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終着点の其の先は

 何処どこを見ても、何時いつまでも、真っ暗な世界を延々と歩いていた。自分が何処に向かっているのか、進んだ先に何かあるのか、終着点ゴールは存在するのか、何も分からなかった。

 そんな時、真っ白で温かい光を見つけた。ずっとずっと先の先、いくら歩いても辿り着けそうに無い場所に、其れはあった。

 光に向かって歩き続け、真っ白な世界で優雅に紅茶をすする彼女に出合った。

 彼女は私に、「一緒にお茶を飲まない?」と言って微笑んだ。今でも鮮明に思い出せる其の笑顔は、頭から離れる事を知らないのか、忘れた事など一時も無かった。

 ヴィータ様と出会ってからは、何時もお茶をしながら話してばかりだった。ひとり寂しく暗闇の中を歩くことも無く、暖かい場所で過ごせる事が大きな幸せだった。

 けれど、ある日目を覚ますと、其処そこには見たことのない景色が広がっていた。僕は、目の前の見知らぬ街並みに、初めて見る顔立ちの人間たちに困惑していた。

 別に冷静な訳ではないが、自分の置かれている状況を理解するために、自分の現在地を知ろうとした。人にたずねようとしては無視され、走って、走って、海や山を探した。小高い丘でもよかった。にもかくにも国の名が記された何かを見つけたかった。

 たまに、ヴィータ様が好んで飲んでいた紅茶と同じ薔薇バラの甘い香りがして追いかけてみたこともあった。追い付けず、見つけられず、あきらめて座り込んだ。

 もしかしたら、開いている店の人にでも聞けばよかったのかもしれない。けれど、其処(まで)気が回らなかったのは、僕が焦っていた証拠だろう。

 初めの頃は真っ白で肌寒かった街も、何時の間にか雲がオレンジ色に染まり、肌寒い何てもんじゃない位に寒くなっていた。吐息といきは白く、手も足も指先がかじかんで感覚がなくなっていた。そんな事にも気付かぬ程、僕は必死になっていたのだろうか。

 気付いてしまえば其れはただの苦痛だ。咄嗟とっさに裏道に座り込む。

 周りが少しざわついて聞こえ、ふと顔を上げると、16歳前後くらいの背格好をした孤児こじが数人居た。彼らは僕に

「もう日が暮れる。何処か行きたい場所でもあるんだったら、日が上がってから行きな。もう、僕らみたいなのが出歩ける時間じゃない。死にたくなかったら一緒に寝よう。」

そう言って、一緒の毛布にくるまり、温めあって寝た。

 朝方、眠い目をこすりながら向かった先は『教会』という場所だった。

 なんでも、その教会では家の無い貧民に朝と夜の食事を与えているのだとか。お金の無い僕らにとっては有難い場所ってことだ。

 教会の人間は、えらく綺麗に手入れをされた真っ白のころもに身を包み、優しいが一寸ちょっと裏のありそうな笑顔でパンとスープを配っていた。

 彼らは6人の神をまつっているとの事で、聞いてみたところ、やはりヴィータ様の事も祀っていた。ヴィータ様は生命の女神で、大陸に人間が現れる以前、所謂いわゆる神話時代から存在する神々、その2番目に君臨くんりんしているとされる...らしい。輪廻りんねの輪を通る人間は、ヴィータ様に愛された、又は哀しまれた者なのだそう。

 そんな話を聞いて、僕はあの暗闇でヴィータ様が話していた内容が、決して嘘でも冗談でもない、本当の話なのだと理解した。

 ヴィータ様はあの場所で僕に、

「可愛いお嬢さん、貴女...何か覚えている事はあるかしら」と問いかけてきた事があった。

「特に何も」そう答えた時、彼女の顔はとても悲しそうな顔をしていた。

僕にはその理由が分からず、少し焦って慰めようとした記憶がある。

「貴方は其の小さな体には大きすぎる使命を背負い、耐えきれず全てを投げうってしまった。でも、貴女を大切にしてくれていた人たちの事まで無くしてしまうのは、私としてはとっても悲しいわ。」

 泣いてしまいそうな顔をしながらも優しく微笑む彼女は、まるで愛しの娘との別れを悲しむ母の様だった。

「ですがわたくしには、其の様な記憶は御座いません。」

「だから、私は貴女を此処ここに呼んだのよ。無くしてしまった記憶を、自分を、取り戻してらっしゃい。そしたらまた、ここでお茶をしましょう。」

 涙がポロポロと零れ落ちる中でも、彼女は微笑み、小さく手を振っていた。

 そこから、僕の記憶は途絶え、いつの間にか此の街にいた。

 教会の人の話が本当なのならば、僕は神に反抗し、あまつさほどこしを拒否しようとした。本来なら死んでも詫びることのできない大罪だ。話を聞きながら、冬であるはずなのに冷や汗が止まらなかった。

 全てを無くし、何も残っていないはずの記憶に、5人の知らない人物が残っている。恐らくヴィータ様の施しだろう。

 彼女は僕に「記憶を取り戻せ」と言った。ならば、しない訳にはいかない。だが、記憶の中の彼らは皆、使用人がいて、服も家もとても一般市民だとは思えないものばかりだ。僕には、貴族の知り合い、もししくは友人がいたことになる。僕が貴族で無かったのなら、とんでもないな、記憶にない過去の僕。

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