思い
ヒスイの腕は温かく寒さを忘れさせてくれる。体温だけでなくドキドキしていることもあり、今度は熱くなって来た。
「温かいです」
ヒスイは満足そうに微笑んで、2人で宿を見つけ中へ入った。
木造造りなため、歩くたびにギシギシ音を立てる。魔法で室温は快適。大きめな部屋ということもあり、広々と使える。
真帆の活躍で人間への不信感がなくなったため、魔法使いたちも優しく接してくれる。
部屋にはベッドが2つ並んでいる。ふかふかで程よく弾力があり寝心地が良さそうだ。
ヒスイはベッドへ腰をかけ、真帆を呼ぶ。
隣においでと自分の座っている横をポンポン叩く。真帆は大人しく隣へ座る。
「ここには俺しかいないから、好きなだけ何でも話せば良い。どんなことを言っても良い。遠慮や我慢はいらない」
ヒスイは真帆の顔を見つめながら話す。真帆はうつむいている視線をヒスイに向けた。
「何でも?」
「ああ。何でも」
「信じられない……」
「信じられない?」
「はい。今の今まで、お父さんの娘だと思っていました。ヒスイさんも知ってたんですか?」
「いや、それは知らなかった。俺は真帆のことは子供の頃に初めて会って知ったからな」
「そうですか……」
「私にはアリッサさんのお父さんがお父さんだとは思えなくて、ずっと一緒に暮らして来たお義父さんのことが大切なんです」
「うん」
ヒスイは真帆の頭をゆっくりと撫でる。
「急にお父さんだって言われても……何で急にそんなこと言ったんだろう?」
「そうだな」
「アリッサさんのお父さんのことは好きですよ。でも……」
「納得出来ないならしなくても良いんじゃないか」
「え?」
「嫌なら嫌で良い。納得出来ないなら出来なくて良い。誰でもない、真帆が決めれば良いんだ」
「私は……両親の元へ帰りたい」
「そうか」
「心配してますよね?」
「そうだな、きっと今頃」
✧ ✧ ✧
真帆がいなくなったあの日の人間界では騒ぎになっていた。
時計の針は22時を回っていた。家の中を行ったり来たり、部屋を出たり入ったりしていた。
「警察には話したのか?」
「ええ。一体どこへ行ったのかしら? スマホも繋がらないの」
「約束は守る子なのにな」
2人は捜索願いを出した。それから1週間、2週間が過ぎて行った。何の動きもないまま……。
「真帆が帰ったら話すはずだったんだよな」
「そうね」
「あの話を」
「きっと知ったらショックを受けたでしょうけど……いつかは話さなければいけないから」
「ああ」
「どこへ行っちゃったの? 真帆……お願いだから無事でいて……」
「亜紀」
父は亜紀の肩をそっと抱き寄せる。
「きっと無事でいるから、信じよう」




