知っていた
アリッサの家ではアリッサが父に詰め寄っていた。
「パパ、何で、急にあんな話をしたの? 真帆さん可哀そう」
「アリッサ……」
アリッサの父は切なげな瞳になる。
「アリッサ、確かに真帆さんは気の毒だけど、パパは悪いことはしてないわ。一緒に暮らしたいって思いも」
「でも! ママは平気なの? ママ以外の人と子供がいたなんて!」
「知ってたわ」
「え?」
「全部、知ってて結婚したの」
「そうなの?」
「ええ。私と出会った頃にはもう彼女と別れた後だったのよ」
「何で、真帆さんを引き取らなかったの?」
「当時も人間は災いだと言われていたんだ。今よりもひどく人間は嫌われていた。だから、彼女に託した」
「そう。真帆さんはあたしのお姉ちゃんなんだね」
「そうね」
「あたしは真帆さんがお姉ちゃんで嬉しいけど、真帆さん大丈夫かなぁ?」
✧ ✧ ✧
ヒスイはベッドに座ったまま、真帆の頭を優しくなでている。ヒスイは立ち上がると真帆に温かい飲み物を入れてくる。
「真帆、温まるから」
「ありがとうございます」
「落ち着いたか?」
「はい。さっきよりは」
「良かった。ひとまず、今晩は休むとしよう」
「はい」
「真帆」
「はい?」
「俺はずっと傍にいる。種族は違うけど、真帆のことが好きなんだ。俺では駄目か?」
「いいえ。ありがとうございます。私もヒスイさんのことが……好きです」
真帆はヒスイに抱きすくめられた。
「本当か! 真帆、やっぱり後で嫌いとか言うなよ?」
逞しい腕に体が折れてしまいそうだ。
「ヒスイさん、苦しい……」
「あ、すまない。あまりに嬉しくて……」
ヒスイは腕の力を緩めた。
「言わないですよ。最初は何て勝手なことを言う人だと思いましたけど。でも、一緒に過ごすうちにヒスイさんの人柄が分かって……好きになったんです」
「真帆……」
「ヒスイさん……」
ヒスイと真帆はお互いだけを見つめている。周りなんて目に入らない。ゆっくりと顔が近づいて、互いに瞳を閉じた。柔らかな温もりをただ、感じていた。
✧ ✧ ✧
翌朝、目を覚ますとヒスイの姿がない。真帆は背筋が凍りついた。
「ヒスイさん?」
――どこへ行ったの?
真帆がちょうど部屋の外へ出ようとした時、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「おはようございます。お迎えに上がりました〜」
聞き覚えのある声にドアを開けると、トカが立っていた。真帆を見ると嬉しそうにほほ笑み、優雅に頭を下げた。
「真帆ちゃん、デートしよう」
「え? あ、あの、ヒスイさんは?」
「ああ、大丈夫、大丈夫」
トカは笑顔のまま真帆に答え、手を引いた。