嫁?
「だいじょーぶですかー!?」
アリッサ達は箒に乗りながら声をかけ、ゆっくり降りてくる。
「アリッサさんにフレッドさん!」
2人は降りてくると妖の2人に視線を向けた。
「真帆さん、この妖は?」
アリッサの視線は真帆を助けてくれた妖に向けられている。
「えっとね。落ちた私を助けてくれたんです」
「そうなんですね! ありがとうございます」
「いや、俺の嫁だしな」
「えぇ?!」
真帆は思わず声をあげる。
「え? 真帆さん、そうなんですか?」
「いいえ、初耳です!」
「父上から聞いていないのか?」
妖は不思議そうにしている。
「何も……名前も知らないですし」
「俺は、妖が住むレグルス国第1王子・ヒスイだ。そして、真帆の家の神社のある地域を守っている」
「神社を?」
「父上から聞いたことはないか? 昔、農作物が育たなくなった時に助けてもらったという話を」
「あります! それと関係が?」
「ああ。その時に娘が産まれたら嫁に差し出すことを約束したそうだ」
「え……? それって……生贄?」
「違う! まぁ、当時の約束した者は俺の先祖に当たるが、そのつもりだったかもしれない。俺は親の言うように契約結婚しか出来ない身だから、誰でも良かった。子供の頃はな」
「誰でも……」
「でも、真帆と会ううちに契約とか約束とかどうでも良くなって、子供の頃のことだが、真帆のことが大事になった。真帆に記憶はなくても、影から見守っていたんだ」
「ひどい……結局、私が決められることなんて、何もないじゃない……」
「真帆……」
「将来のことも結婚も、周りが決めて……私がこうしたい! って決めた人生じゃない。何で、何で勝手に決めるの? どう生きるかは自分で決めたいよ!」
真帆は思わずヒスイに掴みかかる。
「すまない」
ヒスイは苦しげに顔をゆがめている。
「真帆さん……」
「あの〜」
「何だ? トカ」
ヒスイは不機嫌そうに顔を向ける。
「そろそろ、逃げたほうが良いんじゃないかな……」
トカがヒスイに告げる。周りを見ると魔物が今にも飛びかかって来そうだ。魔物は狼に似た姿をしている。
「グルルル!」
「ああ、必要ない。真帆、目を閉じていてくれ」
真帆は素直に目を閉じる。
ヒスイは落ちついてそう言うと妖力を手のひらに集めて周りの魔物へ向けて放った。一瞬の出来事だった。
辺り一面に突風が吹き、魔物が妖力によって倒される。ギャッという声と共に魔物は倒れて行った。余りの強さにアリッサ達の出る幕がなかった。
「あの、ヒスイさん。助けてくれたことはありがとうございます。でも、結婚は待ってくだい。ちゃんと、自分で決めたいんです」
「いや、こちらこそすまない。分かった。心が決まるまで待とう」
「ありがとうございます」
「ただ……気持ちが本気なことは分かってほしい」
「分かりました」