ドジな手
この日。
家庭菜園で採れたイモで焼きイモを作ろうと、庭の隅に吹き溜まった落ち葉をかき集め、それを焚火にして、イモを五個ほど放り込んだ。
イモが焼けるまでの間。
私はいったん火のそばを離れ、庭の掃除に取りかかったのだが、しばらくして焚火がはぜるような音を立てるのを聞いた。
――えっ?
何事かと焚火に目をやると、焚火の脇の地面から人の手が出ていた。それも肘から先で、しかも片方だけである。
その手は木の枝を掴んでいた。そしてその枝で、焚火をしきりにつついている。
――何をしてるんだろう?
私は気になって近づいてみた。
そんな私に気づかないようで、その手は枝の先でもって必死に焚火の中を探っている。
と、そのとき。
イモが一つ、焚火の中から転がり出た。
手は枝をポイと捨て、それから素早く焼きイモに飛びついた。
――焼きイモが欲しかったんだな。
私はすぐに納得した。
だが次の瞬間。
手は焼きイモから飛び離れ、今度は消火用にと置いていたバケツの水の中に飛び込んだ。
たぶん焼きイモが熱かったのだろう。
何ともドジな手である。
手がバケツから出てきた。
びしょ濡れである。
その手は私を前にして、私に申し訳ないことをしたと思ったのか、あるいは焼きイモを盗もうとしたことを恥じたのか、はたまた照れ隠しなのか……。
手は先ほど捨てた枝を再び掴むと、それでもって焼きイモをつついて、私の方に転がした。
これはあんたのだ。
だからあんたが食え。
その手のしぐさはまるで、そんなことを言っているかのようだった。
「ありがとな」
私が手に向かって手を振って見せると、その手も手を小さく振って返し、それからすぐに地面の下にもぐって消えた。
そのあと。
私は焚火の中から焼けたイモをすべて取り出すと、焚火に水をかけ、焼きイモ作りを終わらせた。
そして最後。
あのドジで残念な手のために、焼きイモを一つその場に残して庭をあとにした。