街へ
翌朝、真帆はアリッサの服を借りて、2人で街へ出かけた。商店街へ向った2人はお店をのぞいていく。商店街は衣類、食品、魔法の杖の店や魔法薬のお店などがある。
食品のお店でアリッサの顔なじみの年配の女性が声をかけてきた。
「アリッサ!」
「おばさん!」
「ちょっとこっち来な」
ふくよかな体型のライトブラウンの髪の年配の女性はアリッサを道路のすみへ連れて行く。
「あの子だろ? 人間の娘」
「え? なんのこと?」
「とぼけたって無駄だよ。噂は広まってるよ」
「噂?」
「アリッサの家に人間の娘がいるって……なんだってかくまったりしたんだい?」
「えっと……」
「まぁ、あんたの家とフレッドの家は家族そろって人間好きだからね……悪いことは言わないよ。関わるの止めときな」
真帆から話はあまり聞こえないものの、様子からしてよく思われていないのが伝わる。
――陰口叩かれるのって嫌……。
周りをうかがうとヒソヒソ話している人が時々真帆を見ている。
――悪いことしてるわけじゃないのに。人間ってだけでどうして? 伝説のせいなの?
「この街はずっと平和だったのに、まさか本当に伝説の人間が現れるなんて……どんな災が起きるんだ?」
心無い声が真帆の耳に届く。
真帆は唇をギュッと噛みしめた。
「ちょっと、ちょっと〜。よってたかって可愛い女の子をいじめるなんて、魔法使いの風上にもおけないよ〜」
突然、真帆の前に狐の耳を付けた男性が現れる。真帆に背を向け周囲から庇うように立っている。彼は優しい笑顔で振り返りながら真帆を見つめる。
「妖?」
今度は真帆ではなく、妖が現れたことに矛先が向けられる。
彼はひょろりとした細身に抹茶色の着物を着て、こげ茶色の柔かそうな短髪に細い目が特徴の男性だ。
「大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ま、あいつに頼まれたら断れないし。それに君、可愛いしね〜」
彼は真帆に、ウインクをした。
「真帆さん!」
アリッサが真帆に駆け寄ってくる。
「あ! 妖! 真帆さんに何か用ですか?」
「え?」
「え? ナンパじゃないんですか?」
「あ〜、違う違う。周りがうるさいから助けたんだよ」
「そうです。アリッサさん。助けてもらったんですよ」
「なぁんだ……良かった。ごめんなさい! 勘違いして」
「あ〜良いよ良いよ。オレみたいなイケメンがいたら勘違いするよね〜」
「真帆さん、何ですか? この勘違い男……」
アリッサは引きつり笑いをしている。
「ちょっと! アリッサさん……」
「良いよ。よく言われるし」
反応に困った真帆とアリッサは曖昧な笑いを浮かべる。
「多分、オレが姿を見せたからしばらくは大丈夫だと思うけど。じゃ、またね〜」
彼は真帆たちの前から一瞬で姿を消した。
「ごめんなさい。真帆さん」
「アリッサさん?」
「せっかく街を案内しようと思ったのに……」
「大丈夫ですよ。私にはアリッサさんや味方してくれる人がいますから。でも、商店街からは離れたほうが良いですね」
「はい。パパの魔法薬のお店も近くなんですけど……しょうがないですね」
アリッサはしょんぼりとした顔をしている。
「歩きましょうか?」
「真帆さん?」
「街を見られなくても大丈夫ですから。別の場所へ行きましょう?」
「あの」
その時声を突然かけてきた女性の魔法使いがいた。