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時は流れて今現在

 今日も私は、喫茶まほろばで不思議なひと時を過ごす。

店の中では様々な妖怪たちが思い思いに話をしながら、お気に入りの飲み物や軽食を楽しんでいる。

私の隣で項垂れる、この人(妖怪?)を除いて。


「ぽぽー・・・ぽぽっ、ぽぉ・・・」

「あんた、また合コン失敗したの?

もう人間の男は諦めなさいよ。あんたには無理なんだから。

そもそも、合コンに来るような年の男、あんたの守備範囲外でしょうが」

「ぽぽぽ!ぽっ!ぽぽぉーっ!」

「いつか運命の人がって・・・あんたねぇ、いつまでそんな夢見てんのよ・・・」

「(何言ってるのかさっぱり分からない・・・妖怪同士にしか分からないのかな?なんとなく、落ち込んでるのと抗議してるっぽいのは分かったけど・・・)」


 私の隣には、白いワンピースを着たとても背の高い女の人が座っていて、その隣には対照的に真っ赤なコートを着て顔の半分が隠れるほど大きなマスクをした女の人が座っている。

白いワンピースの女の人は八尺様で、真っ赤なコートの人が口裂け女さんだ。

 口裂け女さんとはこの喫茶店に通うようになってすぐ知り合い、それ以来悩み事を聞いてもらったり相談に乗ってもらったりしている。山姥のおばあちゃんに次いで私が密かにお姉さんみたいだと思って慕っている妖怪で、今日は口裂け女さんとお茶をする約束をしていた。

そして待ち合わせ時間丁度、口裂け女さんが八尺様と一緒にお店にやってきてからずっと、八尺様は落ち込んだ様子で項垂れたり口裂け女さんに抗議したりを繰り返している。

内容は恋愛ごとのようで、初恋もまだな私は話についていけず、早々に聞き役に徹してマスターの淹れてくれたココアを飲んでいた。

マスターのココアは世界で一番美味しいと思う。


「あんたは根っからのショタコンのくせに彼氏欲しさに合コンなんてして・・・。

毎回散々な結果に終わって、その度に付き合わされるこっちの身にもなりなさいよね!」

「ぽぽー、ぽぽぽ、ぽぽぽぽー」

「そう言いながらも付き合ってくれるじゃんって・・・そりゃあまあ、友達なんだから話くらい聞いてあげるわよ。

でも、いい加減うんざりするって言ってんの!」


 確かに、口裂け女さんって口調はキツかったりするけど、ちゃんと話を聞いてくれてアドバイスをくれたりするからすごく話易いし、優しいからついつい甘えちゃうんだよなぁと自分自身の事を振り返り、甘えすぎないように気を付けなければと一人心に誓っている横で、八尺様はいまだに何かを言っているようだった。


「ぽぽぽ!ぽ、ぽぽ、ぽぽぽ?」

「次の合コンは一緒にって・・・本当に懲りないわねぇ。

流石に行かないわよ。私、彼氏いるし」

「えっ?!」「ぽぽっ?!」

「なによその反応!あんたたち失礼ね!」


 思わず驚いて声を上げると、八尺様も驚いたみたいで、私たちはお互いに顔を見合わせてから口裂け女さんを見た。

そんな私たちに口裂け女さんはムッとして、マスクをずらして少し冷めてしまったブラックコーヒーを一気に飲み干してから、マスターにお代わりを要求している。


「あ、あの・・・口裂け女さん・・・彼氏って・・・」

「何?お嬢も恋バナに興味あったの?」

「そう言う訳じゃないんですけど・・・口裂け女さんの彼氏って、どんな人?妖怪?なんだろうって・・・」

「ぽぽ、ぽぉ・・・」

「どんなって・・・普通の男よ。人間のね。

ちょっと情けないけど、純粋で、優しくて、私が口裂け女だって知ってもそれごと全部好きだ、なんて言う物好きなね!」


 大きく裂けた口元はにんまりと弧を描いていたけど、とても嬉しそうな目元はとても優しい色をしていて、今ここには居ない彼氏さんを見ているようだった。

 初恋すらまだ未経験な私には想像出来ないけど、恋をしている口裂け女さんは女の私から見ても可愛らしくて、少し羨ましくて、いつか私も口裂け女さんのように誰かを想える日がくるのだろうかと考える。

けどそれ以上に、一体どうやって出会ったんだろうという疑問がわいた。

それは、八尺様も同じようだったらしい。


「ぽぽ!ぽぽぽ!ぽーっ!!」

「どこで知り合ったって、マッチングアプリよ」

「マッチング、アプリ・・・?」

「ぽぽぽ・・・?」


 妖怪が、マッチングアプリ?

マッチングアプリって、あの?


「私がマッチングアプリ使ってちゃおかしい?」

「そう言う訳じゃなくて・・・その、妖怪がマッチングアプリを使ってるっていうのがちょっとピンと来なくて・・・」

「あのねぇ、今時妖怪だってマッチングアプリの一つや二つ、使えなきゃやっていけないのよ!」


 力説する口裂け女さんの言い分に、やっぱり今一つ理解が追い付かず首を傾げてしまう。

八尺様は口裂け女さんに同意するように私の方を向いて何度も頷いていた。


「まぁ、私たちみたいな存在の事を知らない側からすると、分からないのも仕方ないわね。

あのね、私たち妖怪やものの怪はねアンタたちが思ってるよりも不安定な存在なのよ」

「不安定・・・?」

「そうですね。お嬢さんはこの店でたくさんの妖怪たちと知り合いになったと思いますが、これでも以前に比べればその数はかなり減っているんですよ」


 私の疑問を口裂け女さんから引き継いだのは、カウンターの片付けを終えたらしいマスターさんで、一度店内を見渡してから穏やかな口調で話し始めた。


「お嬢さんはそもそも妖怪やものの怪たちがどうやって生まれてくるのかご存知ですか?」

「いいえ・・・自然に生まれた、というか元から居たんじゃないんですか?」

「自然に生まれる、と言うよりは自然から生まれるものも勿論います。

ですが、一番多いのは人間から生まれたモノたちなんです。」


 人間から生まれる?

人間が妖怪を生む、と言うことがあるんだろうか?

私のそんな考えが顔に出ていたのか、口裂け女さんは呆れた顔をして、八尺様は声を上げて(多分笑ってる?)マスターさんは苦笑いを浮かべていて、自分の考えが的外れだったのが分かって、私は恥ずかしくて両手で顔を覆って俯いた。

今、私の事は見ないで欲しい。


「人間から生まれると言うのは言葉通りの意味ではなくて、人間の想像や感情から生まれると言う意味なんですよ。

とりわけ、人間の恐怖心から生まれる事が殆どなんです。」

「私や八尺なんてその典型ね」

「八尺様も?八尺様は神様なんじゃ?」

「ぽ!ぽぽぽー」

「ふふっ八尺さん、神様だと思われていたのが嬉しいんですね。

彼女も元はインターネットで広まった話が元なんですよ。

それも、ある意味では都市伝説と言えるでしょう。」

「つまり、私たちは人間の恐怖が話として多くの人間に伝わって、それが実体を持ったモノなの。」

「正確に言えば、恐怖と認知ですね。

人々が恐怖し、その存在を認知すればするほど実体を持ち力を得ますが、それ故にとても不安定なんですよ。」

「ちょっと難しいですね・・・」

「つまりね、私たちは人間が恐いと思ってその存在を信じれば、本当にそういう妖怪やものの怪になるって事よ。」

「じゃあ不安定っていうのはどういう意味なんですか?」

「人間が信じることによって生まれる、と言うことは、人間が信じなくなれば、妖怪はその姿を保てなくなる、と言う事なんです。」

「消えてしまうってことですか?」

「ぽぽぽ、ぽぽ」

「そうね、消える、とは違うわね」

「一度生まれた妖怪やものの怪は、人間がその存在の話し続ける限り消えてしまう事はありません。

ですが、信じられなくなれば姿が見えなくなるんですよ。」

「姿が、見えなくなる・・・」

「人間からはね。

私たちにはちゃんと見えてるけど。」


 そう言った口裂け女さんは、私の背後に目をやった。

私も後ろを振り返ってみたけど、そこにはいつもの喫茶店の光景が広がっているだけで、でもなぜか口裂け女さんも八尺様もマスターさんも、とても優しい顔をしていたから、きっと私には見えていないだけでそこには誰かが居たんだろう。

そう思う事にして、私は再び三人(?)へと向き直った。


「じゃあ妖怪やものの怪は、私たちに姿が見えなくはなるけど、消えることはないって事ですか?」

「いいえ、消えることもあります。

姿が見えなくなる、と言うことは、それだけ力を失ったという事です。

人間から恐れられず、その存在を信じられなくなり、妖怪やものの怪に纏わる話しすらされなくなった時。つまりは人間の記憶や記録からその存在が失われてしまった時、妖怪たちは消えてしまうんですよ。」

「ある意味では、人間と同じね。

人間は二度死ぬ、なんて言葉があるでしょう?

一度目はその命が尽きた時。

二度目はその人間を憶えている者が居なくなった時。

それと同じ事よ。」

「人間と、同じ・・・」

「まぁ、それは人間や妖怪に限った話じゃなくて、この世のありとあらゆるモノに言えることだわ。

・・・大分話がそれちゃったわね」

「あ、そうですね・・・」

そもそも、妖怪がマッチングアプリを使っているという話だったのに、なんだかとても深い話しになってしまった。

でも、口裂け女さんたちの話は、つまりは今の話とマッチングアプリを使っている事には関係があると言う事なのかなと素直に聞けば、口裂け女さんと八尺様は大きく頷いた。

「人間が妖怪やものの怪を信じなくなるのは、まぁ仕方がないわね。

昔は説明がつかなくて妖怪たちのせいってされていた事も、今じゃ科学なんかで説明がつくようになったんだから。」

「ぽぽぽ、ぽー」

「えぇ、だからと言って、何もせずに消えていくなんて嫌ですからね。」

「そういう事!自分たちが消えない為には、人間たちに私たちの事を憶えていてもらう必要がある。

だから、私たちは少しでも多くの人間たちに憶えていてもらうために、時代に合わせて生きているの。

マッチングアプリもその一環。」

「なんとなく理由は分かったんですけど、人が噂したりとかじゃダメなんですか?口裂け女さんは元々子供たちの間で広まった話が元になってるんですよね?」

「昔はそれで良かったんだけどねぇ・・・。

今普通に口裂け女が出た!なんて話してもだーれも信じないのよ。

時代は何といってもSNS!画像付きで口裂け女と会った!とか投稿したら一発で沢山の人間に広まるでしょ?

合コン行ったら口裂け女がいた、とかマッチングアプリでマッチングした相手が口裂け女だったとか、SNSで投稿されればそれだけで上手くいけば数万人に私の存在を認知させることが出来る、から使ってたんだけど・・・人間の彼氏が出来るのは予想外だったわ。」

「なんだか、すごく時代の流れに乗ってるというか・・・とても満喫されてますね?」

「当然でしょ!生きてる以上は楽しまなきゃ!」


 そう言って笑う口裂け女さんはとてもイキイキしていて、私にはとても眩しく見えた。

そして、それがとても羨ましいと思う。

私は、こんな風に自由に生きることを全力で楽しめてはいないような気がするから。

私も、彼女のように生きることを全力で楽しめる日が来るのだろうか。

つらつらとそんな事を考えていると、ぽん、と大きな手が頭に乗せられて、ゆっくりと髪を梳く様に撫でられる。

視線を上げると、八尺様が優しい顔で私を見つめていた。


「焦らなくていいんですよ。

お嬢さんはまだまだ若い。この先もっとたくさんの事を経験できる。

大変な事も多いでしょうけど、楽しいと思える事も、きっとたくさんあるはずです。」


 マスターさんの言葉に、小さく頷く。

確かに、大変な事は多い。でも、このお店と出会い、色んな妖怪たちと出会って、私は前よりも笑うことが増えた。

今はきっと、それだけで十分だ。


「もし恋がしたいなら、私が良い男紹介してあげるわよ?」

「ぽぽ!ぽぽぽ!」

「アンタは無理」

「ぽぽーっ!!」


 二人(?)のやりとりに、思わず笑ってしまう。

これまでは人と話をする事も、こうして笑う事もほとんどなかった事を思えば、私は自分が思っているよりも今を楽しんでいるんだと気づいた。


「あ、もうこんな時間・・・私、そろそろ帰りますね。」

「時間経つの早いわねぇ。

今日は二人の予定だったのにごめんなさいね。

またゆっくりお茶しましょ!」

「ぽぽぽー」

「じゃあお会計しますね」


 マスターさんたちに別れを告げ、鼻歌を歌いながら帰路につく私を、お店にいた妖怪たちが優しく、けれど少し寂しそうに見送っていたのを、私は知らない。






とある妖怪たちの密談


「あの子、本当に何も知らないのね」

「えぇ・・・彼女も、お嬢さんにどう伝えるべきなのかまだ悩んでいるようでして・・・」

「そりゃそうよね・・・。

まぁ、なるようになる、と思いたいわ。」

「我々に出来る事は、見守ること、ですからね。」

「そう?私はあの子たちに頼まれればいつだって協力するわよ」

「それは、ここに居る全員がそのつもりですよ。

けれど、もうあまり長くは・・・」

「それこそ信じましょう。あの子たちを。」

「・・・そうですね」















今回の妖怪


口裂け女

喫茶まほろばの常連。

現代に馴染み過ぎた昭和を代表する都市伝説。

最近はSNSでの目撃談多数。

この度人間の彼氏が出来ました。

口調はキツイけど面倒見が良い皆のお姉さん。

お嬢の事で何やら知っているらしい。



八尺様

喫茶まほろばの常連。

インターネットの怖い話から生まれた存在。

当初はショタのみを狙っていたが、最近は彼氏欲しさに合コンに参加してはあまりの大きさに毎回相手にされず惨敗中。

好みの年齢の男の子に近づくと通報されてしまうので、成人男性を狙ってみるけどやっぱりショタがいい。

いずれ素敵な出会いがあることを皆祈ってる。



マスター

妖怪・・・?

人面犬のケンさんとは昔馴染みで弟分。 

お嬢さんの事を何やら知っているらしい。



次回 第五話 我ら妖怪送りの会!


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