命の中でも、こんなにドキドキできて、切なくて、持て余すほどに欲しくなる、こんなダイヤのように希少な感情をもてることなんてそんなにありませんよ。


 もっと、楽しみましょうよ。


 あの男の言うことなどで、慌てることなんてありません。


 だって結果は見えてるんですよ。


 あとはワタシの主人がプライドを、貴女という華を飾るためのプライドの問題なんですから。


 だれが、貴女にもっとも相応しいのか。貴女の隣に立てるのは自分だけだと………主人が示したいのは、その1点なんです。


 貴女が侮られないように、貴女という華を主人が汚してしまわないように。




 静に涙を流すレイドゥース、彼女の涙を拭う役目は、本来ワタシのものじゃない。でも、タクミ、ワタシ今だけ貴方の代わりになりますよ。


 ココにいない、貴方の代わりこの純粋な人を慰めますね。


 透明な水が零れる白磁の肌をティコの小さな舌がユックリと舐め上げていた。




 ワタシ、主人に言ったんですよ。貴女は何も求めていないって、その身一つで十分ではないですかって。


 そしたらね。……貴女と同じこと言うんですよ。


 肝心なところで臆病なんですよね。貴女と一緒です、だからワタシ思うんですよ。




 お二人はとてもお似合いだって、ね。











「……な、泣いていらっしゃるではないか?!!……お嬢さまぁ」


「う~ん。これは恋愛ステップアップのチャンス!?」


「違うだろう!これはレイン様の……レイン様の……レイン様の~」


 お客様がお見えになって以来、なぜか落ち込み気味のレイドゥースお嬢さま。


 こっそりと、レイドゥースを見守っていたのはレイドゥースの子供の頃からの従僕でもあるシドとなんとなくついてきたルクスである。


 レイドゥースが恋愛に悩むという、アンスカレット家はじまって以来の大事件にすでにシドはハングアップ寸前おろおろするばかりで何も出来ないでいる、ハッキリ言って他人事なルクスにとっては面白いことこの上なかったけれども。


「ボスもね~。態度で現すだけじゃなくて言葉でいわないとさ」


 思ってるだけで伝わるなんてことは、絶対無いんだから。


 これはシビアな恋愛なのよ~。


 お得意の魔法じゃないんだからさ。


「まぁ、あれだけ大事にされてて気づかないのもお嬢さんくらいだろうけどさ。っていうか、お嬢さんらしいかも?あははは」


「………笑い事ではナーーーーーーーーーイ!!」




 ズバーンっ!!




 再び襲来、イキナリシドさんチョーープッ


 しかし、ルクス。飛び込み前転受身で必殺の手刀を辛くも回避に成功。


 ふふ、甘いよシドさん、同じパターンは喰わない男だよ、オレは。フフンと鼻を鳴らしてポーズを決めたルクス。お嬢さんが居るテラスからもろ見えなところまで飛び出してしまったが、それこそ猫のような身のこなしでまったく物音は立ててない。


 この場の雰囲気を壊すこともなく、おろおろしているシドさんの追撃も受けないナイスな逃げ場だ。


 と、思っていたら……お嬢さんの傍で鳴いていたティコの緑色の瞳が怪しく瞬き、次の瞬間、見えない力に思いっきり吹っ飛ばされてしまった。


「のぉぉぉぉぉぉぉっぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 エンドレスな叫び(自主規制により思いのほか小声…………オレって紳士だろ?)を廊下に残しつつルクスは見えなくなっていった。




「ナ~」(まったく……溜息。)


「んん……。なぁに?」


「ナァンナモナ~、ナンナナーナ」(なんでもないです。気にしないでぇ)


 まったく自然に、主人の思い人の気を散らすことなく、無粋者を排除するとっても気の利いた獣、ティコ、この子が二歳だと何人の人が気づくだろうか?


 いや、だれも気づくまい。









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