真帆の力
夕飯が出来るまでゆっくりしてて?とアリッサの母親に言われ、リビングでぼんやりしているとアリッサが声をかけてきた。
「真帆さん、これ見てください!」
アリッサが見せてきたのは絵本だった。
「これは?」
「人間が出てくるおとぎ話です」
「人間が?」
「はい」
2人して絵本を開く。
『昔々、あるところに、人間の少女がいました。少女は地球に住んでいました……』
「このお話、昔から大好きだったんです! 人間の女の子がいつか現れて、色んなことがあっても、最後は皆が幸せになれる。ずっと人間に会いたい。会って色んな話がしたいって思ってたんです!」
アリッサはとても嬉しそうだ。
「私達の世界には魔法はありません」
「え? なんて不便!」
アリッサは目が飛び出しそうなほど見開いた。
「私にも魔法使えないですか?」
「う〜ん……それはどうだろ。真帆さん、魔力なさそうだから……ん?」
アリッサは真帆をじっと見つめていたが、何かに気づいたようだ。
「え? 魔力ではないけど、何か力がありますよね? 真帆さん!」
「えぇ? 力?」
「はい。魔力とは違うエネルギーを感じます。あ〜! でもあたしじゃ分からない!」
アリッサの眉間のしわがどんどん深くなる。
「そんな、力なんて……」
「ん〜……気のせいじゃないと思うけどな……。ママ視るの得意だから、ママに聞いてみますね」
✧ ✧ ✧
アリッサの母親の料理はどれも美味しく、異世界とはいえシチューなどがあり、西洋料理を思い起こさせる。食事を済ませるとアリッサが母親に話しかけた。
「ねぇ、ママ」
「なぁに?」
「真帆さんに何か力があるみたいなの。あたしじゃ分からなくて……視てもらえる?」
「良いわよ。真帆さん」
母親は真帆を呼んで手招きをする。
「はい」
「視ても良いかしら?」
「はい、お願いします」
母親が真帆を見据えて瞳を閉じる。真帆の手にそっと触れ、何かを感じているようだ。
「……」
「真帆さん、貴女……神力があるわね」
「神力?」
「ええ。まぁ、まだ目覚めてないようだけど」
「どんな力なんですか?」
「そうね。邪悪な力をはね返し滅する力よ。とても清らかなエネルギーね。貴女が心からそれを求めた時に目覚めるはずよ」
「家の家系は代々神に仕える仕事をしています。特に母は巫女といって除霊したりお祓いする力もあるみたいです」
「そう……きっと遺伝したのね」
アリッサの母親は納得したようにうなずいた。
「ねぇ、真帆さん」
「はい」
「真帆さんはこの世界に来たばかりで行く所がないでしょ? 真帆さんが良ければこの世界にいる間、家で過ごさない?」
アリッサの母親は優しいほほ笑みを浮かべている。